Be my baby①壮五から自分への「好き」が目に見えてわかるようになればいいのに。なんて思ったことが何回かある。
他人の気持ちは自分から見ることなんてできない。だから思いやりを持って他の人に接しましょう、なんて小さい頃施設や学校で習ったけれど、思いやりの規模だって人それぞれで、環と壮五は残念ながらお互いに必要な距離が足りてない。
撮影ではあんなにくっついてるのに、実生活ではさっぱりだ。
「俺たちの距離はこんなもんだよな」と思っていたけど、壮五のことが気になって、目で追うようになり、気づいたら今までの距離じゃ足りなくなった。壮五のことがもっと知りたくて、環のことを知って欲しくて、触れたくて、触れて欲しくて、そんなふうに思うようになった。
けれど壮五に触れるには勇気がいる。ばちっと静電気が走って痛くなってしまうような気がして。物理的な痛さはもちろん、壮五が環に触られたら嫌がるのかもしれない、とか。
そんなふうに思うのは壮五だけだった。
「MEZZO"が仲良くしてくれないと困るんですよ」
休み時間、環の前の席を陣取って一織がそう言ってきた。
こんなふうに一織からくることは珍しくて、クラスメイトに「四葉、そーちゃんさんと喧嘩でもしたのか」なんて声をかけられた。
「ちげーし!」
そーちゃんさん、は環がクラスの中でも壮五のことを「そーちゃん」と呼んでいるからで、周りもつられて「そーちゃん」と呼んだことに環が少しだけ文句を言ったからだった。
「そーちゃん」と呼んでいいのは環だけなんて思っているわけではないけれど「壮五のことを何も知らない奴がそーちゃんって呼ぶ」ことに少しだけもやっとしたからだった。(けれど壮五のファンが「そーちゃん」と呼ぶことには何にも思わない。それは壮五や環たちのことを好きと言ってくれてるからかもしれない)
「喧嘩してないんですか?」
「え、してねーけど」
「その割には最近逢坂さんを避けているように思いますが」
「んー……」
壮五が環を起こしにくることは毎朝のことだ。いちに、いちに、と声をかけながら手を引っ張って共同スペースに連れて行く。
だから環は壮五が部屋に来る前に起きて準備をし、先回りして共同スペースにいると、壮五が驚いたように「環くんすごいよ!」と笑顔で話しかけてきた。
(ほんとそーちゃんってバカ)
目覚ましを何個もかけて、壮五が来ないようにしているからなのに壮五は環の成長だ、と思っているのだろう。
(だって、手、繋いだらあの人に俺の気持ちがばれちゃうかもしれないから)
自分の中の毛糸がぐちゃぐちゃに絡まっているような、はっきりとできないような気持ち。
壮五の手に触れたら触れてほしい気持ちがあるのに、そんな気持ちが触れた場所から伝わってしまうような気がするのだ。
「いおりんの気のせいー」
まだこの気持ちを目の前の友人に伝える気持ちにもなれず、ごまかすように環は机に伏せて目を閉じた。
「ちょっと四葉さん! もうすぐ授業ですよ、四葉さん」