御影玲王生誕誕2024「レオ、誕生日、もう今日だけど、なにして欲しいの?」
前々から、レオに誕生日何が欲しいか聞いていた。けれどレオは頑なに、一緒に過ごせればいい、何も用意しなくていい、としか言ってくれなかった。
「日付変わった瞬間一番におめでとうって言ってくれただろ」
「それだけじゃん。その後ナニかするのかと思ったら何もしないで寝ちゃうし。朝もさっさとベッド出て行っちゃうし」
レオ、朝早く起きたなーって思ったら電話をしたり、ラインを返したりで忙しそうだった。
「年取るにつれ、おたおめ連絡増えてるんだよ。最近は仕事の付き合いでくれる人もいるしな」
そう言っている間もサラダを口に運びながらずっとスマホをいじっている。
「レオ、はしたないよ」
「これだけ、これ返事したらちゃんと食べるから。後輩なんだけど、いろいろ気にするやつだからちゃんと返さないと」
朝食、せっかく俺がめんどくさがらずに一人で準備したのに。
「もー」
「悪い。すごく美味しいよ、このスペインオムレツみたいなの」
「スペインオムレツなんだよ」
ムッとしてほっぺたを膨らます。何その顔かわいー、とレオが笑う。お前の方が可愛いよ、とは口に出さない。こんな風に、普段通り過ごす日常が何よりの贈り物、と考えてくれているのかな、って俺は思った。
「で、誕生日のことなんだけど」
「え?!あ、もう終わりかと思った」
「?まだ何もしてないじゃん」
あの後俺たちはゴロゴロモード、いつも通りの午後を過ごしていた。レオは、腹這いで寝転がりゲームをしている俺のお尻を枕にして、仰向けに寝て経済誌を読んでいた。こんな姿をレオのご両親が見たらビックリすると思う。
「そういえばレオ、今日ご両親と過ごさなくてよかったの?誕生日は家族で過ごした方がいいんじゃないの?」
「今、俺の家族は凪だけだ」
「そういうのは置いておいて」
「今週末お盆も絡めて家族の集まりあるから、その時祝ってもらうよ」
「そっか」
ひとまず安心。俺に構い切りで連絡を怠っているせいで、レオのご両親が俺に安否確認をしてくるくらいなのだ。心配されている。
「で、何が欲しいって?」
俺が体を起こしたから、レオもゴロンと転がってしまった。経済誌がレオの手の中でグシャっと潰れる。
「もらうんじゃなくて、やってほしいことがある。さっき思いついた」
「やってほしいこと?」
レオが言いづらそうに、モジモジしだす。上目遣いで、口を開けたり閉めたりしているのを見て、嫌な予感がする。これは多分すごく面倒くさいか、すごくえっちな要求をされそう。
「一日、俺の部下になってくれない?」
面倒くさい方だった。
レオのお願いはこうだ。仕事ができなくてもいいから凪のような可愛い後輩が欲しいとのこと。以上。失礼しちゃうわ。
「具体的には何をすればいいの?」
ひとまず俺はスーツに着替えさせられ(レオもいつの間にかスーツに着替えていた)、レオの仕事用の部屋に移動してきた。テレワークの日や、個人的な仕事をするための部屋だ。
「そこの机使って。このパソコンでこれに書いてあることを入力してくれ」
パソコンと、びっしりと文字で埋め尽くされた紙を渡された。
「何これ」
「盆明けの会議で使う資料」
普通に仕事頼まれた。そしてレオも普段と同じように仕事を始めてしまった。休日なのに。レオは仕事大好きだから、誕生日でも仕事したいってことかな。やばい、この能動的な社畜、なんとかしないと。
「終わったよ。他は?」
「早!助かる、本当に。次これ頼んでいいか?まじで凪みたいな後輩欲しいな」
「お褒めに預かり光栄。うーん、これだったら1時間かからないかも。次にやるものも用意しておいてね」
「!!任せとけ!仕事貯まってるから!」
そんなこんなで3時間経過。さすがに疲れてきたかも。レオ、全然休憩してない。
「レオ?」
「悪い、今調子いいから、ちょっと待って」
「あんまり根詰めすぎないでね、はいどうぞ」
「?!凪!」
「コーヒー。レオが前に言ってた、えーと、猿なんちゃらの珈琲豆」
「覚えててくれたのかー、はー、これだよこれ!頑張りすぎですよ!一息ついてくださいね!って言ってくれる可愛い後輩!癒されるー」
「頑張りすぎだよレオ。一息ついてね」
「~~~~24時間働けます!」
俺の凪が可愛い!リゲイン!と叫びながらまた作業を始めたレオ。いや、休憩しないんかい……
「レオー?ばぁやさんがご飯届けてくれたよ」
6時間経過。俺もレオにつられてつい仕事に没頭してしまった。ばぁやさんが訪ねてきてくれなかったら、夜になってることも気づかなかったかも。
「ご飯食べなね。俺は食べるよ」
せっかくの誕生日なのに。レオがいいのなら、いいのかな。
「なーぎ」
「へ、あれ?今何時?」
時計を見たらもう22時を回っていた。
「もうこんな時間か。レオ、ご飯食べた?お風呂準備しないと」
レオは返事もしないで、後ろから俺の首に腕を回してギュウと抱きしめてくる。
「レオ?」
「敬語」
「え?」
「敬語で喋って。後輩だから」
なんか始まった。
「お仕事は終わりましたか?レオ」
「御影課長」
「御影、主任?」
「課長!」
実際より格が上だ。
「こんな時間まで俺の仕事付き合ってくれてありがとな。お前だけだよ、俺についてきてくれるのは」
「んー。いいえ、御影課長のこと尊敬しているので。どこまでもついていきます」
「何かお礼しないとな」
「この後暇?明日休みだろ。奢ってやるよ。付き合って」
「帰ります。旦那が家で待ってるんで」
そういうとレオは顔を顰めて、俺の左手薬指に嵌められた指輪を撫でた。そしてゆっくりずらして床に落としてしまった。ちなみにこれは、レオがくれたものだ。
「ちょっとー、何すんの?じゃなかった、何するんですか!」
「なぁ、旦那のことなんかさ、忘れさせてやるよ。俺の方がいい男だろ?お前の旦那より」
レオである。
「御影課長の、奥さんに悪いから」
「愛情なんてとっくに冷めてるよ。あいつは俺の肩書きにしか興味がないんだ。君の方がいいよ、妻より」
俺のこと、じゃないのかな。もうなんか、設定よくわかんないな。って、あれ?!
「ちょっと!レオ!何してるの!」
レオが俺の体を弄り始めた。
「レオじゃないし。御影課長だし。御影課長って呼んでくれないとやめてやらない」
「みか、みかげかちょ、やめて、くすぐった、」
「いいこ、凪はできたほんと、部下だよ」
「やだ、やめてくれるって!言った……!」
「うんうん、いいこいいこ。いいこの凪、たくさん撫でてやろうな。どこがいいんだ?ここか?それともこっちか?」
「オヤジくさっ!!やっ……ヤダ、も、やだぁ……」
「あのさ、凪。俺、今日誕生日だから、な?」
うわぁ、すっごいいい笑顔。力を抜いて抵抗を止めれば、さらにご機嫌な顔で覗き込んでくる、レオ。
「スーツ、脱いでいい?汚したくない」
「だーめ」
結局日付が変わっても、レオの望むままイチャイチャして過ごした。
職場でほんとにこんなことしてるんじゃないかと俺が疑念を抱いて喧嘩になるまで、あと12時間。