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    アロマきかく

    @armk3

    普段絵とか描かないのに極稀に描くから常にリハビリ状態
    最近のトレンド:プロムンというかろぼとみというかろぼとみ

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    アロマきかく

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    某日誌4より。

    おっかしいなぁ…書きたかったところ一切書けてない…
    何はなくとも一旦絶望のズンドコに叩き落とすのがね、好きなんでね、もうそれだけでいっす。
    そーいや、なんだかんだで最初の犠牲者あんただったな。


    再挑戦押すの早くてよかったね。

    #ろぼとみ他支部職員

    円満退社 肌を、髪を、やや乱暴に風が撫ぜる。

    「う……」
     どこかの壁にもたれかかるようにして、気を失っていたようだ。

     違和感。

     風?
     ただの風ではない。鼻をくすぐるそれは、知らないはずなのに知っている。
     それが再び、大きく髪を薙いだ。

     潮の香り。



     一瞬にして顔から血の気が引く。

     やらかした。畜生、やらかした。

     直前の映像がフラッシュバックする。
     ジュースの自動販売機のような筐体と、その両脇に立つ、人ほどの大きさもあるエビ。
     『蓋の空いたウェルチアース』の作業をしていた。
     本能作業だっけか、洞察作業だっけか。作業の相性としては悪くなかったはず。

     記憶の蓋のほうは、なかなか開かない。
     ただ解るのは、作業結果が良くなかったこと。がこん、と収容室に響く音を立てて出てきたソーダの缶。既に蓋は開いていた。己の意思とは裏腹に、足が筐体の前へ。光るネオンサイン。自分の手が、蓋の開いたソーダの缶を握る。耳の奥から頭の中まで揺らす、アップビートの音楽。
     駄目だ、こいつを飲んだら。止まれ、待ってくれ、俺はまだ――

     手から缶が落ち、床にソーダが溢れる。急速に身体の力が抜け、まっすぐ立っていられない。ふらつくように後退り、収容室の壁にぶつかる。反動で身体が前方に傾き、そのまま膝から崩れ落ちた。
     薄れゆく意識の中、なんとか動いた手を無線にかける。くそ、せめて、せめて伝えないと、
    「管理人、すまない……ミス……った……」
     言い終わるかどうかというところで視界が暗転し、ふわりと身体が軽くなったのを感じた。



     思い出したときには、とうに手遅れだった。
     あぁ、『今回』はたった3日か。観測途中の不明な特殊能力でもない。管理人が指示を間違えたわけでもない。単純な、自分のミス。そうだ、あのときは洞察作業だ。そこまでドジ踏んだっけか。アイツの作業には結構『慣れていた』はずだったのに。
    「3日かぁ」
     思わず零す。たった3日とはいえ、そこに何もなかったわけじゃない。管理人の記録ミスではあるが同僚ができた。賑やかな二人。元気を形にしたような少女と、生真面目を形にしたような若造。それから、己のアドバイスによって雇用された、眩しくて温厚で、妙な趣味を持った男。そして今日雇用されたばかりの、誰にでも臆面なく話しかけることができるような陽気さと、薄く日焼けした健康そうな肌、けらけらと笑うその声もまた印象的だった青年。
    「……ふ」
     思わず自虐的な笑い声が漏れた。今俺は、コービンのことを若造呼ばわりしていたか。確かにあいつは若さゆえの青さが随所に見られた。管理人に認めてもらおうと必死になって業務をこなしていた。誰かに認めてもらえれば、何かが変わるはず。まるでそう信じているかのように。
     俺が言えたクチかよ。
     俺が足掻いて積み重ねていくのは、経験と知識だけ。所謂ただの頭でっかちって奴だ。残されたのは、人並みの、いや下手したら人より劣るであろう体力。少なくとも、あの元気そうな少女には勝てそうもない。勤勉さや努力の熱意は、あの生真面目そうな男のほうがずっと強い。初めての作業で、罪善に対してとんでもない性癖を語ってきた男の柔軟さと適応力には驚愕したもんだ。初対面の人物の前であそこまではしゃげる陽気そうな男の活力が羨ましかった。
     たった3日で。結構あるんだな。積もるものって。
     そうだ、グレゴリーの目の前でオフィサーが死んだんだっけか。『俺が選ばせた』コンテナのせいで。こんなことなら、真ん中の『アレ』でも入れさせときゃよかったか。いや、早いうちから管理人には耐性をつけさせないと、この先……

     俺には、あるのか?『この先』が。

     ん?これって、死んだわけじゃねぇよな。どうなるんだ?おい、まさかこのままってこたぁ――

     死ねない。それは困る。一体ここがどこなのかは知らんが、まだ俺は今ここで意識を保ってる。身体だって動く。ここで終わりになんてできるか。動けるなら、死なないと。戻れなくなったりしたら、それこそコトだ。
     入水でもするか?首でも括るか?ロープなら、そこら辺に腐るほど、……首……



     軋んだ音が耳に残っている。全力で走って息の上がっていた俺とは対象的に、『そいつ』は静寂を纏っていた。息が上がっているのに、呼吸ができない。目の前が歪む。現実感がない。疲労と目眩で、その場にへたり込んだ。酸素不足の頭に、殴られたような衝撃。
     ぶら下がった動かない脚を伝って、ぽたり、と液体の落ちる音。目が離せない。理性が警鐘を鳴らす。目を逸らせ。見てしまう。見るな。爪先から視線が上へ滑る。それ以上は駄目だ。だらりと力の抜けた手首。やめろ。胸についた涎の跡。やめろ。恐らくもがいた証であろう首筋の傷。やめろ。涙と鼻水と涎でぐちゃぐちゃになった顎。やめろ。やめろ。見るな。

     おれがみているのは、なんだ?



     かぶりを振った。過ぎたことだ。今更思い出したって、どうにかなるもんじゃない。でも今俺がやっているのは、生きるために死ぬ方法を探すという矛盾。死ぬための死じゃない。だが、あんたが……苦悩の末に選んだ死を、俺は必死に求めている。こんな滑稽な俺を、あんたは笑うのか?それとも呆れてるのか?生きるために死ぬ。まさか、羨ましがるんじゃねぇぞ。俺だって、死ぬために、生きるために必死なんだ。

     はっとした。なぜ今まで思い出せなかった。
     E.G.O、ヤツのE.G.Oは拳銃だ。まさに今朝支給されたばっかりだったじゃないか。どこだ、どこにやった?

     身体をまさぐろうとした瞬間、頭が真っ白になった。ない。銃だけじゃなく、防護服までもが。
     普段絶対に着ないTシャツの袖から生えた細い腕が、全てを語っていた。



     意識は、そこで途切れた。



     ――



     ウェルチアースの作業に失敗すれば死ぬことなくL社から身を引けるとは、果たして誰が言ったのか。

     あのソーダを飲んで眠った人間は、確かに漁船に攫われる。だが、ただの漁船じゃない。その正体は、都市伝説として語られている漁船そのもの。攫われた時点で肉体は消失。死亡扱いになるのはそのためだ。ただ意識だけが――どこぞの科学者の言葉を借りれば、魂だけが――そこに行く。

    『すべてのアブノーマリティは存在の理由がないかもしれない、しかし存在する意志はある』

     誰の言葉だったか。まさにアレもそのタイプだ。『蓋の空いたウェルチアース』という都市伝説は、その存在の維持のために人間を攫い続ける。攫われた人間は新たな都市伝説の登場人物となって語り継がれる。ただ語られるだけでは弱い。だが実際に人が消えてしまえば、俄然話は現実味を帯びる。人間を生贄にして自身を存続させているのだ。
     かの都市伝説、攫われた人物は皆死のうとしない。どうしようもない状況なのに、死のうとするパターンが存在しないのだ。何故か?

     あそこに逝った時点で、誰も死のうと思うことができなくなるから。そもそもあそこに死というものは存在しないのだ。

     単に生きたいと思うだけなら、それこそ都市伝説に取り込まれる。都市伝説のなかで、死にながら生かされる。アブノーマリティがアブノーマリティたる所以だ。人から生まれ、人によって生きている、存在している。人に、生かされている。



     そこまで書いて、結局全部消した。こんなもの、どうせ検閲後削除されるに決まってる。
     作業時に死ぬ理屈をうだうだ書いたところでどうにもならない。
    『作業に失敗したら死にます』現場の人間にとっちゃ、それだけで充分なんだ。余計なものをつければつけるほど混乱が生じる。
    『作業結果が悪かった場合、いかなるジュースも飲まないこと』あぁ、なんて簡潔でわかりやすい管理方法だろうか。実際は強制的に飲まされるなんて一言も書いていない。作業結果が悪かった時点で、何が書いてあろうが無意味だ。そこで終わりなんだ。
     俺は覚えている。自分の身体が勝手に動いて、飲めば終わりだと解っているソーダを自らの手で飲まされる恐怖を。あの漁船から伝わってくる、『死なせない』という意思の恐怖を。

     ……俺は、なんで死のうと思えたんだろうな。
     あんたか?あんたが俺を。俺が生き続けるために、俺を殺そうとしてくれたのか?

     なぁ。見てるんだろ?俺には見えてないだけで、本当はそこにいるんだろ?なぁ……

     俺は覚えている。そこに張り付いていた、嘗て見たことがない絶望と後悔に満ちた顔を。
     俺は覚えている。近くに置いてあったメモ、『ごめんなさい』と震えた文字、そこに滲んだ涙の跡を。
     俺は覚えている。普段見下ろしていたあんたを見るために、初めて見上げないといけなかった、その瞬間を。



     見上げて、手を伸ばしてみる。指先が虚しく空を切った。
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    アロマきかく

    MOURNINGコービン君から見た緑の話。
    と見せかけて8割位ワシから見た緑の話。未完。
    書き始めたらえらい量になり力尽きて改めて緑視点でさらっと書き直したのが先のアレ。
    コービン君視点、というかワシ視点なのでどうしても逆行時計がなぁ。
    そして33あたりから詰まって放置している。書こうにもまた見直さないといかんし。

    緑の死体の横で回想してるうちに緑の死体と語らうようになって精神汚染判定です。
     管理人の様子がおかしくなってから、もう四日が経つ。



     おかしくなったというよりは……”人格が変わった”。その表現が一番相応しい。むしろそのまま当てはまる。
     Xから、Aへと。

    「記憶貯蔵庫が更新されたらまずい……それまでになんとかしないと……」
     思い詰めた様子でダフネが呟く。続くだろう言葉はおおよそ察しがついていたが、念のため聞いてみる。
    「記憶貯蔵庫の更新をまたぐと、取り返しがつかないんですか?」
    「……多分」
    「多分、とは」
    「似た状況は何回かあった。ただし今回のような人格同居じゃなしに、普段はXが表に出ていてAは眠っている状態に近い……っつってた、管理人は。相変わらず夢は覚えてないし、記憶同期の際に呼び起こされるAの記憶は、Aが勝手に喋ってるのを傍観しているような感じだったらしい」
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