外でしてみたい無惨様(何を…?何でもOK) 色々取り寄せた資料を見ながら、無惨はあれやこれやを頭で繰り広げ、ぶつぶつと何か呪文のように唱えている。
黒死牟はこういったことに全く興味を示さないので、無惨が「外でしたい」と言い出した時に「あぁ、そうですか」と素っ気無い返事しか出来ず、無惨の機嫌を損ねてしまった。
そこからは二人睦まじく相談するという過程は除外され、無惨が資料を用意し、必要な小道具を購入するという、単独での選択が始まっていた。
「どうしても屋外が良いのですか?」
「あぁ、見せびらかしたいだろう」
発想がやや悪趣味だと思うが、主導権が彼にある以上、黒死牟に拒否権はない。
「これなんて、どうだ? お前に似合うと思うが」
「そうですか。お任せします」
あまりにも他人事の黒死牟を見て、無惨の機嫌はますます悪くなるが、相手していてはキリがない。夢中になっている無惨は放置しておけば良いと知っているので、黒死牟は自分の仕事に専念していた。
あれを使ってみたい、これを着せてみたい等、無惨の願望は留まることを知らない。
黒死牟に言えることはただひとつ。
「他人に迷惑をかけないようにして下さいよ」
それに尽きるのだが、これを実行する時点で多くの人間に迷惑をかける予感しかしないので頭痛のタネになっている。
だが、無邪気に喜ぶ無惨の顔は悪くない。それに無惨が自分の為にあれこれ考えてくれているなんて、黒死牟の自尊心をチョモランマよりも高くする。結局のところは根本的に似た者同士なのだ。
「因みに無惨様、昼と夜、どちらになさるのですか?」
「昼」
即答だった。昼日中に……と頭を抱えるが、無惨の「日光の下でする」という執着の強さはどうしようもないので逆らう理由が即座に思い浮かばないのだ。
「私が何かお手伝いすることはございますか?」
「せいぜい晴れるよう、てるてる坊主でも吊るしておけ」
そう言って、無惨は軽い足取りで部屋に籠った。
当日、憎いくらいの晴天だった。
普段だったら、こんな直射日光の降り注ぐ中で屋外を歩くと「日に焼ける」とブツブツと文句を言うのに、当の本人は恐ろしいくらい乗り気である。
着替えを済ませ、ぼんやりと外を眺めていると、同様に着替えを済ませた無惨が頬を膨らませて拗ねている。
「おい、特別な日なのだから、少しは嬉しそうにしろ」
「ですが……」
そう、この日は二人の結婚式だった。
どうしてもガーデンウェディングにしたいという無惨の我儘が押し通され、有名な迎賓館を貸切にし、広大な庭に豪華なパーティー会場を作ってしまったのだ。本当はハワイの海が見える会場で……と海外での挙式を言い出したので、何とか日本に留まるよう説得するのが精いっぱいだった。
オフホワイトのモーニング姿の無惨は世界で一番美しいので、そんな美しい無惨の花嫁に選ばれたことは光栄の極みだが、参列者、特に女性陣から非難轟々で、せめて夜にしてくれと言われたが、なかなかに憎らしい紫外線の降り注ぐ日中となった。
淡いパープルのモーニングを着せられた黒死牟は「ノリが悪い」と無惨に怒られながら、渋々会場を下見に行くと、ガーデンパーティーのエリアは迎賓館のパーティーフロアと繋がった状態にしているので、室内で過ごしてもらうことも可能である。会場内にはシェフを大勢用意し、ライブキッチンの用意も出来ている。更に庭の大きなプールを中心に白い薔薇と白いバルーン、そして照明を飾り付け、日が暮れても楽しめる仕様になっている。
しかし、無惨が本当に見せたかったのは、挙式はどうしても人前式にしたいというこだわりがあり、そこに一番力を入れたと話す。挙式用のエリアにも無数の白い薔薇が飾られ、見事なウェディングアーチは有名なデザイナーに作らせたと鼻高々である。
テンションの高い無惨とは正反対に、黒死牟の脳内電卓があり得ない桁を弾き出したが、丸投げしてしまったのは自分なので、どんな請求書が来ても黙って受け取ろうと覚悟した。
「輝く太陽の下で永遠の愛を誓うのも悪くないだろう?」
日光を浴びながら微笑む無惨を見ていると、煩わしさなど吹き飛んでしまう。
二人は式の前に静かにキスを交わした。