うつにこ(1) 栗橋駅にて1 栗橋駅にて
「そういうの、やめたほうがいい」
目の前の男、東武日光線は、感情をすべてどこかに落としてきてしまったかのような表情でそう言った。不覚にも一瞬戸惑ってしまい、不自然な間をあけてしまったことを後悔する。
「……そういうの、って何?」
日光は、彼の襟に触れていた僕の右手を優しく取り、太ももの横へ、そっと腕を下ろさせた。自然、気をつけのような姿勢になる。
「勘違いするやつだっている。気をつけた方が良い」
僕は日光の首元を見つめる。襟が、内側に入り込んでしまっている。ただその襟を正してやりたかっただけだ。もちろん下心なんてない。僕によく似たあいつもよくやるな、なんて思ったものだから、距離感を少し見誤ったかもしれない、ことは反省しないでもない。けれど、こんなふうに冷たく説教じみた言葉をもらう謂れはないだろう、と苛立ちが生まれる。
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