カリスマ美容師ki×客41♀ kiis♀カリスマ美容師ki×客41♀ kiis♀
「いらっしゃいませ、ご予約はされてますか?新規の方でしょうか?」
「あ、はい。予約したisgです。」
店に入った瞬間から41は既に店を出たくなった。否なんなら店の面構えを見た時から二の足を踏んでいたし、回れ右をしてしまいたかった。何故なら余りにも自分が場違いであると感じていたからである。それでも41が勇気を振る絞って店に踏み入れたのに訳があった。
41は就職を機に東京へと上京してきた身で、慣れない仕事や家事を必死こなし、気づけば1年がたっていた。時が経ち心に余裕ができると周りも自分も良く見えてくるようになる。その結果41はあることに気がついたのだ。
「あれ、俺…イモ臭すぎない?」
ショーウィンドウに映る自分がやけに惨めな女に見えたのだ、都会に生きる子達はもっとキラキラして見えるのに。
最低限の化粧に適当なパーカージーンズ、目にかかるほど長い前髪に、ボサボサと手入れのされてない髪を1本に雑に纏めただけの姿。このままじゃまずいんじゃ?と41は危機感を覚えたのである。そこで41は周りの同僚や後輩に相談した。幸いにも皆良い人でたくさんのアドバイスをくれる。その中でも1番多かった意見はその野暮ったい髪型を何とかしなさい!だったのだ。41は周りの言う通り美容院を予約した。それを皆に伝えればうんうんと頷く。
「髪型で結構変わるのよ。」
「そうそう、ちなみに何処を予約したの?」
「え?えーとここ!千円で切ってくれるんだって!」
「だめだ、姉御!この人にまかせてらんないです!」
「あたしが人肌脱ぐわ、41はその予約を黙ってキャンセルしなさい。」
そう言って41の予約は反論の余地なくキャンセルされ同僚の手によって新たな美容院が予約されたのだ。それが、41が震えながら立っているbmなのである。
「ビビって逃げるんじゃないわよ、予約するの大変だったんだから。」と釘を刺されたが、道理でそうするはずだ。
だってここ!美人の客しかいない!来るとこ間違えた!?
もう店構えからいかにも高級でオシャレ感漂う様で、中に入ってもそうだった。店員も客もキラキラで眩しいし、何か良いの匂いするし、何かの賞状とかトロフィーが死ぬ程飾ってある。できるだけキレイめな白シャツとスキニーできたのだが明らかに場違いな雰囲気にたじろぐ。気のせいか先程から周りの視線が痛い。店員が予約表を確認する時間がやけに長く感じられて、同僚には悪いがこのままバックれたいと考えていた41にやっと声がかかった。
「お待たせしました。確認とれました。13時から予約でしたね。それで、あー…えっと大変申し訳無いのですが、今日担当を予定していたものが急遽休みになってしまいまして、代わりのものが空くまで少しお待ちいただいてもよろしいでしょうか?」
「え?はあ…」
まさかの展開にやっぱり自分はこの店に似合わないと言われてる気がした。これを口実に断ってしまえばよいと思い口を開く。
「あの、じゃあ今日はキャン…」
「おい、俺が空いてる。俺が担当しよう。」
「へ?」
「え、kisさん!?」
急に背後から現れた男に41はポカンと口を開ける。何せ滅多にお目にかかれないような美形がそこに居たからだ。心做しか周りからもざわめきと好奇の目が彼に集まる。
「でも、貴方が新規の客を相手にする必要は…」
「なんだ?新規をとるのも仕事の一つだ。丁度手が空いてる俺がやれば良いだろう?」
「ええ…」
「カットだけなら直ぐ終わる」
ピシャリと男は言い切ると、戸惑う店員を置き去りにして41されるがままに奥の部屋へと通された。まさかの個室にキョロキョロしていれば、男は「俺が外にいれば外野が煩いからな」と付け足す。
「そ、うなんですね?」
「まさか俺を知らないで店にきたのか?」
「有名な方なんですか?」
確かに男の見た目は芸能人ばりに良い。
「いや、なんでもない。それよりカウンセリングを始めよう。担当するkiだ、よろしくな41」
「…よろしくお願いします」
いきなり客を呼び捨てにする態度に少しムッとする。この態度でクレームがこないのだろうか。あ、有名ってそういう意味で?カッコ良いけど、変な人が担当になってしまった…そう気分が下がったのもつかの間だった。
気づけば施術は終わっていて、目の前に映る自分が自分では無いようだったから。サラサラの髪は綺麗に毛先が整えられていて、見違えるように美しくなっている。カウンセリングも案外丁寧だった彼は41の意図を汲み取るとそれをあっという間に再現して見せたのだ。それに彼のシャンプーの施術も見事なもので、思わず気持ちよくてうつらうつらと夢と現実をさ迷ったあげく、丁寧で迅速なカット、そして最後には41がマネ出来っ子無いような凝った可愛らしい髪型にスタイリングしてくれた。文句のつけ所がない。最初落ち込んだのが嘘かのように41は鏡を見て気分が上がる。
「凄い!魔法みたい!俺じゃないみたい!」
凄い凄いと子供みたいにはしゃいでしまう。どうにかこの感動を彼に伝えたくて、41は気づけば彼の嫋やかな指を手にとっていた。
「ありがとう!あんたのお陰で自信がついた気がする!天才だ!」
「あ、ああ。気に入ったなら良かった」
kiは初めの大きな態度はどこへやら、戸惑ったような顔をした後、小さく微笑んだ。
こうして41の垢抜け大作戦は成功!!に見えたのだが、ウキウキと会計を払おうとする41にkiが「次の予約はどうする?」と聞いてきた。
「え?次?」
「はあ…まさか1回きりか?」
継続は力なり、それと一緒で髪も美しさを保つにはケアを続けていく必要があるのだとkiは話す。
「でも、俺そんな金ない、し。」
「ほう〜、これ程の金額でも払うのは難しいか?」
電卓に提示された金額、それは41が思った程の値段にもいかない、店の様にしてはリーズナブルな値段に驚く。
これなら確かに通える。
「41もキラキラしたいんだろ?」
その言葉に思わず41も頷いていた。
1ヶ月後、41は再び店を訪れる。今日はkiに言われるがままにトリートメントを受けに来たのだが、またもや担当したのはkiだった。聞けば一度担当した客はそのまま担当を持ち続けるらしい。施術を受けた後、髪はやっぱり見違えるように艶を放っていて思わず「天使の輪だ!」と口にした41にkiは吹き出していた。kiは毛先を整えると言って髪を優しく解いていく。その手つきが何だかとっても優しくて、妙な擽ったさに41がクスクス笑えば彼は手先がブレるだろうと口先は少し怒りながらも口元は笑っていた。
41はすっかりkiの施術の虜になった。何より彼との会話も楽しかった。フットボールが好きだと言う彼は実際にチームにも入っているらしく、その話題を筆頭に二人の会話は弾んでいた。施術もピカイチで接客も少し癖はあるが慣れれば良い。1ヶ月ごとに美容院を利用するようになった41は常連の仲間入りを遂に果たしたのだ。念入りに手入れされたと分かる美しい黒髪に、美形なkiに恥じないよう一生懸命オシャレを学んだことで41はあどけなさを残しつつ可愛らしい女性へと変貌していた。
「ねえ、随分変わったじゃない。やっぱり髪型を整えたのが良かったのね!」
「うん、ありがとう。」
同僚のお陰で1歩を踏み出せたのだとお礼を言えば、いいのよーと彼女達は笑う。
「でも、本当綺麗になったよ。特にこの髪!相当お金かけてるでしょ!さっらさっらじゃない!ほら!」
「えへへ、実は紹介してもらった所に今も通ってて…。」
「え!?そうなの!紹介した身だけどあそこ施術は良い分高いでしょ?」
「へ、高い?そうかな?」
月一で通っていると言えば、周りはえ〜!と声を上げる。
「41、あんた意外とお嬢様?」
「いや、一般家庭の生まれですけど」
「うーん、まあ担当によってピンからキリだからね〜」
「そうね、そういえばあそこの美容師で…」
話は困惑する41を他所にどんどん進んでいく。
「やっぱり一度担当になってもらいたいよね、カリスマ美容師ミヒゃエルkis!」
「?ミヒャ」
「でも人気なだけあって滅多に出てこないじゃない。予約も1年先まで埋まってるし、相当なセレブじゃないと予約も取れないわよ。」
「あとコネね、でも雑誌でも見たけどあの顔!体!最高よねー!あんな美形に髪触ってもらいたいわ。」
「でも施術代に+して指名料も取られるから市民のあたし達には下っ端で精一杯ね。だってもう指名するだけで10万超えるらしいから。 」
「は〜もうホストじゃない!」
お手上げだと皆はため息をつく。
「まあ、でも月一で通ってる41には彼を見るチャンスがあるかもね!」
「う、うん。そうかな?」
言えない。もしかしたらその予約困難の指名料10万超のカリスマ美容師に既に会って毎回月一で施術を受けているなんて。
でも、本当?だって毎回リーズナブルなお値段で施術し、「次の予約は?」と彼から聞いてくる。予約を迷えば彼は「何故すぐ答えない?」と不機嫌な顔をするのに。