とくべつ〝おやなみ〟そうだんしつ ソファの定位置から物憂げな面差しでうっそりと窓の外を眺めているその姿はとても美しいと思う。耳をぴこぴこさせながらモン天は天を眺める。憂いを帯びたローズクォーツの瞳は夕陽を受けてきらきらしているけれど、どこか朧げにも見えてモン天はくいっと体を捻った。
てちてちと天の傍まで近寄れど、そのローズクォーツがモン天に向くことはなかった。ただただ窓の外を見つめている。
何か面白いものがあるのだろうかと同じように窓の外に顔を向けるも、いつも通りの綺麗な夕焼けが広がっているだけだった。昼と夜の一瞬の隙間。ごく僅かにしか見られない空の風貌。青い空の時はぴかぴかの太陽がこの時ばかりは真っ赤に燃えているのを見てびっくりしたこともある。火事なのか、と天を問うて「火事じゃないよ。あれはお日様の衣装替え」と教えてもらったのは懐かしい記憶だ。
あの時の天はこんな風にぼんやりとしていなかった。少なくともモン天がこれだけ近くにいて気づかないなんてことはなかった。モン天は短い手を顎に添える。考えること暫し。ぽくぽくぽくぽく。ぴーん!
名案を閃いたモン天は善は急げとばかりに素早く行動を開始した。
※※
ふとモン天が自分を読んでいる声がして、天は意識の焦点を現実に合わせた。
あまりにも綺麗すぎる夕焼けに陸の髪色を、そして今の姿からは想像できないほどかよわかった頃の弟を想起してしまってつい感傷に浸ってしまった。
今は同じステージの上で何時間も歌って踊れるくらいに強くなった、天の初めてのファン。七瀬天の、唯一のファン。
今の自分は九条天で、その生き方に何ひとつ後悔なんてない。九条天を愛してくれる人がいる。信じてくれる人がいる。そのことに喜びこそ覚えど、苦しみなどない。胸を張ってそう言い切れる。
それでもふとした拍子に道をわかった弟の姿を思い出す。二度と道が交わることがないのだと認めたのは自分自身だけれど、納得もしているけれど、それでも何も思わないではいられないのだ。
ボクもまだまだだな、と苦笑して頭を切り替える。天を呼んだモン天へと体ごと向けた。
「モン天、呼ん、だ………………」
なにこれ。
それまでの感傷も何もかも吹き飛ぶモン天の姿に天は思考回路ごと固まった。当のモン天は机の上でふんすと胸を張っている。その顔はとても得意げである。
「……おやなみそうだんしつ?」
自作らしい襷に書かれた文字をなんとか解読して読み上げれば「そのとおり!」と言わんばかりにモン天が自分の胸を叩く。持ってきたらしいお気に入りのクッションを机の上に置いてもすりと腰掛けた。「さあ、なんでも話したまえ」。そんな副音声が聞こえてきた気がした。
目を瞬くことしばし。じわじわとモン天の気遣いを理解して天は相好を崩した。
「ありがとう。それじゃあボクの〝おやなみ〟を相談させてもらおうかな」