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    menhir_k

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    menhir_k

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    サルバ坑道の奥で双剣士の遺体からトレハンした小袋を開ける話アシュクロかクロアシュか判らないけど概ねホモ

    恋ふれど 静かな夜に、涼やかな虫の声が響いている。家主との会話に花を咲かせ、気が付けば日付けが変わる間近になっていた。
     長居が過ぎた、とクロードが充てがわれた部屋に戻ろうとしたところに小さく扉を叩く音が聞こえる。控えめなノックは、時間帯を気にしてのことかも知れない。家主と顔を見合わせ、クロードは首を横に振る。

    「開いてるぞ」

     家主がノックに応えた。蝶番を軋ませて扉が開く。隙間から覗いたのは慣れ親しみつつある少女の顔だった。月に似た髪飾りから、夜空に似た色の髪がこぼれ落ちる。レナだ。

    「夜分遅く、ごめんなさいボーマンさん。クロード、やっぱりここにいたのね」
    「ごめん、もう戻るよ。ぼくに何か用だった?」

     ボーマンに軽く会釈をすると、クロードはレナの待つ部屋の出入り口へと向かった。

    「用、ってほどのことでもないんだけど、スペクタクルズ余ってないかな、って」
    「聖地に経つ前に買い足したから在庫は結構残ってると思うよ。何で?」
    「ほら、サルバ坑道の奥でクロードとセリーヌさんがご遺体を見付けたじゃない。そのときの袋を開けてみないか、って話になったの」

     プリシスがすごく乗り気で。眉根を下げて困ったようにレナが笑う。このままだと自宅まで走って行ってスペクタクルズを取りに行く勢いらしい。息巻く元気な少女の姿が容易に想像出来て、クロードもつられるように笑った。
     サルバ坑道の奥で見付けた遺体が握っていた小さな麻袋を持ち帰ったのは随分と前になる。すぐに中身を確かめようとしたが、そのときはまだ鑑定スキルも低く長いこと後回しになっていた。

    「何だ何だ、鑑定か?解読か?昼間、古文書と一緒にキースのやつに押し付けちまえば良かったのに」
    「比較的新しいもののようですし、ただでさえご無理を言ってるわけですから、そこまでキースさんの手を煩わせるわけにはいきませんよ」

     興味があるのか、部屋を後にするクロードとレナの後を家主がついてくる。大所帯への一宿一飯の恩は大きい。断る理由もなかったので、結局三人で客間へ戻った上に、スペクタクルズまでボーマンが提供してくれた。鑑定の申し出まであったが、丁重に断り仲間内で一番鑑定に秀でたセリーヌにスペクタクルズを渡した。

    「やっとお宝の正体が判りますのね」
    「話を聞く限り、お宝って言うより遺品って感じだけどね―」

     それでも中身が気になるのか、プリシスはレナと並んで楽しそうに身を乗り出してセリーヌの手元を覗き込んでいる。そんな三人の後ろ姿を眺めながら、クロードは壁際で一人黙り込んでいるオペラへと近付いた。

    「前にも話しましたけど、大丈夫ですよ。ぼくらが見付けた人はエルネストさんのどの特徴にも合致しなかった」
    「……そうね。あとは手掛かりへの期待半分、と言ったところかしら」

     細められた琥珀色の三つ目が、紋章術で発光するランプの灯りに照らされて美しい黄金色に揺れる。憂いを帯びた横顔に、クロードが残りの半分への言及するより先に、鑑定を進める三人に動きがあった。

    「なぁに、これ?紙……手紙?あとは人形、かしら?」

     レナの上げた疑問符にオペラが顔を上げる。

    「えー、手紙かなぁ?字なのこれ?全然読めないじゃん」
    「どれ?わたしにも見せてちょうだい」

     次いで首を傾げながら発せられたプリシスの声に、思わずと言った様子で翻ったブランドをクロードは見送った。すかさずボーマンが肘で突付いてくる。ヘイゼルの双眸が徒に弧を描いていた。意味深長な生温い笑みに、クロードは溜め息で返す。

    「……そういうんじゃないです。オペラさん、恋人いるんで」
    「まだ夫婦じゃないんだろ。だったらいーじゃねぇか。若いのに貪欲さが足りんなぁ」

     隣でボーマンは面白くなさそうに肩を竦めた。冗談ではない。オペラの持つ、クロードでは決して持ち得ない情熱を羨むことはある。その成就を願い、応援したい気持ちもある。だが、それだけだ。他意はない。

    「ボーマンさんと違ってぼくらはこれからもこの面子で旅を続けてくんです。娯楽感覚で不和の火種を蒔こうとしないで下さい」

     オペラは失踪した恋人を追って、自ら進んで未開惑星にまでやってきたような女性だ。事故のような形で済し崩しにエクスペルに漂着したクロードとはまるで違う。ボーマンの期待する貪欲さは、彼女の情熱のようなもののことだ。偉大な父を通してでしか自分を見ない周囲の視線に晒され続け、いつしか何を求めても虚しさを感じるようになっていたクロードにとって、ボーマンの期待する貪欲さは自身と一番縁遠い感情であるように思えた。
     それでも、と何か言いたげに口を開きかけたボーマンを遮るようにセリーヌが声を上げた。

    「そんなところにいつまでも立っていないで、クロードもこちらを見て下さいな」

     手を拱くセリーヌに呼ばれ、渡りに船だと喜んでクロードは壁から背を浮かせる。ボーマンもついてくるが、これ以上不毛な会話を長引かせることはしないだろう、とクロードは判断した。
     レースのあしらわれた手の平の上には、不可解な小物が乗せられている。褐色とも金色ともつかない色をした物体の大きさは、小指の爪の先ほどにも満たない。三方向に向けて突起が出ており、中心にかけて厚みがある。レナが人形、と言っていたのはこれかも知れない、とクロードは思った。

    「随分小さいですね、木彫りかな?」
    「どうかしら。これ、とても軽いんですのよ」

     指先で持ち上げ、そのままクロードの手の平に人形のようなものが乗せられる。確かに軽い。重さは殆んど感じなかった。ボーマンもクロードの手の平を覗き込んでくる。

    「……こりゃあれじゃないか?烏瓜の種。濡れてると光沢のある黒い色をしてるんだが、乾くとこんな具合に皺が寄って模様が浮かび上がるんだ」

     ボーマンが人形のような物の真ん中辺りを指した。茶褐色の中には細かなざらつきのような隆起が見て取れ、その凹凸が種を金色に見せている。
     クロードとセリーヌは顔を見合わせた。

    「烏瓜、ってあの朱色の実のことですわよね?でも、どうして種だけ?」
    「んなのおれだって分からん」
    「話に聞いたことしかなかったけど、ぼくの故郷では烏瓜の種は縁起物として持ち歩いたりもするみたいですよ」

     クロードの発言に、今度はセリーヌとボーマンが顔を見合わせる。地球でも一般的ではないが、エクスペルにもない習慣らしい。

    「果肉の方は薬になるんですよね。確か、霜焼けの」

     薬を作った残骸の可能性もある。けれど種を、それも一粒だけ持ち歩く理由は分からない。

    「お。よく知ってるなクロード。その通りだ」

     感心したようにボーマンが肯く。

    「ボーマンさんが教えてくれたんじゃなかったでしたっけ」
    「おれがいつお前に教える暇があるんだよ」

     ボーマンは声を上げて陽気に笑った。クロードが冗談を言ったと思ったようだ。
     確かに、ただ立ち寄っただけの町の薬屋に調合を伝授される機会があるとは思えない。けれど何故か、クロードは誰かと共に、この男に烏瓜の扱いの手解きを受けたことがあるような気がした。
     また変な夢でも視たかな。首を傾げる。手の平の上の烏瓜は鈍い輝きを放つだけで、クロードの疑問には応えない。考えても仕方がないことだ。割り切って種をセリーヌに返す。オペラたちの方も、相変わらず首を捻っているようだ。

    「レナの言う通り、わたしもこれ、やっぱり文字だと思うわ……見たことがある気もするんだけど」

     思案深げに伏せられた睫毛が弧を描く。オペラが見たことがあるというのなら、銀河連邦傘下の惑星の文字かも知れない。
     興味を引かれ、クロードも身を乗り出す。気配に気が付いたオペラに目配せを受け、レナから紙切れを手渡れた。
     紙自体は新しい。ごく最近書かれたものだということが知れる。そして、クロードは小さく息を呑んだ。紙に書かれていたのは、拙く、読み難いが、確かに地球の文字だった。

    「……いつしかと、待つらむ妹に……たまづさの」

     言だに告げず往にし君かも――紙に書かれた掠れた文字を読み上げる声は尻すぼみに途切れて、最後は殆んど音にならなかった。それでも耳敏くクロードの声を拾い上げたセリーヌが反応する。

    「それ、クロードの故郷の詩、でしたかしら?あなたと同郷の方の可能性もありますのね」

     そんなわけがない。クロードは叫び出しそうになった。

    「どうりでわたしも、見たことだけはあるわけね。でも、一般的なものじゃないわよね」
    「……ええ。ごく限られた、一部の地域でのみ使用されるものです」

     オペラの疑問に、辛うじてそれだけを返すとクロードは黙り込んだ。恋人とは結び付かない情報に、落胆と安堵の表情を浮かべる彼女を気遣う余裕はなかった。
     サルバ坑道の最奥で朽ちていた遺骸を思い浮かべる。腐敗した肉に、生前の面影はなかった。骨格から恐らくは男性であることと、テトラジェネシスではないことだけは判別出来たが、それだけだ。だから、クロードよりも先にエクスペルに漂着した地球人だったのかも知れない可能性には思い至らなかった。セリーヌが衣服に着目していたので、地球人と交流があったエクスペル人という可能性もある。全ては想像の話だ。答えはない。
     港町で竜の騒ぎを聞いたあのとき、サルバに引き返していれば何かが違っていたのかも知れない。生きている彼と、或いは言葉を交わす未来もあったのかも知れない。けれど、彼は死んでしまった。だからクロードには何も分からない。死体は何も語らない。

    「君は誰だ」

     漠然とした後味の悪さだけが、クロードに残った。
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    menhir_k

    REHABILI最終ターン!一応アシュクロアシュ最終ターン!!アシュトンのターンタターンッ!!!
    章を断ち君をとる ハーリーを発ったアシュトンは、南へ急いだ。途中、紋章術師の集落に補給に立ち寄る。緑の深い村はひっそりと静まり返り、余所者のアシュトンは龍を背負っていないにも関わらず白い目を向けられた。何処か村全体に緊張感のようなものが漂っているようにも感じられる。以前訪れたときも、先の記憶で龍に憑かれてから立ち寄ったときにも、ここまで排他的ではなった筈だ。アシュトンは首を傾げながらマーズ村を後にした。
     更に数日かけて南を目指す。川を横目に橋を渡り、クロス城の輪郭を遠目に捉えたところで不意に、マーズ村で起きた誘拐事件を思い出した。歩みが止まる。誘拐事件を解決したのはクロードたちだ。マーズ村の不穏な空気は、誘拐事件が起きている最中だったからだ。どうしよう。戻るべきだろうか。踵が彷徨う。来た道を振り返っても、マーズは見えない。もう随分と遠くまで来てしまった。今戻っても行き違いになるかも知れない。それに、ギョロとウルルンを放って置くことも出来ない。龍の噂はハーリーにまで広まっていた。アシュトン以外の誰かに討ち取られてしまうかも知れない。時間がない。
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