涼を求めて何歩でも 蝉すら鳴かない酷暑。空を見上げずともわかる強烈な太陽の日差しを受けた天の首筋には幾筋もの汗が伝っている。日焼け止めは勿論のこと、帽子にマスクにサングラスと徹底して紫外線を対策しているが、それ故に熱くて暑くてたまらない。日傘を持ってきていなければ比にならない程のダメージを負っていたと思うとぞっとする。焼肉の気持ちがわかってしまった。
隣の楽を見上げれば、サングラスの向こうで銀鼠がげんなりと眇められている。特に色白の楽は日焼けが酷く目立つ。今ほど男性の日傘が当たり前ではない時からずっと差している分、その違いをよく感じるのだろう。
「マジであっちぃ……これ日差しっていうかもはや光線だろ」
「日差しがビームになる日が来るなんて思わなかった」
「でも家で龍が素麺作って待ってくれてるからな。気合入れて帰るぞ」
「そうだね。ボクたちには龍の素麺がある。なんとしても帰らないと」
二人して顔を見合わせ表情を引き締める。互いの腕にそれぞれ下げたエコバッグには必要な日用品が詰まっている。料理を担当してくれている龍之介の代わりに二人で調達した戦利品だ。
「……龍、確かキュウリの梅肉和え作ってくれるって言ってたよな」
「……カツオのたたきも仕込んでるって言ってた」
口にした瞬間、二人の脳裏に鮮明に描かれる。瑞々しい緑に絡む梅肉と、じっくり燻製されて香ばしい匂いを醸すカツオ。そしてたっぷりの氷水が張ったガラスのボウルに揺蕩う弾力のある色取り取りの素麺。
互いに無言だったし、思考がシンクロしているだなんて当然知る由もない。ただ、示し合わせたように自然と二人して速足になった。
最後の方は競歩を疑われる程の速度になったし当然汗だくになった。その結果、目を丸くした龍之介に「先シャワーしてきなよ」と笑われてしまうのは数分後の話である。