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    まこと

    玲明オンリー用。イベント後はpixivに掲載予定。

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    まこと

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    HiMERUがタコ部屋にいた頃の話。
    眠れないとジュンに駄々をこねるHiMERU。そこに巽が通りかかって夜のお茶会が始まる。
    「これを奇跡というのなら」にちょっとだけ続く話。

    オンリー終了後はpixivと雑多ポイピクにも上げます。
    タップで全文読めます。

    【玲i明Webオンリー】タコ部屋的 夜茶会 「…なみ、さざなみ」
    「ん…なんすか、まだ朝じゃないだろ…?」

    非特待生のタコ部屋の薄いカーテンをカラリと開けて、隣で眠っていたはずの元特待生が肩を揺らす。
    薄目を開けるとまだ真っ暗だし、体感的にも朝ではないことを直感する。

    「…眠れないのです。だから、ぼくに付き合うのです」
    「ハア〜?知らねえよ…オレは寝る」

    こいつがこの部屋に来て、何回目かの「眠れないのです」だった。
    毎回律儀に付き合っていたが、小さい子どもの親でもあるまいし、こうも頻繁に夜中に起こされるとこっちが体調を崩してしまう。今日こそは布団から出ない、と決意を決めて布団を頭から被った。

    「ちょっと、さざなみ!特待生の言うことが聞けないのですか」
    「今は特待生じゃねえでしょうが。ってことで、おやすみなさ…うわっ!」

    ばっと被っていた布団を取り上げられ、冷気に体がぶるっと震える。
    布団を握りしめて見下ろしてくる蜂蜜色の瞳に、溜息をつきながらのらりと起き上がった。

    「さざなみが起きないと布団は返しません」
    「なんなんだよほんと…」

    こっちは眠いんだっつーの、と毎回言っても聞かないので、今日はもう言うのをやめた。
    そうこうしていると、タコ部屋の入り口の扉が開かれる音がして二人してビクッと肩を震わせた。
    カーテン越しに歩いてくる人影に動けずにいると、やがてひょこっと顔を出した人物に思わず声が出た。

    「おや、お二人ともまだ起きてらっしゃったのですか?」
    「「巽先輩!」」

    柔和な笑顔を向けてくる憧れの人に、つい頬に熱が集まる。大人しく寝ていないところを見られたところが少し後ろめたくなって目を逸らす。

    「…あんたこそこんな時間に帰ってきたんすか」
    「さっきまでカタコンベにいたのですが、俺一人になったので帰ってきました。そうしたらなんだか楽しそうな声が聞こえてきたので」
    「別に楽しくないっすよ〜。コイツが寝れないからって無理矢理叩き起こしてきて…」
    「おや、HiMERUさん、眠れないのですか?」

    こちらに向けられていた目線が隣に移る。起こしてきた当事者ーーHiMERUはバツが悪そうに目線を彷徨わせている。

    「べ、別に、寝ようと思えば寝られるのですが。えーっと…そう、さざなみの寝言がうるさかったのです」
    「いや、完全に嘘でっちあげてんじゃねえか」

    責任転嫁しようとする隣人にまたひとつ溜息をつくと、クスリと頭上で笑う声がした。

    「…では、眠気が来るまでお話でもしませんか。何か飲み物を淹れますね。ここでは寝ている皆様の邪魔になりますので、外のベンチはいかがでしょう。上着を羽織れば寒くありませんし」
    「いいのですか?」
    「はい。俺にはそれくらいしか出来ませんが」
    「…オレも付き合います」
    「おや、ジュンさんも眠れないのですか?」
    「目が冴えちまったんで。コイツの御守り、巽先輩だけにさせるの申し訳ねえし」
    「誰が御守りなのですか!」

    ムッと頬を膨らませるHiMERUをなだめて、枕元に置いていたジャージを羽織る。

    「さざなみ、あれ、持って行きませんか」
    「あれ?」
    「最近やっているボードゲームです」
    「やるつもりなのかよ。あんた最近ハマってんな」
    「一緒にやっているさざなみもハマっているでしょう。今日は巽先輩も一緒にやるのです」
    「…まあいいけど。巽先輩がやるかわかんねーよ?…えーっと、巽先輩。手伝えることあります?」
    「いいえ、大丈夫ですよ。先に行っていてください」

    薄明かりの中キッチンで飲み物の準備をしている巽に声を掛け、懐中電灯とボードゲームを持ってタコ部屋近くにある屋外のベンチに座る。
    いつも眠れないと駄々をこね、ボードゲームをする時は、キッチンの机で懐中電灯の明かりを頼りに、二人で静かにやっているのだが。ここなら普通に喋っても問題なさそうだ。
    待っている間に空を見上げる。月はそろそろ満月になるだろうか。以外と明るくて足元が見えやすかった。晴れていて穏やかな夜だ。

    「お待たせしました」

    足音が聞こえると、トレーにマグカップを三つ乗せた巽先輩がやってくる。
    各々へマグカップを渡した先輩は、ベンチに置いてあるパッケージに入ったボードゲームに目をやった。

    「これをするなら何か机がほしいですな。少し待っていてください」

    トレーを預かると、巽先輩はパタパタとどこかへ行ってしまった。けれどすぐに木の箱を二つ手に提げて帰ってきた。

    「なんすかそれ、りんご箱…?」

    木箱の底を表にして、巽先輩はそれをベンチの前に置いた。ひとつはベンチと対角に置いて、先輩はそこに腰掛けた。

    「前に見つけたのを思い出しまして。綺麗なので机として使えますしね。まだあってよかったです。さあ、冷めないうちに召し上がってください」

    巽先輩のことだから、てっきり急須と茶碗が出てくると思いきや、手渡されたのはマグカップだった。

    「お茶かと思ったんすけど…違うんすね」
    「ええ。ミルクが入っていた方がほっとするかと思いまして、ココアにしてみました。はちみつがあったのでそれも少し入れてみましたが甘すぎたでしょうか」

    まだ湯気の立つそれを一口飲んでみる。

    「うっま!」
    「美味しい、です…!」

    思わず大きい声が出てしまうほどに、このココアは美味しかった。
    こんな時間に飲むからなのか、屋外という環境だからか。なんにしても、今まで飲んだココアの中で一番美味しいと思う。

    「それはよかったです」
    「え、これキッチンにあったやつっすか?」
    「はい。どこにでも売っているものだと思いますが…」
    「こんなに美味かったですっけ、これ?また作り方教えてもらっていいっすか」
    「別段変わったことはしていませんが…ええ、いいですよ」

    あまりに美味しすぎて、すぐに飲み干してしまった。HiMERUも同じようで空になったマグカップをじっと見つめている。

    「そういえばこのボードゲームはどんなものなのですか?」
    「巽先輩もやってみます?最近やってるやつで、最大4人まで出来るんすよ」
    「そうなのですか?では、せっかくなので参加させていただきましょうか」
    「今、さざなみと20対20で丁度同点なのです!」
    「結構プレイされているんですな。初心者なので、お手柔らかにお願いします」

    簡単にボードゲームの説明をして、最初は勝負なしで説明を兼ねてプレイする。
    そうして何戦かプレイしたところで、巽先輩ははたと思い出したように呟いた。

    「ところで、HiMERUさんはどうして眠れなかったのですか?何か悩み事なら…俺で良ければ相談に乗りますよ」

    そもそもこんなことになっている元凶。「眠れないのです」攻撃から始まった夜のお茶会。寝不足にはなるが美味しいココアが飲めたので今日はいいことにする。
    巽先輩の言葉にHiMERUは少し考えて、眉根を下げて嬉しそうに口角を上げた。

    「…いえ、悩み事、というか…今日はいいことがあったのです。それで、少し興奮してしまっていたようで…」
    「いいこと?」
    「そういえばあんた、なんか今日上機嫌だったよな」
    「詳しくは言えないのですが…いいこと、嬉しいこと、なのです。これでぼくは、特待生に戻れるかもしれません」
    「……」

    特待生に戻れる、その言葉に少しだけドキリとした。
    なぜかタコ部屋に入り浸ってる巽先輩はともかく、こいつは特待生に戻れるなら戻りたいはずで、こんな非特待生の集まるタコ部屋にはいたくないはずで。
    それでもまあまあ楽しそうにしているから、こんな不思議な関係も悪くないと思っていたところなのに。

    「…寂しくなりますな」
    「え?」

    巽の言葉に心の声を言い当てられたかのようで、ビクリと肩が跳ねた。

    「HiMERUさんが特待生に戻られたら、こんなことも出来なくなるのでしょうか。…たまには、顔を出してくださいね」
    「なんすかその転校する奴に言うみたいな台詞…それに、まだ特待生に戻るって決まったわけじゃないですし」
    「さざなみは黙っていてください。…まあ、忙しくなると思いますがたまになら…いいですよ」

    そもそも、この三人の中なら自分が異端は存在のはずだ。巽先輩は優しいから、いや、誰とも分け隔て無く接するから慣れてしまっただけで。悔しいけれど本当なら、自分なんかが隣にいていい存在ではない。

    「…HiMERUさん、ジュンさん。俺は、こんな風に特待生も非特待生も関係なくひとつの机を囲むことが出来る、そんな学園にしたいのですよ」

    ランタンの揺れる灯りに照らされて、ボードゲームを俯瞰する巽先輩の表情は、ドキッとするほど真剣な眼差しをしていた。
    あまりに一瞬で、見間違いかと思ったくらいで、すぐにいつもの笑顔で笑ってみせた。

    「だから、あなたたちがこうやって仲良くしてくださっているのを見るのが本当に嬉しいんです」
    「べ、別に仲良いわけじゃ…」
    「そうですね、そこはさざなみに同意します」
    「ふふ、ほら、息もぴったりですな」
    「「違います!」」

    声が揃ってしまってまた巽先輩に笑われた。こんなところで息が合わなくて良い、もっと合ってほしいところで合ってほしいと思う。
    ハア、と息をついて、なんとなくベンチと反対の方に目をやると、遠くで懐中電灯の明かりが揺れるのが見えた。
    巽先輩もそれに気付いたらしく、さっとランタンの灯を消した。

    「! 灯りを消して、静かにしてください」

    持ってきていた懐中電灯を消して、すっと身を屈める。
    警備員の巡回だ。そんなに悪いことはしていないが、見つかったら少し面倒だ。特に非特待生の自分なんかは。
    しばらくすると警備員の足音と懐中電灯の明かりは消えていった。
    巽先輩がランタンを再度灯して、小さな声で言った。

    「…そろそろ戻りましょうか。ゲームに夢中で巡回の時間になっているのに気付きませんでした。すみません」
    「巽先輩、巡回の時間把握してるんですか?」
    「まあ、それなりに」
    「そ、そっすか…」

    本当に抜け目のない人だ。まあ、そうでなければカタコンベでの活動も難しいだろう、と妙に納得してしまった。

    「巽先輩、付き合わせちまってすみません」
    「頭を使ったおかげで眠くなったのです…」
    「そうですか。新しいボードゲームも体験できたので、よかったです。またカタコンベにも導入しましょうか」

    本当に何をしているんだこの集団は、と眉を顰めてしまう。
    なるべく静かにタコ部屋へ戻り、後片付けと歯磨きをして各々の布団に入った。

    (HiMERUが特待生に戻ったら、か…)

    先ほどの話題をふと思い出す。
    なんだかんだでこの騒がしさも悪くないと思い始めていた頃だった。巽先輩が淹れたお茶やご飯を囲んで談笑する日々が。それも近頃は巽先輩が忙しいようで、前より機会が減っているのを残念に思っていた。
    どんどん、先を行かれてしまう。入学した日は同じで、、今は肩書きも同じのはずのHiMERUも、先へ進もうとしている。
    巽先輩はこれからもどんどん忙しくなるだろう。話を聞いているだけでも大変そうだということがわかる。
    自分だけが、何も変わらない。こんなに毎日足掻いているのに、誰も見てくれようともしない。

    (ああ、クソ…っ)

    こんな時は、なんと言うんだったか。巽先輩が教えてくれた言葉がある。

    (…じゃなくて、えーっと…GOD DAMN。人じゃなくて、神様に文句を言えばいいって、便利な考え方だよなあ)

    巽先輩の言う隔たりのない関係。そんなものに、この三人はなれていた気がするのに。
    それでも、離れていったなら追いつけばいいだけだ。努力はずっとしてきた。これからもやめるつもりは更々ない。
    いつか本当に対等な立場になってやる。HiMERUにも文句を言えないくらいに。

    結局最後のボードゲームの決着はつかなかった。またそのうち、三人で遊ぶことが出来たら。
    隣のカーテン越しから、静かな寝息が聞こえてくる。眠れたのか、良かった、と頭の端で思いながら眠りに落ちた。

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    まこと

    PASTHiMERUと巽とジュンと、Crazy:Bと、玲明学園メンバーのクリスマスの話。
    ほのぼのですが少しシリアス。いつかどこかであっただろう、IFの幸せ時空の話。巽がクリスマスに実家に帰らない時空。
    幸せなクリスマスがあると信じて。
    クリスマスに間に合うように書き殴ったので台詞多め。

    ※オブリガートの設定、ネタバレを含みます。
    十条兄弟→病院近くのマンションで暮らしている。溜まり場。
    これを奇跡というのならクリスマスイブ。昼過ぎにユニットでの仕事を終えて、星奏館へ戻る。
    今夜は借りているマンションで、要とCrazy:Bのメンバーとクリスマス会だ。二人きりで静かなクリスマスもいいと思っていたが、折角なら一緒にと提案をもらい賑やかな方が要も喜ぶだろうとその提案に頷いた。
    オードブルもケーキも、ニキが用意してくれたらしい。ただ作って食べてもらうのが好きなニキは、いつも予算オーバーの豪華なものを作ってくれる。これで、と渡した報酬の全てが材料費に消えているのではないかと思うほど。
    会場となる家の準備をするために、一足早く帰らせてもらう。他のメンバーは食べ物なりなんなりを後で持ってきてくれることになった。

    「お兄ちゃん!おかえりなさい」
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