オブザーバーには気づかない 材料を投下する。煮詰める。色が変わったらまた別の材料を入れる。毒々しい色の煙を噴き上げて水溶液の質感が変わる。ムラのない紫が光沢を帯びて鮮やかなマゼンタに変わる。イデア先輩の口の端がゆっくりと吊り上がった。うーん悪人面。
「フヒヒッ、成功……拙者の手に掛かれば」
陰気に笑みを燻らせて大釜の中身を眇めるイデア先輩はとても機嫌がよさそうだ。元々錬金術は好きとのことだし、つつがなく成功したのもあってうきうきしているのかもしれない。可愛い人だ。
「レポートと後片付け含めても時間余りそうなんですけど、どうします?」
「んー……ちょっと別パターン試してみたいな」
そう言って具体的に語り聞かせてくれたものの、何を言っているのか九割以上理解できなくて「なるほど……」と真剣な顔をして頷くしかできなかった。とりあえずイデア先輩が頭がいい人ってことだけはわかった。
「絶対わかってないでしょ。そうならそうと言ってくんない? 素直に質問できるのも必要スキルですぞ」
これだから、と言わんばかりに溜息混じりにお説教されてしまった。よくそれを汲み取れたなこの人。わかったふりは非常にうまい自信があるのに。
そんなことを言えば「え? 見てたらわかるくない?」と不思議そうに言われてしまった。もしや意外と見られているのだろうか。