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    kitakaze_g

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    鍾魈
    空を散歩する鍾離と魈のお話

    空中散歩「それにしても、まさかこんなに竜の姿を見かけないとは」
    「それだけナタが特殊な環境なのだろう。璃月の民からすれば、竜が犬や猫のように普通に生活している方が驚きだ」
     ナタから来た竜医であるイファに璃月を紹介しながらナタの状況を聞かせてもらう。旅人からうっすらと聞いていたが、ナタ人から直接聞けるのは良い機会だと思い、鍾離は璃月港に来ていたイファに声をかけた。
     見た目でナタ人とわかったが、まさか竜を連れて観光に来る者がいるとは思わなかった。
     遠巻きに見ている者、商売の匂いを感じて近づく商人など、璃月人の対応はそれぞれ。十缶買うとお得と悪徳な商人から声をかけられている姿を見て、鍾離はイファに近づいた。それから、港を歩きながら親睦を深めている。
    「ほう、そちらの竜はイファ殿を掴んで飛ぶことができると」
    「身体は小さいがカクークは意外と力持ちでな」
    「まかせろ、きょうだい」
     カクークは自慢げにイファの帽子の上に乗っている。竜医というだけあってかなり仲睦まじいようだ。それに触発され、鍾離も美しい小鳥の姿を思い出していた。
    「俺にも仲が良い小鳥がいて、時々家に羽を休めに来てくれる」
    「小鳥か…。それなら家で飼った方が安全じゃないか? この辺はヒルチャールがよく出没するだろう」
     ナタにもヒルチャールはいるが、竜はある程度戦える力を持っている。小鳥など、うっかり対峙したら逃げられないと考えたのだろう。
    「確かにその方が安全だが、彼は自由を好んでいる。頼めば居ついてくれるかもしれないが、俺は彼の意思を尊重したい」
     願えば魈はきっと鍾離の家に住んでくれるだろう。だが、それは鍾離が望む答えではない。いつか、彼が自ら家に帰ってくるようになることを心待ちにしている。
    「なるほど。確かに、俺も最初はカクークに自由に暮らしてほしかった。だが、コイツは俺から離れたがらなくて、結局今回の旅も付いてきた」
    「あたりまえだろ、きょうだい」
     置いていくなど許さないといった雰囲気でカクークはイファの頬に身体を擦り付けている。あのように魈も懐いてくれたらと想像していたところで璃月港の入口に辿り着いた。
    「今日は案内してくれて感謝する。これからモンドへ向かおうと思っているんだ。風神と共にいた龍の話を現地で直接聞きたいと思ってな」
    「なるほど。それなら途中にある望舒旅館に立ち寄るといい。露台から、ナタでは見られない美しい景色を見ることができるぞ」
    「望舒旅館だな。覚えておく。では行くか、カクーク」
     イファは鍾離に手を降って笑顔で去っていった。その姿が見えなくなったところで鍾離は璃月港と反対方向に歩き出す。そしてすぐ近くの大木に目を向けた。
    「魈、其処にいるのだろう?」
     気配を消しているが、鍾離には容易に見つけることができる。一筋の風と共に魈が姿を現し、すぐに頭を垂れた。
    「後をつけるような真似をして申し訳ありません」
    「構わない。イファ殿のことが気になったのだな」
    「はい。層岩巨淵で竜の足に掴まって飛んでいるところを見かけ、ずっと尾行しておりました。あのような者は初めて見たので」
     璃月の歴史上、カクークのような竜が存在したことはない。魈は璃月を出たことがないので、見たのは初めてのはずだ。
    「ナタではあれが普通なのだそうだ。旅人も言っていた」
    「あれが、ですか?」
     魈は不思議そうに首を傾げている。少し幼く見えるその素振りに笑みを浮かべながら鍾離は魈の頬に触れた。
    「お前も、俺を運んだことがあるだろう。覚えているか?」
     耳元で吐息を交えながら囁くように話すと、魈は頬を染めて俯きながら頷いた。
     あれは魔神戦争の最中。追い詰められた魔神は翼を広げて逃げ出した。すぐに留雲や魈が追いかけたが、魔神は飛行状態の時のみ風に抵抗力があるらしく、二人の攻撃は全く効かなかった。
     その場にいる飛べる者は全て風を主としていたため、攻撃する手段がない。このまま逃すわけにはいかず、周囲がどうしたものかと考えていたところでモラクスは武器を構えた。
    「俺が行こう」
     弱っている今が敵である魔神を仕留める絶好の機会。隠れるのが上手い奴なので、逃せば厄介なことになる。
     いつもならモラクス自ら出向くことを止めるが、時は一刻を争う。魔神を倒す策がすぐには浮かばず、誰も止める者はいなかった。
    「魈、俺を運んでくれるか」
     槍で物理的に攻撃を仕掛けようと今にも飛び出しそうな背中に声をかけると、魈は武器を消してすぐモラクスに跪いた。
    「承知しました」
     言葉と共に魈の身体が光に包まれ、美しい仙鳥の姿になる。余り見せることのない姿で、初めて見る者もいたのか、周囲からざわめきが聞こえた。
    「どうぞ、我をお使いください」
    「助かる。落下を防止するため、岩で足を固定するが構わないか?」
     魈はモラクスの配下になる前、別の魔神に虐げられていた。それ故、拘束を嫌うと思って声をかけたが、魈は戸惑うことなく頷いた。
    「問題ありません。お掴まりください」
     魈は足が掴みやすい高さで飛び、モラクスはその足をそっと掴む。そのまま、手を離しても落ちないように岩元素で固定した。
    「行くぞ、魈」
    「はい!」
     仙鳥姿の魈が翼を広げ、魔神目掛けて飛んでゆく。心なしかいつもより速度は抑えめだ。本来の魈ならもっと早く野山を駆け回っている。
    「魈、俺のことは気にしなくていい。普段通り魔神を追跡してくれ」
     掴まっているモラクスを考慮しての速さだと察して声を掛けると、魈は小さく頷いた。
    「承知しました。もし何かあれば仰ってください」
    「わかった」
     返事をした瞬間、一気に魈が加速する。一瞬、余りの強風に息ができなかったが、何とか持ち直して前を見据える。逃げ出した魔神にはすぐに追いつき、モラクスは槍を構える。
    「まずは奴は地面に落とす。攻撃しやすいように飛んでくれ」
    「はい」
     魈は羽ばたき、魔神の攻撃を避けながら近づいていく。
     魈の槍さばきや攻撃の基礎はモラクスが教えた。出会う前から強かったが、救い出してから基礎を叩き込むと、さらに強さに磨きがかかった。戦い方もモラクスに似ていて、魈はモラクスが思った場所へと飛んでいく。
     以心伝心だな、と笑みを浮かべ、モラクスは槍を振るう。魔神が地へと落ちたのはすぐだった。
     あの時は景色を見る余裕などなかった。けれど、今ならゆっくりと飛ぶことができるだろう。
    「魈、この後、時間はあるか?」
    「はい。妖魔の気配は落ち着いているので」
    「それなら、今からイファ殿のように一緒に空を散歩しよう」
     今まで徒歩で璃月を何度か散歩したが、空を飛ぶことはなかった。絶雲の間か孤雲閣なら飛んでいても凡人に見つからないし、他の仙人に見つかっても何か言われることはないだろう。
    「空を、ですか?」
    「あぁ。絶雲の間…、もしくは狐雲閣でも構わない。好きな方を選んでくれ」
     どちらも凡人が寄り付かないので散歩には最適な場所だ。魈は悩んでいるが、散歩には抵抗はない様子。少し考えた後、答えが出たのか魈は鍾離を見上げた。
    「では、絶雲の間にしましょう。妖魔も少なく此処から行きやすいので」
    「わかった。では、今すぐ向かおう」
     孤雲閣だと海を渡らなければいけないので少々骨が折れる。だが、絶雲の間なら少し歩けば着く。
     散歩しながら二人で歩き、絶雲の間に到着すると、魈が鍾離を見上げた。
    「鍾離様、お手を」
     魈が手のひらを見せながら両手を差し出してくる。てっきり前のように鳥の姿に変身するのかと思ったが、何か考えがあるらしい。
     不思議に思いながら両手を握ると、魈が目を閉じる。すると、身体に風元素が巡り、魈の背中から美しい翼が広がった。
     翼が羽ばたくと同時に、魈が纏っていた風元素が鍾離の身体を包み、足が地面を離れる。
    「これは…」
    「散歩でしたら、あの時のように我の足に掴まるより、この方が良いかと思いまして」
     重力に逆らうように二人の身体が浮かび、風に乗るようにゆっくりと移動していく。風に乗ると、魈が片方の手を離しても空を飛べるようになった。
    「我の手を離さなければ、元素の力でいつまでも飛ぶことができます。お気に召していただけましたでしょうか?」
     魈が不安そうに顔を覗き込んで来るので、手を引いて抱き寄せる。そのままそっと頭を撫でた。
    「ははっ、最高だ。このままゆっくり絶雲の間を巡ろう」
    「はい」
     僅かに頬を赤らめた顔に笑みを浮かべると、魈の口元が少しだけ緩む。その笑顔に心が温かくなり、唇を重ねた。
     このままもっと深いところまで追い込みたくなったが、空の散歩は始まったばかり。すぐに離して、魈がよく羽を休める場所に連れていってもらい、二人の時間を楽しむのであった。
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