天秤あちこち劇場ディミアネとリンレト(俺しか得をしない)
見慣れた橙色の髪が見えたので、まあ挨拶くらいはしておこうかなと思った。性格はだいぶ、真反対と言っていいほど違うけど、なにかと話す機会があった子だったし。きっかけとしてはただそれだけのことである。中庭で俯いていた彼女は視線に気づくとすぐさま立ち上がった。なんだろう、不穏だ。けれどどうするか決めるより早く、大股で歩いてきた彼女が声を出した。
「リンハルト!今時間あるよね!?」
「いや、もうそろそろ昼寝の予定が」
「それは予定じゃないから!ごめん、ちょっと来て!」
完全に面倒ごとだ。ため息をつきながら引き摺られていくと、食堂を抜け、ため池のほとりにまで出る。ちょうど温室の手前あたり、人気のないところまで来ると、アネットは意を決したように振り返った。昼下がりの穏やかな木陰が目に入って、本当は今あそこで寝てたはずなんだけどな、と思った。
2872