音、自白、夜行性 薄暗い部屋の中で、仄かな光を放つモニターに触れる。
「どしたの辻ちゃん、元気ないね」
「先輩」
俺の指に合わせるようにして向こう側から添えられた手。深夜、俺がこのPCの電源を入れる時だけ目覚めるひと。水色の瞳がすっと労わるように細くなる。
「疲れてる?」
「……はい」
「そっかそっか」
なにがあったの、とは聞いてくれない。仮に聞いたとして彼には理解できないからだ。
「辛かったねぇ」
決まった台詞、定められた慰め、それが彼の役目。ブ──…ン、と本体が低い駆動音を鳴らす。兄のお下がりのタワーPCはさほど性能のいいものではなくて、だからこんな単純なプログラム一つ動かすにも全力疾走だった。
「辻ちゃん」
にこ、と綻んだ先輩が、続いて言葉を口にしようとする。
「すき、だ。よ」
急にぎこちなくなる発音。つぎはぎなのが丸わかりの電子音声。当然だ、だってあの人は、俺の前で「好きだよ」なんて言ったことない。こんなことまでしちゃって変態じみてて嫌だなぁ。
「犬飼先輩……」
どこにいますか。
「ここにいるよ、辻ちゃん」
仮初の彼が微笑む──可哀想に、消費されるだけの役目を背負わされて。
机の上に置いたままのスマホがぱっと明るくなる。画面には「冬島さん」の文字が浮かんでいた。
「必ず見つけます」
本当のあなたは今、どこの星で生きているのだろうか。見つけますから。おいていくなんてひどいですって言いますから、だから待っててくださいね。
「……うん、待ってる」
どこか寂しそうに笑う彼を見つめながら、ぶつん、とPCの電源を落とした。
「すき、だ。よ。ねぇ。辻ちゃん」
そんな男やめて、おれにして。
──音声ファイルが見つかりません。再生不可能です。