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    madorominekoko

    94です。便利モブ三人衆と親吸血鬼が主になります。雑食です。逆、リバ、R、G、パロ、なんでも。ポイピクでは書くのも雑食になる予定です。

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    madorominekoko

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    ミキクラです。ケーキバースです。
    ミキさんが暴走しております。

    #ミキクラ
    mixicura

    合点承知で自覚して◆◆三木◆◆


     自分がケーキであると自覚したのは、22歳の時だ。
     ケーキやフォークについては学校の授業や映画や漫画、小説などで知識を得て、現実にいるのは知っていた。だがフィクションめいた存在として感じており、まさか自分とはと、襲ってきたフォークを踏みつけながら驚いていたのを覚えている。
     そのフォークを警察に突きだし、次の仕事までの間にケーキやフォークについてスマートフォンで調べた。
     フォークは特定のもの以外は味を感じる事ができない。
     その“特定のもの”が、ケーキであり、ケーキは菓子の味がする。フォークにとってケーキ以外のものは甘いとは感じない。
     ケーキ現象もフォーク現象も現段階では人間にしか発現がみられず、両者個体数が少ない為、研究が進んでいない。
     治療方法は確立せず薬も開発されていない。
     それなのにこの現象の知名度が高いのは、人間が特定の人間を美味しいと感じ、食べてしまうという現象がエンターテイメントの題材として受けたからだ。
     この症例が学会で発表されて認められから、様々な作品に悲劇喜劇などとして取り扱われた。特にこの数十年、他国への交通の便やインターネットが発達し、海外の文化を簡単に触れられ発信できるようになってからというもの、ケーキやフォークの存在は子供でも知っているものとなった。
     発症数に比べて知名度が高い弊害も発生しており、フォークというだけで殺人予備軍として迫害を受けるといった事例もある。
     また、ケーキをケーキだからと事前に保護する法律なども存在しない。

     そんな事を調べて、結局わかったのは、治療法はなく自衛するしかないという事だった。
     だから三木の中でもう調べなくても良いという分類に割り振られてしまった。
     生まれて22年で初めて出会ったのだ。高校を卒業し社会に出て、不特定多数の人間と会う機会は増えたが、フォークの数が少ないというのなら、そうそう襲われはしないだろう。
     そう考えたのもあるが、自分の体質にいちいち時間をかけて調べて対処するのがもったいなくなったのもある。その時間を仕事に回したい。
     そうして年月は流れ、13年。35歳となり、襲われたのは4回。4年に一回ペースなので、そんなもんかと三木はこれからも特に何もするつもりはなかった。



    ◆◆吉田◆◆


    「〜♪」
     父がよく口づさんでいた曲を歌う。
    「〜〜♪」
     吉田の父の世代といえば、男尊女卑というか男は外で仕事、女は家で家事が普通で、外れようなものなら陰口を叩かれる、それがだいぶ和らいできた時代だった。
     そんな時代の流れに逆らうように父の母は昔気質の人だった。
     何かにつけて昔は、私の若い時代は、そんな事を口にしていた。近所の小学生が好奇心からマネキュアを塗ったのを見て、「色気付いて。私の若い頃はマネキュアを塗るなんて……」と語りだし、病名を聞けば「日本人そのものが軟弱になった。それぐらいで休むなんて」「私の若い頃はそんなもんなかった」と愚痴った。
     たまに泊まりに来た時に父が台所に立ってお茶でもいれようものなら、「私はお前を婿にも奉公にもやったつもりはない」なんて言っていた。
     父はそれを聞いてもお茶をいれきっていたし、おばあちゃんがいない時には積極的に台所に立っていた。
     吉田はそんな父が好きであったし、父が作る食事も、料理中に口ずさむ歌も好きであった。
    「〜♪」
     実は父は微妙な音痴で音程が外れているのだが、それをこみで好きで、吉田はわざとその外れた音程で歌う。
     サビの部分を歌い切るのを待っていたかのように、台所にクラージィが現れる。
    「持ッテイクモノ、アリマスカ?」
    「ではこの生地もってっちゃってください」
    「ハイ!」
     お好み焼き用の生地が入ったボールを渡すと、クラージィが部屋に戻っていく。
     入れ替わりに三木が顔を出した。
    「俺も何か持っていくものありますか?」
    「では豚肉とお好みソースとマヨネーズを冷蔵庫から出して持っていってください」
    「はーい」
     三木が勝手知ったるといった手つきで冷蔵庫を開けてひょいひょい目的の食材を選んで出していく。
    「今日は一口目、俺が食べますね」
     その発言に吉田は苦笑する。
     この前、巨大ホットケーキ(縦に何層もある)を作った時、クラージィのホットケーキが何枚か生焼けだったのだ。
     クラージィは「甘ソウナ見タ目デス」と楽しそうに食べ、「トロッとシテマス」なんてニコニコだったが、これにダメージを受けたのが三木だった。
     俺がもっと確認していれば、なんて後悔しているのは手に取るようにわかったし、あれから料理の焼き加減を気にするようになった。
     だからここで下手に却下したり、気にしすぎでは? と注意すれば、これからはこっそり確認していこうとするだろう。
     吉田は竹串を掲げると、「さして生焼けか確認してから食べてくださいね?」と提案する。
     三木は「はい」と竹串も受け取ると、部屋に戻っていった。

     吉田がこんな風にお隣さん達と料理をしたりゲームをするようになったのは、去年の冬ごろからだった。年を越して春になり、酷暑を超えてようやく秋がみえてきて、そう考えるとまだ一年経っていないのだが、もう数年来の付き合いのように馴染んでいた。
     その友人達がどうも互いを意識しているとなれば、何かしらとりなしたいなぁと思う。
     だがおそらくお互い無自覚で、どうするかなぁなんて考えつつ、巨大お好み焼きを焼いている間につまめるものと作った椎茸のチーズ焼きと枝豆を持って部屋に行く。
     先に座っていた二人は、スマートフォンで何かを調べていた。
     三木さんのスマートフォンの画面を顔を寄せ合って見ている。というか、聞いている。
    「……何してるんですか?」
     気になって訊ねてみれば、クラージィが「ヨシダサンの曲、私モ歌イタイノデ、ミキサンと聞イテマシタ」と答えた。
    「僕の曲?」
    「吉田さんが料理する時によく口ずさむ曲ですよ」
    「あぁ! 古い曲なのに、よく分かりましたね」
     吉田は温まっていたホットプレートにお好み焼きの生地を垂らしていく。
    「便利なもので、歌詞を入れて検索すれば、たいていの曲は分かりますよ」
     その上に三木が豚肉を起き、クラージィが天かすをまぶす。
    「デモ少シ、ヨシダサンの曲と違イマス」
    「あぁそれは、僕もちゃんと聞いたことの方が少なくて、父からの耳コピだからですねぇ」
     吉田が蓋を閉め、え、閉まらないと思っていれば、どこから取り出したのか、三木がホテルで料理を頼んだ時に埃などが入らないようにする半球で銀色のカバーのようなものを取り出して蓋をしてくれる。いつのまに買ったのか。ホットプレートにピッタリでないか。
    「三木さん。金額」
     吉田が言えば、「貰い物で」なんて逃れようとする。
     逃すかとばかりにクラージィが「デハネットで検索シテ、一番高イ金額ノヲ三等分シテ払イマスネ」と提案すれば、三木は渋々といったように金額を口にした。

     そんなやりとりも挟みつつ、便利モブ会は進んでいく。
     巨大お好み焼きはやはり大きいので、火が通るのも遅く、作ったつまみはひっくり返す前になくなってしまった。
     しいたけのチーズ焼きは「アツアツで美味シイデス」や「しいたけの旨味がでてチーズと合ってますね」と好評で、枝豆も「豆を出シテ食ベル、面白イ食べ方デス」や「いつも吉田さんは茹で加減も塩加減も完璧ですね」と好評だった。
     本日の便利モブ会の目玉、巨大お好み焼きもしっかり中まで火が通っており、味も完璧で、クラージィが半分以上食べ、三木と吉田が残り半分ずつぐらい食べた。
     こちらも「外はサクサクデ、中は柔ラカクテ美味シイデス」や「キャベツの甘味とソースの辛味が絶妙ですね」と好評だった。
     好評の評価を受けて、吉田はうーんと考える。
     クラージィ。
     もぐもぐ美味しいですと食べているが、わりと便利モブ会初期の段階から違和感を抱いていた。
     初めは日本語を習い始めたばかりだからと思っていたのだが、ずいぶん達者になった今でもそれは続いており、ある仮説と懸念が吉田の中で強く浮かんでいた。
     それはクラさん、ひょっとしてフォークでは? という事。
     料理を食べてのコメントがいつも食感や見た目、香りばかりで、味については何も触れられてはいないのだ。
     三木も何か勘づいているのだろう。
     最近はクラージィが何か料理に対してコメントする度にフォローするように味について言及している。
     フォーク云々は非常にプライベートな質問であるし、約二百年前からタイムスリップしてきたみたいなクラージィにどう切り出し説明するか迷い、フォークやケーキについてネットや本で調べて懸念であって欲しい心配もでてきて、様子見を続けていた。
     今日も聞けそうにないと内心ため息をついていた時、流し場からガチャンという音と、「いたっ」という声が同時に聞こえてくる。
     洗い物をお願いしていた三木からだ。
    「ミキサン!?」
    「どうしました?」
     クラージィと二人席を立って様子を見にいけば、ハハッと苦笑する三木が立っていた。
     吉田とクラージィに血が滲む親指の腹を見せてくる。
    「少し切りました。すみません。吉田さん、お皿を……」
    「そんな事はいいですから、水で血を流して絆創膏貼りま――」
     流し場には割れた皿しかない。他の洗い物は全て終えてあり、タオルで拭いて食器棚に戻されている。そして割れた皿には見覚えがなく、どういう事かと三木をみれば、必死に取り繕おうとしたもののたまらず顔がニヤけてしまったような顔の三木がいた。
    「……」
     嫌な予感がして三木の視線の先を追う。
     クラージィがいた。目を見開いて、驚いたように三木の指を凝視している。
     その様子に、三木を問い詰める前に、直感で確信する。
     クラージィはフォークで三木はケーキだと。



    ◆◆クラージィ◆◆


     とても楽しい。
     これが自分の美味しい。
     そう思っていたのに、三木の指から流れる血で、それは違うと突きつけられた。



    ◆◆三木◆◆


     ケーキとして生まれ、22歳から4回、フォークに襲われても、三木はそんなもんかとあまり気にしなかった。
     クラージィがフォークかもしれないと思うまでは。
     便利モブの食事会で味以外の感想しかないのをきっかけに疑い、汗をよくかく夏場には「ミキサン、何カ香水ツケテマスカ?」と聞かれ疑惑を深めた。
     夏の終わりにはほぼ確信に変わっており、クラージィになら食べられてかまわない、むしろ食べられたいと思うようになっていた。
     血液を飲まない代わりにたくさん食べている彼。たくさん食べなきゃいけないのにその味がしないなど、かわいそうではないか。
     食べて欲しい。
     だからタバコはやめたし、仕事をセーブして睡眠時間もとるようになった。そうした方が肉の味が良くなる気がしたからだ。
     それと一回食べられて終わりは、クラージィの長い吸血鬼生活でキツいかもしれないと、転化方法について調べ始めた。吸血鬼になれば、ある程度食べられても血を飲めば復活できる。そうだ。そうすれば一生クラさんの役に立てる。それはとても素敵な事じゃないか。
     ただ転化してもケーキでいられる保証はなく、転化はもっと情報を集めてから。
     色々調べているが、クラージィがフォークである確証が欲しい。そして三木をケーキだと知って欲しい。
     なので便利モブ会で家から持ち込んだ皿を割ってわざと指先に傷を作った。
     滲む血を見てクラージィは衝撃を受けており、三木はクラージィがフォークだと確信できた。
     吉田もいたのでその場ではそれとなく食べていいですよと伝えただけだ。うっかりクラージィが食べすぎて三木が死んでしまった場合も考えて同意であると遺言書の作成もしてある。
     だけどクラさんだからなぁ、我慢しちゃうかもなぁそれならこっそり血を食事に混ぜてとか、わざと怪我してもったいないからとかと、三木が計略を案じていた時、その機会が訪れた。



    ◆◆吉田◆◆


     次の便利モブ会まで三木がクラージィと二人っきりにならないように気を使い、三木には暴走するなよと忠告もしたが、聞く耳を持っていたかどうか。三木は自覚しているかどうか怪しいがクラージィに惚れている。彼の性格上、暴走すれば指の一、二本送りかねない。
     吉田は色々と調べたり、クラージィの親吸血鬼であるノースディンにも連絡をとり、ある有益な情報が得た。
     それをいつどのタイミングで三木とクラージィに伝えるか。クラージィも無自覚であれ三木に惚れているというのに、なぜこんなことになるというのか。両者にダメージを与えるにしても、それを軽くするタイミングをと考えたが、フォークとケーキならば悩んでいる時間はない。
     三木には仕事が終わったら部屋に顔をだして下さいとRiNEを送り、クラージィは仕事が休みで部屋にいると分かっていたので直接ドアをノックした。
    「吉田です」
     と言うと、「スグに開ケマス」と返答が来る。
     ガチャリと鍵があき、ドアが開き、クラージィが顔をだした。
    「すみません。突然、尋ねて。お話があって、中に上がってもいいですか?」
    「モチロンデス。ドウゾ」
     にこりと笑い、道を開けようとしたクラージィが、急に表情を鋭くし、吉田の腕を掴んだ。
    「え」
     吉田は部屋の中に入れられ、代わりにクラージィが部屋の外にでる。
     クラージィは廊下を睨みつけ、すぐにその表情を和らげた。
    「――ミキサン、デシタカ。怪我を? 血ノ匂イガシマス」
     表情はいつものクラージィだが、身体が緊張しているのが横にいる吉田に伝わってくる。
     吉田がクラージィと三木、どちらに声をかけるか悩んでいる間に、三木がクラージィの質問に答える。
    「はい。今日の仕事で少しミスって、早上がりです」
    「治療ハ?」
    「止血だけ。軽く。勿体無いなと思って、どうせケーキなら」
    「三木さんっ!」
     ちょっと待ってくれ、それは駄目だと大声で彼の名を呼ぶが、そんな事で三木は止まらない。
    「フォークであるクラさんに少し食べてもらおうかなと思って」
     言ってしまったと、吉田はクラージィを見上げる。
     クラージィは吉田の予想に反して、当惑も混乱もしていなかった。
     それを不思議に感じている間に、クラージィは三木の前につかつか歩み寄り、キッパリと言った。

    「ミキサン不味イ。食ベルナンテまっぴらごめんデス」

     え? と混乱する三木。
     吉田も混乱した。
     なぜ。
     自分の勘違いだったのか。
     クラージィは、フォークとケーキという存在そのものを知らないはずなのに、と。


    ◆◆◆◆


    ――ノースディンさんですか? はい。吉田です。突然の電話すみません

    クラージィに何かあったのか?

    ――クラさんに何かあったといいますか、少し、尋ねたい事がありまして……えぇ、もちろんクラさんに関係する事です。クラさんと同じ年代、同じ土地で暮らしていた貴方に訊くのが早いかと。

    まわりくどい。

    ――では単刀直入に訊きます。クラさんが暮らしていた時代、ケーキやフォークといった概念はありましたか?

    それはクラージィがケーキもしくはフォークであるもいう事か? 誰かに襲われたか襲ったのか? 襲われたのなら相手を言え。襲ったのならもみ消して、

    ――落ち着いてください。まだ事件になっていませんし、本人に確かめていません。ですがほぼ間違いなくフォークだと思われます。

    クソッたれが! それではアイツにとって血は鉄臭い泥水のようなものではないか! なぜアイツばかり! 苦悩の中で耳を開いてくださるとでも!? 

    ――もう一度言います。クラさんの為に落ち着いてください。クラさんは、フォーク、ケーキという概念すらない可能性があります。

    ……あぁ、クソ。そういう事か。答えよう。クラージィが生きた時代、フォークとケーキのいう名称すらなかった。あの時代、人間は狭い場所で生きていた。死ぬまで生まれた町からでないなんて事もあったぐらいだ。ネットも電話もなく、手紙すらちゃんと届くか分からない。情報伝達の手段は本当に限られていた。吸血鬼の我々は時折、そういう個体が人間や吸血鬼の中にあるのは知っていたがね。人間どもでは死ぬまで人を喰う人がいるなど、知らぬ者の方が多かったであろうな。



    ◆◆クラージィ◆◆


     物心ついた時には教会にいて、“味がしない食事”を食べていた。
     クラージィ自身は“味”についてよく分からなかったが、同じ食事を口にする兄さん姉さんが『パンはパサパサで不味いし、スープも薄めすぎて味がしない。たまのお肉だってなんの味付けもしてない』と不満を囁き合っているのを聞いて育ったので、教会の食事とは味がしないのが普通だと思い、成長して青年になるまで普通の“味がしない食事”で育った。
     成長し悪魔祓いとなり、村や町でパンやビールを買う機会が増えた。
     教会のパンとは違い、焼きたての香り、日がたっていない新鮮な食感、それらが“味”なのかと思い、兄さんや姉さんが『美味しい』と絶賛していたほどではないなと内心思いつつも、噛んで飲み込み、“美味しい食事”に感謝した。
     教会の教えもあったが、食に興味がわく環境でもなく、それが普通として過ごし、そしてあの悪魔の仔に出会った。
     少年から振る舞われたクッキーはもてなそうという想いに溢れていて“美味しい”と思えた。
     それから数奇な巡り回せと運命で、約二百年後の新横浜で目覚め、お隣さん達と仲良くなれた。
     便利モブ会で巨大料理を作るようになり、食事というものは作る過程も楽しむものだと知った。
     どれを作ろう、どのレシピで、あれも入れよう、これも入れてみたら、そんな話をするのは面白いし、スーパーに買い出しに行くのも楽しい。
     成功しても失敗してもわいわいと作るのも楽しかったし、話しながら食べるのも満たされた気分になれた。
     これが“美味しい”なのだと思った。
     同時に、食事を噛み砕いて飲み込むのを苦痛と感じていた自分にも気づき、たくさん食べなければいけない今、便利モブ会の楽しさの中でする食事は救いとなっていた。
     
     目を逸らしていただけで、薄々は分かっていた。

     三木や吉田の口から出る「甘い」「辛い」「酸っぱい」「しょっぱい」。それらが自分にはわからない。
     吸血鬼になる前から、味覚に対して自分は何かが欠落している、と。
     もう少しだけ目を逸らしたいと願っていたのだが、三木の指に滲む血を見て、思い知らされる。
     本当の美味しいは違う。
     ミキサンが美味しそう。
     その日はどうやって家に帰ったか分からない。
     気がついた時にはスマートフォンで検索をかけ、フォークやケーキについて辿り着いていた。
     自分がフォークなんてものであると知り、しかも三木がケーキで、吸血鬼になった以上に混乱した。
     今も混乱し続けているし、心の整理はちっともついていない。
     気を抜くと三木のあの美味しそうな血を指ごと齧る妄想をしてしまうぐらいだ。
     ちょっと人里離れた山中だったり森の中で百日ぐらい瞑想したいと思うが、
    「フォークであるクラさんに少し食べてもらおうかなと思って」
     なんて友がニコニコと笑って言ってきたのだから、混乱ばかりもしてられない。
     どこか嬉しげに期待している三木に、あぁ、この人は本当に心の底から、食べてもらいたいのだなと感じる。
     自分の怪我の治療を後回しにしてまで。
     匂いだけでも分かる。とても美味しそうだ。初めて感じる味はどんなものだろうと興味もある。
     気を強く持っていなければ飛びついて噛みつきたいぐらいだ。
     だがそれがどうした。
     我慢比べや耐える事には生前から慣れている。
     クラージィは三木が逃げ出してもすぐに捉えられる位置まで歩く。
     彼の前に立ち、はっきりと断った。

    「ミキサン不味イ。食ベルナンテまっぴらごめんデス」



    ◆◆三木◆◆


    「え、え、でも、俺はケーキで」
     自分でも拒絶にパニックにおちいっているのがわかる。
    「ミキサン。私、味を知リマセン」
    「だから俺を」
    「デモ、便利モブ会で“楽しい食事”を教エテモライマシタ。ミキサンは、楽シクナカッタデスカ?」
    「楽しかったですけど」
     もちろん、皆んなで食べる食事は、それまで面倒だと思っていた食事を彩りあるものに変えてくれた。
    「ミキサン食ベタラ、ミキサンイナクナッテ、“楽しい食事”ナクナリマス。ソンナ不味イ事、私にサセマスカ?」
    「それは、」
    「三木カナエ、貴方は私を友を喰う犯罪者にシタイノデスカ? 友を失ッタヨシダサンを悲シマセマスカ?」
    「ち、違います! ただクラさんに美味しいもの食べて欲しくて! 俺がその役に立てるならって!」
     クラージィが怒っていると、ざあっと血の気が引いていく。
     自分が悪いとは分かるが、どう悪いのか、いまいち理解できない。こういう時、どう謝ればいいのかも分からない。
    「ミキサン。貴方のソノ独善的ナ優シサ、私は好キデス」
    「なら、」
    「ダガ同時に腹立タシクモアリマス」
     好きと言ったり腹立たしいと言ったり、上げて落とすのがうまいと思う。
     自分はもう感情の振れ幅がキャパオーバーだというのに。
     ぐるぐると回る頭で、なんとか言葉を捻りだす。
    「……それはつまり、俺はクラさんの役に立てないって事ですか?」
     みっともなく泣きそうな顔になっていただろう。
     吉田さんが部屋から顔をだし、「三木さん、そういうことじゃ」と話そうとし、クラさんが「ヨシ合点承知シマシタ!」と微妙に意味が合っているのか分からない言葉を放った。
    「三木カナエ。私はイツカ貴方を食ベヨウト思イマス」
    「え? えぇ、い、いいんですか!?」
    「ハイ。デモ今ジャアリマセン。ナノデ他のフォークに食ベサセヨウトはシナイデ下サイ」
    「もちろんです。クラさんがいい」
    「チャント寝テ、食ベテ、健康に過ゴシテ下サイ」
    「タバコやめて寝るようにしてます」
    「人生を楽シンデクダサイ」
    「クラさんと吉田さんがいるなら余裕です」
    「ソレデ私の側デ長生キシテクダサイ」
    「クラさんの隣にずっといます」
    「ソシタラ今際の際ニ、髪ノ毛一本残サズタイラゲマス」
     クラージィが三木の髪の毛に触れる。
     息がかかる至近距離で、イイデスネ? と念を押すものだから、三木は茹だった頭で、「はい」とこくこく頷いた。



    ◆◆吉田◆◆


    「クラさん、三木さんにもっと怒っても良かったと思いますよ?」
     約1週間ぶりの便利モブ会。
     三木が酒に潰れて寝てしまったタイミングで、吉田はクラージィに切りだした。
     クラージィはむにゃむにゃと眠る三木の寝顔を見てから、「ソウデスカ?」とフフッと笑う。
    「そうですよ。クラさんが甘やかすから、今だって、つまみ食いして欲しいとか言って、隙あれば料理に血を混ぜようとするし、髪とか皮膚とか爪とか食べさせようとねらってきてるでしょ」
    「カワイイデスヨネ」
    「僕と可愛いの感覚が違うなぁ」
     吉田は呆れたように言ってから、ところで、とずっと訊きたかった事を尋ねた。
    「死の間際にしろ、三木さんを食べる気は本当にあるんですか?」
    「…………」
    「嘘も方便?」
    「……私も吸血鬼デス。惚レタ相手に執着アリマス。ソノ相手が髪ノ毛一本残ラズ自分のモノニナルノハ、魅力的ダトは思イマス。コレを今ノ所は答エトシテ受ケ取ッテクダサイ」
     煙に巻かれた気がするが、吉田は大人しく引き下がる。
     それよりも、と、ズイッとクラージィに詰め寄った。
    「惚れた相手って、ようやく自覚したんですか? いつ?」
    「ア」
     クラージィが目を泳がす。
     友人達の恋話を聞きだすのは趣味が悪いかもしれないが、散々気を揉んだのだ、これぐらい許して欲しい。
     吉田は追加の酒を持ってきて、さぁ、夜は長いですよぉとンフッと笑った。
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    1947