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    kitakaze_g

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    kitakaze_g

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    アハキィ

     ふと、物音で目が覚める。辺りにアビスの気配はなく竜でも近くを通ったのかと思ったが、生き物の気配はない。気のせいかと思ってもう一眠りしようとすると、再び音が聞こえた。
    「かあ…さん…」
     その声はキィニチの寝言だった。キィニチは両親と暮らしていないが、時々魘されながら父や母を呼ぶことがある。
     親と離れて寂しいなんて可愛いところもあると思うが、その顔はいつも険しい。どんな夢を見ているのか覗くことなど、この偉大なる聖龍クフル・アハウには容易く、盗み見てやろうと思ったのは本当に気まぐれだった。
     気軽に見た光景は、くだらない人間の残忍で愚かな姿だった。こんな目にあっても夢で父母を求めるキィニチは愚かとしか思わないが、人間には情というものがある。それが、過去の記憶を捨てきれない理由なのだろう。
     見ていると無性に腹が立っていき、父親を食い殺してやりたくなったが、夢の中で父親はあっけなく死んだ。殴る蹴るが日常だったのに、それでも涙を流しそうになるキィニチはやはり愚かだった。
     それ以上見るのはやめ、ふらりと散歩に出かける。くだらない人間の争いに飽き飽きしたので、新鮮な空気を吸おうと思ったのだ。
     途中、美味しそうな果物を拾ってキィニチの側に置いたのは気まぐれだ。拾い食いして腹でも壊せばいいと思っただけである。グレインの実だけなかったのも、たまたま見つからなかっただけなのだ。
     
     翌朝「果物に毒でも盛ったのか?」と疑いの目を向けられ、全てその辺を歩く竜の餌にされてしまった。勿論、一口齧って毒がないかを確認してからだ。
     毒がないことに不思議そうにしていたが、竜の餌にしたことに文句を言えば煩いとばかりに閉じ込められてしまった。
     まったく、思いやりの欠片もない従者である。今度の戦闘では絶対力など貸してやらないとアハウは心に誓うのであった。
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