黄昏色 ぼやけた視界に、暗い色が見えた。
よく見ればそれはオベロンの顔を流れる髪で、しかもなおもよく見ればその瞳を閉じてよく眠っている。
狭いベッドの上で、ふたり。
今、何時だろうか。
よくよく思い出せば、オベロンが寝ているところをあまり見た事はなかった。サーヴァントに睡眠は必須ではない、なので何故今眠っているのかもよくわからなかった。
改めて、まじまじとその顔を見る。
普段はなんとなく目を合わせる事すら気後れしてしまって、こんなにじっくり顔を眺めた事なんてなかった。
端正な……綺麗な、顔だなと思う。
眠っている事がなお一層その美しさに拍車をかけて、なんとなく目が離せなくなってしまった。
普段は虫だのなんだのと自分を卑下する彼だったが、それでも綺麗なものは綺麗だった。
そんな顔がふと動いて、ぼんやりとした様子で私の顔を見る。
「オベロン……?」
返事はない。まだ眠い様子で、瞼がゆっくりと上下している。もしかして、本当に眠っていたのだろうか?
「…………え、寝てた?」
「悪いか?」
こんなに眠そうな様子、本当に見ないのだ。どうして今そんなに眠たげなのかがわからなくて、ついつい本心が漏れてしまう。
「オベロンも眠くなる事あるの? サーヴァントなのに?」
「…………あー、そうだよ。性行為の後眠くなるの、無駄にきみたち人間と同じみたいで」
確かに、私もすぐ眠くなってしまって……今も、昨夜の行為の直後に寝落ちしてしまった事でこうなっている。
「ふふ、私と同じなんだね」
「なんだそれ? ニヤけた顔が気持ち悪いぞ」
そう言われた通り、私の頬は緩んでしまっていたと思う。何もかもが違うと思っていた相手の、思わぬ共通点を見付けてしまったのだ。なんだか少し、いや、かなり嬉しくなって。
「気持ち悪くて構いませーん」
そう言って仰向けになると、まっさらな天井が見えた。まるで白紙化した地球のような、白く何も無い天井。ふと、汎人類史の世界がフラッシュバックする。
美しい大地、美しい海原、美しい青空。
また見る事が叶うのかがわからなくて、不安になって、なんとなくふとんを目深に被ってしまった。
それでもこのままで、こんな世界でいいはずがない。
そう思って寝返りを打ち、オベロンの方に向き直った。はらりとお互いの髪が重なり合って、黒と朱が混ざり合う。
ぼんやりとしていたオベロンが、再び瞼を下ろす。まだ眠いのだろうか? 寝直すのかな? そう思って再びその顔を見詰めていると、瞳を閉じたままの口が言葉を漏らす。
「なんだ、まるで黄昏色だな…………」
どうやら目の前の髪色を見ての言葉だった、みたいだ。しかし私には黄昏色というものがよくわからなくて、それでもオベロンがこんな情緒的な言葉を口にしたことが意外すぎて、一気に目が覚めてしまう。
そういえば、ブリテンの空は常に黄昏ていた。
どんな色かはあまり記憶にないけれど、汎人類史の空とはまた違った美しさだったな、と思い返した。
黄昏色、とは。
どうしても気になって、枕元にある携帯端末で調べてしまう。その結果を見たところで、小さくではあるが悲鳴を上げてしまった。
それは、見覚えのある綺麗な空の色。
東の黒と西の朱が混ざり合う、美しい色だった。