ちょっとしたロラ指首と頬に着いた痛みに目が覚める。どうやら書類処理の最中にそのまま寝てしまったらしい。
ムクリと起き上がると、バサッと毛布の落ちる音がする。それを拾い上げて椅子にかける。周りを見ても誰もいない。デスクの上には積み重なった書類と、冷めたコーヒーがあった。
この毛布は誰が掛けてくれたんだ?
レイブン隊の誰かだろうか。まだ完全に目覚めない頭でボーッと考える。
「やぁ、いい夢は見られたかな?」
くつくつと、喉の奥を震わせるように笑いながら、普段はここに響くはずのない声が聞こえる。
「ロラン、どうしてここに?」
思った事をパッと口に出す。
「質問に質問で返さないでよ。」
「今日はレイブン隊が機体整備でいないから私が補佐として来たんだ。忘れたの?あんたが任命したのに。」
わざと首を傾げたり、動きを大きくしたり。目の前の『機械体』はまるで演技をしているかのようだ。
「あぁ、思い出したよ。そうだ、私はどれくらい寝てた?」
「ざっと小一時間ってところだね。締切の近い書類を終わらせた途端に気絶したのかと思ったら寝ていたから驚いたよ。」
「ねぇ、あんた最近ろくに寝れてないんじゃない?隈が深いよ、それにフラついてる。
ふふ、やっぱりあんたにも教えてあげようか、二十四時間元気に働き続けられる方法。」
ただし人体に永久的な損害をもたらすけど。
と、そんな恐ろしい事を彼は、いつもの張り付いた笑顔で平然と付け足した。
「はは、それはちょっと興味がある」
「けど私は……私はまだ。自分の体で、未だ人類であるこの体でやりたいことがある。」
そうだ。私にはまだ、やらなければいけないことがある。
地球奪還。そして人類と構造体の共存問題。
レイブン隊やホーク隊、オブリビオン、守林人…私達のように。少しでもその理想に近づけるのならば。
「……それは、あんたの抱いている高い理想は…自分の身を滅ぼしかねないね。」
「ほう。それは戦場の、しかも最前線に出ている指揮官に言う言葉かい?」
君もよく知っているだろう。
そう言って彼のように少し笑ってみせた。
戦場。血なまぐさい。ほとんど崩壊状態の建物群。そこらじゅうに湧いてでる侵食体共。
血清を打たないと活動出来ない様な地に足をつけ、地球奪還という作戦を遂行する為に命を差し出す。
これのどこが、身を滅ぼしていないと言えるのだろう?
「ロラン。」
「少し喋り過ぎじゃないか。みなまで言う必要は無いだろう?興が醒めてしまう。」
コーヒーを入れなおそうとした時に彼は口を開いた
「正直に言っていいかな。」
「どうぞ」
「頭が回ってきた時のあんたほど、厄介な相手はいないよ。」