ほうこうてんかんじにはウインカーをおだしください その香ばしさにモン天の耳がぴんと伸びた。追って「ただいま」という楽の声が鼓膜を揺らす。どうやらお土産を買ってきてくれたらしい。モン天は瞳を輝かせてソファからローテーブルの上に移った。短い足を畳んで楽の到着を待ちわびる。
数分後、モン天が縦に百体ほど並ぶ必要があろうかと思うほど長い脚がリビングに踏み入る。先に手を洗っていたのだろう。モン天の大きな耳がキャッチした水音は恐らくそれだ。さておき、モン天に気づくと「お、今日はそこにいたのか」と快活に楽が笑った。その手にはビニールに入った紙袋がある。美味しそうな匂いはそこからか、とモン天が瞳を輝かせれば、行動を察したのか「ちゃんとおまえの分もあるから焦んな」と制止されてしまった。
「ほんと食い意地張ってるよな、おまえ」と苦笑しながら皿を片手に楽がキッチンから姿を表した。その上には串に刺さった白玉団子がお行儀よく乗っている。モン天がそわそわしている前に皿を置いた。炭火で焼いたのだろうか、白玉団子の表面の一部がこんがりと色づいていて、それを覆うようにつやつやの琥珀色のたれがたっぷりと滴っている。間近に用意されて素朴な匂いと甘じょっぱい匂いが絶妙に混ざってモン天の鼻腔を擽った。だぱあ、と涎が洪水のように溢れ出た。楽が慣れたようにその口を布巾で拭ってやった。
「近くで団子の移動販売やっててさ。おまえも天も好きだろうなと思って買ってきたんだよ」
モン天の反応の良さに楽もまた喜ばしげに目を細める。そんな楽を尻目に、モン天は器用にも串を持つと自分に対して垂直に団子を向けた。かぷりと食いつけばもちもちした触感ととろみを帯びた餡の甘みと適度な塩気にモン天の脳からエンドルフィンがどぱどぱ生成された。
「いや待て待て待て、縦でいこうとするな。串が喉に刺さるだろ。横からいけ、横から」
そのまま食べ進め、一段目を食べ終わろうかというタイミングで顔を顰めた楽が串を持った。取られてなるものかとモン天が渾身の力を込めて串から手を離した代わりに団子を全身で抱き締める。みたらしたっぷりのそれはモン天の毛にこれでもかと絡みついた。楽は叫んだ。