火遊びの延長戦 港でのとある任務をこなした後。沈めるだけだったので後始末がとっとと済んでよかった、なんて言いながら拠点の事務所に帰って来た俺たちはそれぞれ使った武器の片づけをしていた。
血を吸った刀を放置しておくとすぐに錆びて斬れなくなってしまう。階下の武器庫へ銃を納めにいった彼は「今の時代に古風だねぇ」と笑ったけれど、俺にとってはこの刀だけが己の武器だった。労わるように念入りに手入れを施していた俺に、背後から急に重みがかかる。
「……危ないです、先輩。これ抜き身ですよ」
あは、と笑った彼は静かに嗜める言葉にも耳を貸さない。
「ねえ辻ちゃん勝負しよ」
「……なんのです?」
「これ」
言うなり、彼が取り出したのは小振りな黒い塊。
「手榴弾じゃないですか。どこで見つけてきたんですか?」
「さっきの人が持ってたから使えるかなって」
「使えるかなって……あいつ盛大に海に落ちましたけど。しけってるんじゃないですか」
「そう、だから賭け」
「……はぁ?」
思わず見上げると、彼は既に手榴弾のピンを引き抜いていた。まさか。
「これが爆発しなかったら辻ちゃんの勝ちね」
「ちょ──」
この距離じゃ俺も死ぬでしょうとか、なんで先輩が死んで先輩の勝ちなんですかとか、突っ込む間もなく彼がぱっと手を離す。落ちてゆく手榴弾を見つめるその視線はどこか期待したような、夢を見る子供のような無邪気さを孕んでいた。
──かつん、
「……あ~あ」
「あ~あじゃないですよ、馬鹿じゃないですか」
「反応薄~、つまんないなぁ」
「もう慣れました」
こんなことは初めてじゃなかった。相棒になって共に過ごすようになってから何度も、不意に任務外で自分の命を危険に晒してはへらへらされていい加減反応するのだってばかばかしくなる。……これはそう、子供がライターの火に見とれるようなものだ。先輩が手に残ったピンを薬指に通して笑う。
「見て見て、指輪」
「先輩のしかないじゃないですか」
無意識に言ってすぐしまったと思う。彼は一瞬ぽかんとした後、……子供のような、幼気な笑みを咲かせた。
「辻ちゃんのも欲しかったってこと?」
「……うるさいです」
「待ってよ、ねぇねぇ、今度買いに行こ!ね、いいでしょ?」
「先輩が負けたんですから言う事聞く義理ないですね」
「えぇ~!」