何度だって言いたくなるので その日の天は久方振りに疲弊していた。
早朝の情報番組の生放送から始まって新曲のレコーディングに続き遅めの昼食を半ば流し込むようにして移動中の車の中で終わらせたら長回しのあるドラマの撮影を経て自身がメインパーソナリティを務めるトーク番組の収録を行ってから大物アーティストのラジオにゲスト出演と、とにかくハードでタイトなスケジュールだった。どうしてもこの日でないといけない、という動かせない事情があったのだ。
とはいえ予定をフィックスする前に姉鷺に本当にいいのかと念押しで聞かれ、構わないと答えたのは天である。寧ろ限界まで調整してせめてこまめな休憩を挟めるようにしてくれたその手腕には相変わらず舌を巻くくらいだ。
「いつも送迎ありがとうございます、姉鷺さん」
「いいのよ、気にしなくて。こんなことしかできないんだから。それより明日はちゃんと休んでコンディション整えなさいよ。そのためにオフなんだから」
「はい。わかっています。お気遣いありがとうございます」
スマートな微笑みを向けて姉鷺が車を走らせる。その車体が見えなくなるまでを見届けて天はマンションのエントランスを潜った。
充足感はあるし、とても楽しい。その気持ちに嘘はない。ただずっしりとのしかかる何かが足取りを重くさせる。
天も活動限界を有する人間であり、疲労感も当然ある。若干のトラブルがあったのもあり、どうやら自分が思ったより疲れていることを知る。ボクもまだまだだな、と苦く笑って玄関を開ければ、ふわりと優しい匂いが鼻腔を擽った。
「おかえり、天! そろそろ帰ってくる頃かなって思ってたんだ」
ひょこりその長躯をリビングから覗かせた龍之介に天は目を瞬かせた。今は二十二時を半分以上回っている。それなのに夕食時のようなおいしそうな匂いはどうしたことか。
「天が今日は忙しくてまともなご飯食べられてないって姉鷺さんに聞いたから作ってたんだ。あ、ヘルシーでお腹に優しいやつだから安心して」
よそっておくから天は手を洗っておいでよ、と朗らかな笑顔の龍之介に天は真剣な顔をした。
「龍」
「何?」
「一緒に住もう」
「今まさに住んでるよ!?」