ご都合秘境「なっ、んできょうだいが二人いるんだ……?」
オロルンに育ての親である黒曜石の老婆からの届け物をしにいったときだった。目の前が白んだと思ったら急に景色が変わり、先程まで話していた特徴的な目と耳を持つ人物が、全く同じ出で立ちで二人いる。
「まさかミミックフローラか」
武器を構えてみるものの全く見分けがつかず、どちらを攻撃していいか判断できない。何か反応を見せてくれればいいのだが、二人のオロルンは互いに顔を見合わせて首を傾げている。
「武器を下ろせ」
すっと巨体が間に割り込んできた。黒いマントに特徴的な仮面。噂に聞くファデュイ執行官隊長かと当たりをつける。ファデュイに悪い印象しかなかった頃だったら引くわけにいかないが、かの大戦の功労者だと聞いているからにはおとなしく従うしかない。ひょっこりとその背後から左右同じ顔が覗く。改めて周りを見渡すと気味の悪い程真っ白な部屋には俺達四人以外はいないらしい。
「オロルン」
「「なんだ?」」
声も返事も同じとなれば、これはどちらも本人でただ単に分裂しただけか?と動向を見守っていれば、隊長はふっと笑った。
「この空間に心当たりは?」
「たぶん、ご都合秘境と呼ばれるやつだと思う」
「わからない」
意見が分かれた。だがこれは何を意味するんだと相変わらず疑問符を浮かべていると、隊長が具体的に述べたオロルンの頭を撫でた。一時期一緒に行動していたことは聞いていたが、そんなに親密だったのかと目を疑っていると、もう一人のオロルンがこちらにやってきた。
「イファ、あの僕はなんだと思う?」
「それは俺が聞きたいところだな。偽物じゃないのか?」
「いや、あれは僕だ。理屈はよくわからないけど。隊長は何か事情を知っているのか?」
面識のあるオロルンが間をとりもってくれて助かった。こちらを振り返った隊長の前に、あちら側にいたオロルンが一歩進み出る。
「それについては僕から話す。でもその前に、まずは君と認識を合わせたい」
そう言って、オロルンがオロルンを連れて離れた場所で話し始めた。何か話した方がいいかと、ちらりと隊長を見てみるが、あちらも話す気がなさそうなので静かに二人を見守る。
「事情は大体わかった」
「わかったのか?」
見た目は全く一緒なのに、理解度には随分差があるようだ。恐らく疑問符を浮かべているオロルンが俺と先程まで話していたオロルンだと思うので、話の邪魔にならないようこちらに引き寄せる。横に並んでいたら頭が混乱しそうだ。
「中から壊すのは難しいだろうか」
「あぁ、力が封じられている上に、破壊しようにも当てられる場所がない」
「もっと先に行けば壁があるんじゃ、むぐむぐ」
無謀にも隣のオロルンが口を挟んだのでそっと塞いでおく。こういうのは対処が早そうなやつらに任せるに限る。
「……見せた方が早いな」
隊長がぐっと踏み込んだかと思えば真っ白な床を蹴り出して飛んで行ってしまった。姿が見えなくなったと思えばこちらに戻ってきて着地する。
「方向は変えていない。恐らく一定の境界線を越えると反転するようになっている」
「そういうことか」
「それで、そっちのオロルンが何を説明してくれるって?」
「詳細を知っているわけではないが、脱出できる糸口は見つけられると思う」
「なんで知ってるんだよ」
「愛読書の娯楽小説のおかげだ」
「そっちの僕は娯楽小説が好きなのか?」
「好きというよりは勉強もかねて」
「おーい脱線してるぞー。あと悪いんだが呼び方を決めていいか?どっちかがオロでどっちかがルンでどうだ」
「わかった、じゃあ僕がオロで」
「僕がルン」
ややこしい部分が解決したところで、たぶん俺が知らない方のオロルン、ルンが事の次第を説明し始めた。この空間のどこかにお題が出るから、それをこなせばいいということらしい。その説明が終わるのを待っていたかのように、ゆらりと頭上にお題とやらが出てきた。
「二人一組でハグをしろ……?」
「誰かがこの空間を監視してるのか?」
俺とオロがお題を見上げて困惑していると、横に一緒に浮かんだ数字がカシャンっとゼロから一に変化した。横を見ればさらっと隊長とルンがハグをしている。隊長が片手でもカウントされる辺り厳密には判定されてないのかと、とりあえずオロとがっしり友情的ハグをしてみると、二に変わった数字が光ってお題の文字が滲んだ。
「キスぅ」
次に現れたのが同じく二人一組でキスをしろというもの。いや待て確かにオロとしたことはあるんだが、まだ数える程度なもので。と、頭を抱えているうちにまた数が増える。ここからではあの仮面をどうやってしたかはわからなかったが、少なくとも抵抗がないくらいの関係ということか。同じオロルンでも違うということはわかってはいるが、なんだか複雑な気持ちだ。
続きは気が向いたら!