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    reiwaruka00

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    reiwaruka00

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    凶悪組織梵天の新しいシノギ『イヌネコベーカリー』
    「結婚前夜、忘れられない元カレと……」のモブ運転手視点③
    🈁🐶♀前提なのですが、びっくりするほど🐶が出てこないです。
    モブ運転手の鈴木のおっさんと梵天にパンを売りに行く話。

    凶悪組織梵天の新しいシノギ『イヌネコベーカリー』🈁🐶♀前提なのですが、びっくりするほど🐶が出てこないです。
    モブ運転手の鈴木のおっさんと梵天にパンを売りに行く話。




    私は鈴木喜朗、歳は五十代を過ぎたあたり、いたって普通の善良な小市民だ。
    といっても仕事は善良とは言い難い、なんせ凶悪組織梵天の最高幹部九井一様のお抱え運転手だったのだから。
    しかしそれも過去の話で、今は移動販売車『イヌネコベーカリー』の専属運転手である。
    はずだった……。

    「はあ?今から?なんで?こないだ言った?聞いてねえよ?証拠は?絶対お前の伝達ミスだろ?ふざけんな?それでも幹部会ははじまっちゃうんだよね、じゃねえ!!!」
    三角巾とエプロンをつけたココさんがスマホに向かって声の限り怒鳴っている。
    高級食パンブームが来ているということで今日は一日三人で食パンの改良をしていたのだ、私は商品開発についてはさっぱりなのでほとんど見ていて、たまに試食するだけ。最近はココさんとイヌピーさんが幸せそうにいちゃいちゃしているのを新聞でも読みながら後方父親面で微笑ましく眺めるのが主な仕事だ。

    ココさんがこんなに乱心しているのはイヌピーさんが別の男と結婚しそうになった時……の方が情緒不安定だった。
    おそろいの三角巾とエプロンをつけた、イヌピーさんが不安そうにココさんを見て私を見る。いかにもどうしようと困っている。
    「イヌピー、ちょっと出る!鈴木のおっちゃん、車回して!」
    そう言ってバタバタと別室に入り、資料や端末を操作している。ひさびさに専属運転手だった頃みたいな声のかけ方をされた。はた、と思い至る。今日のココさんは梵天幹部としての仕事はオフだった。ココさんが普段使っている、つまり以前私が運転していた仕事用の高級外車はどこにあるのだろう。
    この山奥のパン屋に今あるのはイヌとネコのイラストがデカデカと入り、イヌネコベーカリーと可愛らしく入った移動販売車だけだ。乗り物というならイヌピーさんのバイクと運搬用の台車がある。
    車回して、ということはこの移動販売車で良いんだよな?ダメと言われても他の車はない。
    そう思って表に車を準備する。

    案の定、慌てて外に出てきたココさんは車を見て頭を抱えて崩れ落ちた。電話をかけていたようだが首を振ったので私も察した。ココさんのオフに合わせて休みを取るのが、専属運転手の常識なので、仕事用の高級外車は都内の事務所に併設された駐車場に置かれているということだろう。

    ココさんはすぐに気を取り直し、助手席に飛び乗った。万が一に備えて、この車は防弾ガラスだし、スピードもメーターを振り切っても出るように改造してある。自分で言うのもなんだが峠道のドラテクもある。車の多い都市部に出るまではかなり車を飛ばせるだろう。
    そう思って隣のココさんを見る。どうしよう、と思ってもう一度見た。
    その視線にココさんが不思議そうな顔をした。
    「どうした?ボスもくるんだ、急いでくれ」
    「幹部会、ですよね……その恰好で本当に良いんですか?」
    「あ?」
    出過ぎた真似かと思ったが、聞いてみる。ココさんが自分の恰好をみて言葉にならない声を上げた。
    黒の三角巾はつけたまま、それはまだ良いのだがエプロンが黒のチェック模様のカントリーな生地にはフェルトで黒猫が貼られている、ワンポイントとかじゃなく、かなりでかでかと。極めつけは「ここ」とひらがなではられているのだ。

    山奥はあまりやることが無くて、一か月くらい前にイヌピーさんがたまたま知り合った山の下の主婦に教えてもらったとフェルトの切れ端と布用ボンドを貰って来たのだ。既成のエプロンを自分でアレンジするというプリントを見ながら、ココさんと仲良くお互いのエプロンを作っていた。
    「エプロン増えたからな、イヌピーがアレンジしてくれると特別って感じ」
    「会うのも鈴木のおっちゃんだけだし、厨房と家の周りしか出ないからな」
    几帳面なココさんが作ったイヌピーさんのエプロンは可愛いらしいイヌがフェルトで作られ、INUPIの綺麗な文字が入っていた。私の勝手な判断だが、こっちなら人がいるところに着て行っても普通のエプロンで受け入れられたとおもう。だが失礼かもしれないがイヌピーさんの作ったココさんのエプロンは完全に小学生の図工、という感じだ。……小学生の家庭科、のレベルですらない。そのエプロンをつけて、幹部会……せめて外したほうがいいのでは。
    ココさんは難しい顔で腕時計を見て、自分の姿を見て、頭を抱えた。
    「車出して」
    「良いんですか?」
    「うん、スーツ着てたら間に合わない」
    常に隙の無いスーツでびしっと決めている男が、と思うが許可が出たので、アクセルを踏み込む。気持ち悪そうに口元を抑えるココさんを見て、そういえば昔も何度かこういうことをしたな、と思った。
    一年に一回以上くらいの頻度で抗争とか敵対組織とか個人的な恨みとかでカーチェイスはしていて、逃げ切った後私はココさんの命と自分の命を守れた安堵に爽快感があったけれど、ココさんはいつも反対に車酔いしていた。可哀想だけど、命のかかったドライブに安全運転もクソもないので仕方ない。今回もボスがくるということは遅れたら、大分マズいことになることは想像に難くなかった。容赦なくスピードを上げてカーブにツッコミ、ドリフトでガードレールすれすれを曲がる。
    断じて私の趣味ではない。

    山を下りきるとココさんがぽつりと、「悪夢のようだった……」と呟いた。聞こえないふりをして窓を開ける。人気が無かったのでスピードは出したが山道ほどではない。高速に乗ってしばらくたった頃、その異変に気付いた。

    「なんか聞こえないか?」
    「聞こえますね、パトカーかな?」
    バックミラーを確認するが特に緊急車両は見えない。
    窓を開けたココさんが顔を出して確認して、呆れたようにいった。
    「いや、なんで音楽流してんだよ」
    「え?」
    高速特有の車がすれ違う音でよく聞こえなかったが、おだやかな童謡がこの車から流れている。住宅街などでパン屋がきた合図にするための外部に向けた音楽再生機能だ。いつからついていたのだろう、つけたおぼえなど当然無いがうっかり手が当たってしまったのだろうか。押しボタン式のスイッチを押すがなんだか手ごたえが無い。
    「消えました?」
    「ついてる」
    「おかしいな、壊れたのかな……?」
    ココさんも手元を覗き込んで、スイッチを確認するがやはりスイッチを押しても止まらない。ボリュームメーターを調整しようとしても連動していない。

    思わず顔を見合わす。
    いくつかのメジャーな童謡が順番に流れるはずなのに、さっきから流れているのはずっと『いぬのおまわりさん』だった。
    凶悪組織の幹部が『いぬのおまわりさん』を流した車で幹部会に向かう……偶然の仕業なのだが、あまりにも皮肉なシチュエーションに思わず笑いが漏れた。
    「ははっ、おかしいな……」
    「ええ……すいません……」
    『いぬのおまわりさん』はとまらないし、幹部会の時間は迫ってしまうし、笑いも止まらなかった。

    梵天の幹部会はそれぞれの幹部のシマで持ち回りで行われる。港区のあのクラブ、と言われて今回は灰谷兄弟の番だったんだなと思った。何回か行ったことがあるので迷うこともなく、ルートは分かった。
    「少し、距離置いて止めます」
    煌びやかに着飾った人たちが行きかう港区の道路で『イヌネコベーカリー』の販売車はかなり目立っている。良い意味ではない。浮いてる。
    ココさんはちょっと考えたあと、首を振った。
    「いいよ、クラブの前にパーキングあっただろ。そこで良い」
    「……そうですか」
    そう言われては指示どおりに止めるしかない。

    幹部会が行われるクラブは店構えも高級感にあふれているが、今晩はあきらかにその筋と分かる車がずらっとならび運転手や部下や護衛が手持無沙汰に立っている。
    運転手同士は横のつながりというか、こういう会合の際に顔を合わせることが多いので、何人か顔見知りを見つけた。
    ただ、この『いぬのおまわりさん』を流しながらやってきた『イヌネコベーカリー』のいかにもパンを売っていますという車に幹部の九井一が乗っているとは思わないだろう。場違いな車に何人か不審な目を向けるが、大半は興味が無いようだった。

    「あの、三角巾とエプロンは外していくんですよね……?」
    おそるおそる問いかけるが、なにか考えがあるのかココさんは首を横に振った。
    ココは頑固だ、と言っていたイヌピーさんの言葉を思い浮かべる。
    「幹部会は別にドレスコードはない、クラブだって俺の顔見りゃ嫌とは言わないさ」
    そういってニヤリとあくどく笑う。
    「お、鶴蝶だ。横、割り込め」
    たしかに鶴蝶さんの車と運転手がクラブの前につけたところだった。
    どうにでもなれと横に割り込むようにつける。

    ぎょっと周囲が目を剥いた。
    パン屋の車が高級車の横に割り込んできたのだ。俺は周囲の警戒の視線を刺さるように一心に受けながら運転席を降りて、助手席を開けた。

    ゆったりと、どうどうと、ココさんが車から降りてくる。

    周囲の部下たちは、一瞬その姿に呆気にとられたがお疲れ様です。と声をそろえて頭をさげた。
    ココさんはそれに軽く答えながら、鶴蝶さんの肩をたたく。
    「よっ、鶴蝶」
    「え?は?九井か?どうしたその恰好」
    「いや本来のシノギやってるとこに、突然呼び出されてさ」
    「本来のシノギ?」
    「パン屋だよ、言ったろ?半年くらい前にさ、俺山こもってパン屋やるって言ったら幹部のやつらみんなしてげらげら笑いやがって。」
    「本当にやってたのかよ」
    ココさんが得意げにイヌネコベーカリーの車を指さすと、鶴蝶さんがぷっと噴出した。
    「有言実行な男だろ」
    「……ふふっ……そうだな……」
    「むかつくのは灰谷達だよ、今日だって俺だけにわざと幹部会の日程伝えなかったんだ」
    「慌ててる九井が見たいんだな」
    「迷惑過ぎる」
    「それにしてもその恰好ではいって、マイキー怒んないか?」
    「どうだろ、一応手土産は持ってきた」
    「手土産?」
    「俺の作ったあんぱん、やっと納得いくのできたんだ」
    「ふふ……俺の分ある?」
    「マイキー以外は有料」
    「さすが九井」
    鶴蝶さんと笑いあいながらクラブに入っていく姿を見送る。
    周囲の人間たちがいっそ不気味なものでも見るような表情でこっちをみていた。ちなみに『いぬのおまわりさん』はまだずっと鳴っている。
    こそこそと、あれ九井さんの……パン屋らしいぞ……?と声が聞こえる。幹部の物だと分かったら無駄なトラブルは起きないだろうとホッとしながら。車に乗り込んだ。

    ぎゃっはっはっはと耳障りな声が聞こえてきた。クラブから出てきた灰谷兄弟の兄の方が体をくの字におりまげて笑ってる。後ろから次々と幹部たちが出てくる。
    「まじでパン屋やってたんだ、それもこのなかで『いぬのおまわりさん』流してんの受ける」
    「よし、俺の作品見せてやるよ。鈴木のおっちゃん、後ろあけてくれる?」
    得意げにいったエプロン姿のココさんの指示に従い、後ろを開けると手作りのパンが出てくる。急に出たから積みっぱなしだったのだ。
    「へー、普通のパン屋みたい」
    「みたい、じゃなくて普通のパン屋なの」
    「ヤク入りとかじゃねえの?」
    「三途は黙ってろ」
    「一個百四十円?採算とれてんのか?」
    「まあ、売り上げはぼちぼち」
    「これ、ほうれん草とチーズのとこに草しこんで」
    「黙ってろよ、三途」
    「兄貴、俺これ食べたい」
    「明太フランス?定番じゃん、買ってやるよ」
    「俺、イチゴジャムのうさぎのやつがいい」
    「鶴蝶の分も買ってあげる」
    「草……」
    「薬中の分は買わねえ」
    そう言って灰谷の兄さんの方が財布から万札を取り出した。
    釣銭は防犯上の都合おろしてしまい持ってこなかったのだが、どうしよう。幹部相手になにも言えない。
    「おい、釣りはいらないよな。それか電子マネーで払え」
    察した九井さんがそう声をかけてくれた。
    「電子マネー対応してんのさすがココちゃんじゃん。いいよ、それとっといて。遅くなったけど開店祝いな」
    そう言われて札を受け取って商品を渡す。
    灰谷兄弟の弟の方は、明日食べよ、とスーツのポケットに無理やりしまったけれど、鶴蝶さんはその場で開け始めてようしゃなくイチゴジャムのうさぎを食べる。ご飯がまだだったのか、若いから食べられるのかな。
    三途さん、は買うでも食べるでもなく妙な目つきでパンを見ている。怖い。

    またクラブのドアが開いて、今度は明石さんと望月さんと、ボスが出てくる。
    ボスは初めてだが、おそらくココさんが渡したであろう見覚えのあるあんぱんを食べている。
    「中々やるな、九井」
    「そうだろ?金稼ぎだけじゃねえんだよ」
    ゆらっと現れたボスは人間っぽくない変な感じがした。
    「明石、甘いの全部買っとけ」
    「……はい」
    顔にはなんで俺が、と書かれている。
    「ココ、結構うまい。また持ってこい」
    そう言われてココさんは嬉しそうに笑った。

    幹部たちが去った後、怖いもの見たさというか、幹部が買ったという箔がついたのか、外にいた運転手や部下たちがパンを見に来た。
    「久しぶり、鈴木さん」
    これ九井さんが作ったの?すごいな」
    「うま……」
    夜食がてら食べ始める人もいて、あれよあれよという間に無くなってしまった。

    夜更けになって幹部が出てくる。
    またその車で来いよ、と声をかけられてまんざらでもないのか気が向いたらな、と返している。
    「完売したのか?」
    「おかげさまで」
    「ふーん……戻ったら明日の分、もう一度焼かないとな」
    そう言ってココさんはなにかを考えているようだった。
    「……ビジネス街への出店……深夜の駅での販売……翌日の朝食需要……コンビニやスーパーの少ないところへの販売経路……」
    ココさんはタブレットも使わずにビジネスチャンスについて考えているらしい。
    「……イヌピーもそろそろほとぼりさめるし、イヌネコベーカリー2号でも作って販売経路増やそうか」

    せっかくのどかなシノギなのに、ココさんの脳裏ではちっとものどかではないようだった。
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