凪誕2024!サプライズとか全然好きじゃない凪
「凪、誕生日何が欲しい?何してほしい??」
俺の部屋のベッドの上、俺のことをギュウギュウ抱きしめながらレオは聞いてきた。欲しいもの、してほしいこと。なんだろ。正直、してほしくないことのほうが多いかも。を口に出さない程度の社会性は、ごく最近身につけたものだ。言いたいことを口に詰めたまんま黙り込んだ俺を、何かすごいお願いごとがあると勘違いしたらしい。
「なんだ、俺には難しいことか?金でどうにもならないことか?あ、たんま今の取り消し。ちょっとルール違反だったかも」
過去に親にされて嫌だったことに引っかかったのだと思う。
「うーん、そうだな。じゃあさ」
お願いを聞いたレオは不思議そうな表情をした。
「凪ー来たぞー」
誕生日当日の昼前、俺は凪の部屋に来た。俺にしてほしいことは、当日家についてから指示すると言われたため、なんの準備もしていない。どこに連れて行かれるのかわからないので、ドレスコードのある店にもギリギリ入れるくらいのカジュアルな服装だ。ちなみに合鍵をもらっているので、勝手に解錠した。
「あ、いらっしゃーい」
「え、何その格好」
凪は、家庭科の授業で作らされる、例のエプロン姿で玄関に迎えに来てくれた。龍のやつ。
「あのね、ポテトサラダ作った」
「なんで?」
部屋に入ると、中は子供の時友達に呼ばれたお誕生日会のような飾り付けがされていた。折り紙で作った輪っかをたくさん繋げたガーランド、たくさんの風船、バースデーソング。この飾りは斬鉄に借りたんだ、と凪が説明する。
「お誕生日おめでとう」
「え!?俺の誕生日だった?」
まあまあそんなことよりこちらに、と言われ座布団に座らされる。
「こんなのあったか?」
明らかに新品の座布団に触れながら、小さなテーブルに目を向ける。
「あ、テーブルに力かけないでね。壊れちゃうから」
「いやテーブルじゃないのか、ダンボールに布を被せただけか」
「テーブル」
「うん?」
「テーブルね。テーブルだから」
その後、その自称テーブルの上にはポテトサラダ、パスタ、プリンが置かれた。
「作ってみたかったんだ。食べてくれる?」
「いや、食うけど。全部手作り?俺へのご褒美みたいだな」
「あとこれに着替えて」
「え、ジェラピケじゃん。俺の?」
「お前の」
凪が買ったのだろうか。すぐに着替える。凪は一度「うん」と頷いてから俺をしっかりと抱きしめた。
「え!?」
イチャイチャしていい感じ?!
「よし、食べるか」
凪は何事もなかったかのようにスッと離れ、自分もジェラピケに着替えた後座った。俺も、がっかりしているのを悟られないよう平静を装いながら、自称テーブルにつく。
「お誕生日おめでとう、俺」
「おめでと凪、あ、これやるよ」
チョキの隣、窓辺に飾れるサイズの黄色やオレンジ中心にまとめられた白いウサギのマスコット付きブーケを渡す。
「わ、可愛いお花。チョキ、お友達だよー」
凪の作った料理は特別上手なわけではなかったが、すごく美味しく感じた。
ご飯を食べたあとは、凪とゲームをした。俺はどのゲームも持ち前の器用さですぐ上手くなってしまい、凪ははしゃいだり不貞腐れたりした。
それからベッドの上でゴロゴロしながらポテチ食べた。あと漫画読んだり、サッカーの試合見たり。
「なんかめっちゃ普通の日じゃない?」
「うん、あ、夕飯はウーバーさん頼むよ。レオ、何食べたい?」
「出かけねぇの?」
「一歩も家から出ないよ。ぜったい」
「まぁ、お前がいいならいいか」
「あ、お風呂いっしょ入りたいかも」
「え!?一緒にっておま、いや、お前の家の風呂、一人でもきついじゃん」
「うん、俺だけ入る。レオは外から俺のこと洗ってよ」
俺は服を着たまま、裸の凪の頭を洗ったり、スベスベ真っ白の肌を泡で撫でた。逆に服着ててよかったかも。いろいろバレなくて。
「レオ、こっち来て」
風呂から上がると、凪がベッドの上に寝転んでこっちに両手を伸ばしていた。いよいよ、いよいよか!
「ナーギー!」
しかしルパンダイブしかけた俺を凪は冷たく拒否した。
「レオ、違う」
「は?」
「横になるだけ」
「ええー」
不服な顔隠すつもりも無く晒したまま、凪と平行に寝転ぶ。
「レオ、こっち向いて、腕はこう、そうそのまま力入れて」
「はいはい、ギュー」
凪を後ろから抱きしめる。凪の頭の上に顎を乗せて、ガクガク顎を鳴らす。顎が当たって痛いはずなのに、凪はフフッと笑う。可愛い。
「こんなんでいいの?せっかくの誕生日なのに」
「こんなのがいいんだよ」
そのまま会話をしていたが、だんだんレスポンスが遅くなってきて、ついに凪から寝息が聞こえてきた。
「凪?」
俺よりも一回り大きいはずなのに、小さく丸まって俺にすっぽり収まっている凪の体
を抱きしめ直す。
「凪、お前、こんなことで満足なの?」
答えが返って来ないのを承知で問いかける。
「ェオ」
「凪?寝てるのか?」
「うん、うん」
「今日、楽しかったか?」
「ぅん、レオ、ぁから」
「……」
「ずっと、いっしょ、このまま……」
「うん」
「いっしょね」
早く起きねぇかな。そうしたら、たくさんたくさん、俺の方法で祝わせて。愛させてくれ。
いつの間にか寝ていたらしい。ニュースの音が聞こえる。目を開けると、すぐ横に座ったレオに頭を撫でられていた。レオ、ほんと人の頭触るの好きだな。
「よく寝れた?」
「うん。寝すぎたかも。今何時?レオ、もう帰る?」
目の焦点が合わなくて、枕元の目覚まし時計に手を伸ばそうとした。のに、レオはその手を掴むと、俺を押し倒してきた。
「レオ?」
「あと一分で、お前の誕生日、終わっちゃうんだ」
レオは俺の両手首を強い力で布団に押さえつけてくる。頭がボヤボヤして、うまく抵抗することが出来ない。
「レオ、ふざけないで」
「うん、0時回ったわ。お誕生日おめでとうございました」
「?ありがとうございました」
「楽しかった?」
「うん、しあわせ、だったかな。ありがと。わがまま聞いてくれて」
レオをひとりじめできるのは、やっぱ心がポカポカする。いいお誕生日だった。
「じゃあ今度は」
「ん!?んぇ、れぉ、やぇて、あゃ」
「はは、色気ねぇの」
「なにレオ、舐めないで。口べちゃべちゃだよ」
レオの目が、いつかのようにドロドロと濁っている。
「レオ?」
「散々煽りやがって」
でも、まぁ、結局、こういうレオのことも。
「今度は俺がいいようにしていい?」
「うん、お好きにどうぞ」