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    menhir_k

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    menhir_k

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    最終ターン!一応アシュクロアシュ最終ターン!!アシュトンのターンタターンッ!!!

    章を断ち君をとる ハーリーを発ったアシュトンは、南へ急いだ。途中、紋章術師の集落に補給に立ち寄る。緑の深い村はひっそりと静まり返り、余所者のアシュトンは龍を背負っていないにも関わらず白い目を向けられた。何処か村全体に緊張感のようなものが漂っているようにも感じられる。以前訪れたときも、先の記憶で龍に憑かれてから立ち寄ったときにも、ここまで排他的ではなった筈だ。アシュトンは首を傾げながらマーズ村を後にした。
     更に数日かけて南を目指す。川を横目に橋を渡り、クロス城の輪郭を遠目に捉えたところで不意に、マーズ村で起きた誘拐事件を思い出した。歩みが止まる。誘拐事件を解決したのはクロードたちだ。マーズ村の不穏な空気は、誘拐事件が起きている最中だったからだ。どうしよう。戻るべきだろうか。踵が彷徨う。来た道を振り返っても、マーズは見えない。もう随分と遠くまで来てしまった。今戻っても行き違いになるかも知れない。それに、ギョロとウルルンを放って置くことも出来ない。龍の噂はハーリーにまで広まっていた。アシュトン以外の誰かに討ち取られてしまうかも知れない。時間がない。
     引き返したい気持ちを抑えて、アシュトンは再び南へと急いだ。きっとまた会える。クロードたちは来てくれる。不安を打ち払い、再会を信じて歩き出した。
     クロスにも補給にだけ立ち寄った。西の港町が津波に呑まれた話を聞いた。ソーサリーグローブの影響だ。みな一様に沈んだ表情をしていた。アシュトンだけがクロードとの再会の予感に浮足立ち、胸を踊らせていた。再会の予感に背中を押され、アシュトンはクロスを後にした。
     弾む足取りで緑の絨毯を蹴る。サルバはすぐそこだ。丘の斜面に、真珠のような朝露の粒が煌めいて見えた。雲一つない青い空に、ひばりの鳴く声が刺さる。美しい詩のような朝を駆けて、アシュトンはサルバへと辿り着いた。
     岩壁に囲まれた鉱山の町は、武器を持った戦士の姿が目立った。覚えのある殺気立った緊張感に目を細める。馴染み深い殺伐とした空気は、アシュトンに懐かしさすら感じさせた。
     町の中に踏み入る。人々の会話に耳をそばだてたが、殆んどが以前にも聞いたことのある坑道の奥の魔物龍に関するものばかりだった。中には領主の息子の花嫁が連れ去られた類いの会話もあった。過去に聞いたときは酷い話もあるものだと思ったものだが、真相を知る今となってはあてにならない噂話に失笑を禁じ得ない。クロードに会ったら、この話でからかってやろう。アシュトンは思った。
     そこで、ふと気が付いた。アシュトンがクロードとの思い出を記憶に留めているように、クロードはアシュトンのことを覚えていないかも知れない。覚えているかも知れない。分からない。ただ、ラクールを発ちサルバへと向かう道程で出会った人々は、ソーサリーグローブの正体も宇宙を脅かした危機も拓かれた世界も知らない様子に見えた。クロードもアシュトンを覚えていると信じて疑わなかったが、ここに来て急に不安になる。レオンにも会えなかった。きっとレオンはアシュトンを覚えていなかった。だからアシュトンに会いに来なかった。
     立ち尽くす。まるで他人のような顔で、馬鹿みたいに一人浮かれるアシュトンに向けられるクロードの白けた眼差しを想像する。恥ずかしい。耐えられない。アシュトンは顔を覆った。
     不意に、甘く香ばしいにおいが鼻腔に届いた。顔を上げる。においは戦士たちで賑わう酒場から漂ってくるようだった。玉ねぎをバターで炒める香りだ。ハンバーグの下準備でもしているのかも知れない。以前も、竜の巣に挑む前にアシュトンはこの酒場でハンバーグを食べた。アシュトンの好物だと知ったクロードと、何度も作ったことも思い出した。徐々に色付いていく玉ねぎを眺めて、メイラード反応だ、と楽しそうに言っていたクロードの横顔が蘇る。あのときのアシュトンはまだクロードが遠い星の人間だということを知らず、年下の友人の不思議な知識の豊富さに純粋に驚いていた。何も知らなくても惹かれていた。そうだ。たかが記憶がないだけだ。例えクロードが覚えていなくても、アシュトンが覚えている。それで充分だ。
     酒場の看板を見上げる。身体は空腹を訴えていた。クロスを急ぎ発ち、その間まともな食事をしていない。だから、立ち寄ってハンバーグを食べても良いかも知れない、という気持ちになった。クロードが星に帰ってから、初めて思った。
     少しだけ迷って、アシュトンは酒場に背中を向けた。ハンバーグは食べたかった。けれど、どうせならクロードと食べたいと思った。一人で食べても意味がない。だから、今食べるのはやめた。
     坑道の入り口は静まり返っていた。以前にも見た光景だ。魔物退治を生業とするアシュトンにとっては珍しくもない、今までこなしてきた多くの依頼の一つになる筈だった。一歩間違えれば生命を落とす。けれどそれも日常だった。だから、竜の巣を前にしても何らかの感慨を覚えた記憶はない。だが、今はどうだ。あのときとはまるで違う。胸は高鳴り、高揚している。どうしようもなく、焦がれている。
     クロードに泥む、この想いを何と呼べば良いか分からない。もう一度会えば分かるかも知れない。会っても矢張り何も分からないかも知れない。分からない。もう一度出会わなければ、分からないことも分からない。
     ひっそりと口を開ける竜の巣に向かって、アシュトンは走り出した。恐れはなかった。希望と喜び、そしてもう一度クロードと出会える好機をくれた神のようなものへの感謝だけを胸に抱いて、深く暗い穴の最奥を目指した。
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    menhir_k

    REHABILI最終ターン!一応アシュクロアシュ最終ターン!!アシュトンのターンタターンッ!!!
    章を断ち君をとる ハーリーを発ったアシュトンは、南へ急いだ。途中、紋章術師の集落に補給に立ち寄る。緑の深い村はひっそりと静まり返り、余所者のアシュトンは龍を背負っていないにも関わらず白い目を向けられた。何処か村全体に緊張感のようなものが漂っているようにも感じられる。以前訪れたときも、先の記憶で龍に憑かれてから立ち寄ったときにも、ここまで排他的ではなった筈だ。アシュトンは首を傾げながらマーズ村を後にした。
     更に数日かけて南を目指す。川を横目に橋を渡り、クロス城の輪郭を遠目に捉えたところで不意に、マーズ村で起きた誘拐事件を思い出した。歩みが止まる。誘拐事件を解決したのはクロードたちだ。マーズ村の不穏な空気は、誘拐事件が起きている最中だったからだ。どうしよう。戻るべきだろうか。踵が彷徨う。来た道を振り返っても、マーズは見えない。もう随分と遠くまで来てしまった。今戻っても行き違いになるかも知れない。それに、ギョロとウルルンを放って置くことも出来ない。龍の噂はハーリーにまで広まっていた。アシュトン以外の誰かに討ち取られてしまうかも知れない。時間がない。
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