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    nanndemo_monyo

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    リンレト前提のリンハルトとハピ/五年後夜明け前、多分帝国√以外/書き始めてからまるひとつきくらい経ってるから前後おかしかったらごめん

    #リンレト
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    月魚 夜の合間に革靴の音が響いている。地下を抜け出し、人目を避けて、うず高い塀の外へと出る。ユーリスに教えてもらった抜け穴から出ると、噂通りもう帝国兵は撤退しているらしかった。担いだままの縄を握りしめて、走る。瞬きの合間に、彼が落ちていった光景を思い出す。
    (確か結構、外壁寄りだったはず)
     帝国兵が捕獲するために何度か下に降りて行ったというから、目印の一つくらい置き去りになっているかもしれない。目を凝らして駆けていると、夜闇の中にふと立ち尽くす人影が見えた。
    「……リン!」
     振り返った姿はやっぱりリンハルトだった。もともと大きい目をまん丸にしながら、リンは何かの棒を両手で持っている。
    「え、ハピ?どうしたのさ、アビスに誰か、」
    「リンこそ、何してんの……。帰るって言ってたじゃん」
     帝国軍が修道院に攻め入ってから、もう一節が経とうとしている。帝国出身の貴族らしいリンがまだここにいるだなんて、全く思ってもみなかった。あの学校生活が唐突に終わってしまって、会うのも少し久々なのに、リンは以前となんら変わった様子もない。
    「帰るよ。流石にそろそろ、家に誤魔化しも効かなくなってきたからね」
    「残ってたってこと?何で?」
     戦争も血も嫌いなリンが、わざわざここに残る理由がわからなかった。堂々としていても殺されることはないかもしれないけど、絶対に安全って訳じゃない。少なくとも地下の皆はそう考えて、ここしばらくは息を殺して生活している。知り合いだった学校の生徒もほとんどが自分の領地に帰ったって聞いてるのに。
    「それは君も同じじゃないの?」
     リンは手元の棒を軽く揺らした。いつのまにか視線がハピの方じゃなくて、深い谷底の方に向いている。
    「……待ってたの?」
    「あ、わかってると思うけど、君をじゃないからね」
    「言わなくていいし……」
     なんだか急に疲れが来た。ため息をつかないように、力を抜いてしゃがみこんだ。
     ハピが「先生を探しに行きたい」と行ったとき、ユーリスは「期待しないほうがいい」と言った。
    『まあ、ただで死ぬようなタマじゃねえだろうが……。いつどうなるかは人間わかんねえからな。忘れた頃にひょっこり戻ってくる、そのくらいの気持ちでいてやれ』
     あの高さの崖から落ちて、とか、諦めろ、とか言わなかった。ユーリスは身内に優しいからだと思うけど、ハピ自身はだいぶ複雑だった。
    「でも、降りるのはやめたほうがいいと思うよ。ここ、かなり深いからね。降りてる最中に足を滑らせる可能性が高い」
    「……じゃあ、リンはどうするわけ?」
     ちょっとやけくそになって返しただけだった。リンは頭が良いんだろうけど、なんていうか、変なお節介をするときがある。多分リンが結構ズレてて、変だからだと思うけど。でもリンの言葉は明確だった。
    「そのためにこれを垂らしてたんだよ」
    「垂らす?……それ、釣り竿?」
     リンが持っていた棒の端には、細い糸が括りつけられていた。それは谷の端から降りてずっと伸びて行き、夜闇に紛れてどこが先かもわからない。
    「勿論ただの竿じゃないけどね。糸を通して魔力を通せるようになってる。下で何か反応が会った時に、疑似釣餌を位置座標にして転移魔法を、」
    「ねえ、ハピにもわかるように言ってよ」
    「ええ……。君だって黒魔法の授業受けてたじゃないか」
    「受けたけど、難しい言葉は覚えてないんだよね」
     こうして軽口を交わすのすら、今はちょっと懐かしく感じる。ほんの少し前まであった、ハピの人生にしては穏やかな日々は、もう遠くなってしまったんだなと自覚する。
    「要は、ワープとレスキューを逆に作用させる道具さ。僕はレスキューは使えないからねえ」
    「レスキュー……」
     確か、誰かを自分の傍に引き寄せる魔法、だったような。その時谷底からぼんやりと、小さな明かりが見えた。ちらちらと瞬くそれは、曇り空の星の光みたいに頼りない。
    「あれが目印になるんだ。強い力で引っ張られると、もっとはっきりと光る。それを合図に、この竿越しにワープを掛ければ、対象をここまで引き上げられる」
     そこでやっと、リンが何をしようとしていたのかがわかった。結局、リンもハピと同じだった。多分いてもたってもいられなかったんだ。だって、あんな優しくて、変で、何でかわからないけど落ち着く先生、他に二人といないと思うから。
    「……確かに、先生なら引くかもね。あんなのが光ってたら」
    「ま、どっちにしろ起き上がってここに気づけば、なんだけどね。川沿いにもう下流に流されてる可能性もあるし」
    「…………そうだね」
     死んでるかもしれない、とは言わなかった。言ってしまえば本当のことになるみたいで、嫌だったから。リンがどうかはわからないけど、無神経なリンには珍しく、それ以上他の可能性に言及しようとはしていない。
    「……リンはさ。いつまで待つの」
     ぽつ、と零した自分の声が思ったよりずっと暗く響いた。辺りには音もなくて、ただ下をのぞき込むと、真っ暗な谷底だけが広がっている。リンの釣り竿の先は視界の端っこで、酷く小さく揺れている。あんなに遠いんだ、と思うのが怖かった。
    「そうだねえ。まあ、僕もずっとここにいるわけにはいかなさそうだし。ぎりぎりまではいようと思うんだけど」
    「そっか」
    「まあ少なくとも、五年かな。勿論その頃には実家にいるだろうけど」
    「……長くない?」
     しかも、その割には具体的だ。話している間もリンの視線はずっと、谷底の方を向いている。一瞬でも何かを見逃さないようにしているみたいに。
    「千年祭の時に会おうって、約束してただろう」
     まっすぐな声色は、明るくも暗くもない。けれど、不思議なほどはっきりと耳に届いた。
    「先生って、約束は破らない人だから。何をしてでも戻ってきそうだなって思うんだよね」
    「……ハピ、そんなに待てるかな……」
     アビスには五年どころか、次の節の生活さえどうなるかわからない人が多い。ハピ自身もそんなに先のこと考えたこともなくて、約束をしていた時も、なんとなく頷いてしまっただけだ。期待するのは疲れる。それも望みの薄い、自分じゃどうすることもできないことは余計に辛い。考えないようにしていても、時々頭をよぎるのが苦手で、いつもならもうとっくに諦めている所だ。
    「待つでしょ、君は」
    「なんでリンが言えるの、そんなこと」
    「だって、君も先生のこと好きだろう?」
     あんぐり、ってこういう時に使うんだなって思った。リンはもう、とっくに待つ気だ。単に先生が好きで、また会いたいって理由だけで。
    「そうだ。君はアビス近辺に残るんだよね。なら、これを使ってよ」
     そしてリンはおもむろに、持っている釣り竿をこちらに渡した。ふらりと揺れる釣り糸は、ハピの手に握られてすぐに均衡を取り戻す。
    「毎日は無理だろうから、できる時は極力でいい。何もないよりは宛があるほうがいいしね」
    「え……」
    「君もワープは使えるし、ちょうど良かった。実は僕、もう明日にでも戻らないといけないんだよね。実家の方から人を遣わされてて、毎日かなりせっつかれてて。いやあ助かったよ」
    「ねえ、これ、ハピに厄介ごと押し付けてない?」
    「まさか。これ、造るのに結構時間かかったんだよ。惜しげもなく貸してるんだから、感謝してほしいくらいだけどな」
    「キミって本当にずうずうしいよね……」
    平然としているリンにむっとする。それでももらった棒は突き返さなかった。どうせハピは、アビスや彼らの下以外に行くところなんてない。たまに釣り糸を垂らすくらい、まあいいかと思ったのだ。それにもしあの谷底で、万が一生きているとしたら、何もよすががないよりマシかもしれないし。
    「まあ、たまにならやるし。いいよ。忘れててなくしたらゴメン」
    「ええ~……」
     リンもリンで、文句言いつつ回収しようとはしないあたりがらしいな、と思った。


     乾いた風が頬を撫でた。谷底をのぞき込んでも、相変わらず何一つ見えるものなんてなかった。それでも、慣れた手つきで、赤毛の女性が釣り糸を垂らしていた。深い底に届きそうな、長い、長い糸である。しかし、谷風に吹かれ、その先がどうなっているかは定かではない。それでも彼女は、至極ぼんやりと、遠くの空を眺めつつ、岩辺に釣り竿をひっかけて支えていた。辺りはすっかり荒廃し、遠目に外壁が一部崩れたままの修道院が見えている。かつてのセイロス教の栄華の名残はどこにもなく、ただ寂寞とした岩場しか残されていない。セイロス教の総本山であるガルグ=マクの襲撃から、もう五年が経とうとしていた。時々訪れる帝国兵や、ここを根城とする賊の気配を恐れてか、周辺に人の営みの気配はない。けれど、彼女はそんなこともさほど気に留めず、ただ時々谷底をのぞき込み、風に揺られる糸を見ていた。ちょうど今も。
    「……ん?」
     かすかだが、確かに変化があった。暗闇ばかりが広がる中、遠い星の光のように、何かちらちらと瞬くものがあった。これまで何度となく見てきた中で初めての光景だった。すぐに立ち上がると、彼女は釣り竿をしっかりと両手に抱えた。崖際のぎりぎりから下を覗き込む。何度まばたきを繰り返しても、光源は確かにちらついている。心音が今まで聞いたこともないくらいうるさい。
    「……ワープ、ワープだよね……」
     息を吸って、両手から竿へ、竿から糸へと、光をめがけて魔道を掛ける。少し間があって、ハピは気配を感じて身を引く。軽い風切り音がして、すぐ眼前に人影が現れた。まさか落ちないようにと慌てて腕を掴むと、その人物と至近距離で目があった。やや背の高い、髪の長い男だった。肌が嫌味ったらしいほど白く、上等なローブに身を包んだ彼の、丸みを帯びた眼差しには見覚えがあった。
    「ああ、びっくりした……」
    「え、リン……リンだよね?」
    「あ、やっぱりハピだった。やあ、久しぶりだね。大分荒っぽい再会になっちゃったけど、無事で何よりだよ」
    「や、そんなフツ―に挨拶されても……」
     脱力して、その場に思わず崩れ落ちてしまう。色々なことが予想外すぎて、感情が追い付いてこなかった。どこにも殺意も敵意もない、まるで五年前の延長みたいな調子に何も言えなくなった。しかしそんなことに頓着する彼ではない。砂埃を軽く祓いながら、軽い口調で話し出す。
    「君なら、運が良ければまだここにいるだろうと思ってね。いやあ良かった。崖上りなんて正気じゃないし、何日待つか、それとも迂回するかで悩んでたところだったんだ」
    「そうじゃなくても正気じゃないじゃん。何で来たの?」
     まさか彼が来るなんて誰が思えたというのだろう。彼の生家は五年経った今も帝国で地位を持っているという。その一人息子であるリンハルトが、一体どうしてこんなところまで。
    「そりゃあ、約束の日が近いからね。帝国からじゃ、先生の生存の真偽なんて伝わってこないだろうしさ」
    「………………ホントにそのためだけに来たの?」
     至極当たり前のように言うリンハルトが、どのくらい苦労して、どうやってここまで来るなんてことができたのか、ハピには想像もつかなかった。けれど、リンハルトの頭に今そんな労苦はなく、ただどこか高揚した瞳で話し続けている。
    「うん。僕も当日に間に合えば、会うくらいはしてくれるだろうし。捕虜扱いにならずに済むかどうかは、先生とか周囲の采配次第だろうけどね」
    「……会えなかったら、どうすんの」
     本当に死んでいたら。もうここに戻ってくる気なんかなかったら。そう考えたのは一度や二度ではなかった。未練を断ち切れなかったからここにいたわけではあるが、希望があったとも言い難いのだ。やや重い響きのハピの言葉に、リンハルトは至極当たり前のように返した。
    「来るよ。先生は」
    「絶対?」
    「物事に絶対はない、んだけどね。それでもあの人は来ると思うな」
     なんで、とか、そんなわけない、って挟む余地もないくらい、はっきりと断言された。ハピは衝きそうになったため息を呑み込む。ハピよりずっと、先生に詳しいらしい彼が言うのだし、まあそういうこともあるのだろう。それくらいに留めておかなければやっていられない。
    「……まあ、いいや。行こ。早く着いてたらいついるかわかんないし」
    「そう?どうやってか知らないけど、結構ぴったりの時に来る人だったと思うけどな」
    「じゃーもー、それでいいよ……」
     更地と谷底を後にして、二人は修道院の方へと歩いて行った。まさか本当に、あの先生がぴったりのタイミングで巡り合えるとは、この時のハピにはまだ想像もできていなかった。
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