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    sonogo888

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    sonogo888

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    ガッちゃんとうるしです 雰囲気だけ 
    暗いかも

    僕だけの、曇り空だった。
    空一面を塗りつぶしたような灰色ではなく、さまざまな陰鬱さを幾重にも重ねたようなそんな色の空を、求めていた。

    なにか見えないものに引き裂かれそうな心で、いっそ早く誰かにそうして欲しくて、そんな空を渡るように歩く。
    雨は、まだ降っていない。
    春の生ぬるい風は、ずっとずっと忘れていたのに会えばひどく懐かしくなる古い友達みたいだ。
    きっとまた、すぐに思い出せなくなる。

    誰が何と言おうが、僕は苦しかった。
    泣く事は、自分への慰めで、彼への甘えだと思えるほどに。
    僕の武器だった努力は……いつからか、そのずっと目の前にあった背中の前に回って、ここに来るのにどんなに努力したかを笑って話す瞬間の想像は。
    すべて、ガラクタとなって色を失い地に落ちた。
    それくらい、ほかになにも無かったんだ、僕には。
    人生に、愛されていない。
    神様は、いない。
    だって
    どこにでもいるような僕みたいな人間の側にも、こんなにも悲しみは落ちている。

    「伊月」

    背中の、すぐ後ろから声がした。
    咎めるような、安堵したような、そんな音。
    でも、遠い。だから、呼びかけに答えられない。
    今の僕には、自分が誰とも向き合えない事くらいしか分からない。
    だけどその誰かの手が、僕の手を取ってぎゅうっときつくつないだ。
    ………
    ぐらり、と世界が地面から天に回る。
    急速に流れる雲と雲の中に、黒い点。
    ああ、カラスだ。
    一羽、大きなカラスが降りてきて、僕たちをその闇のような羽で撫でるように通り過ぎた。
    「伊月おい、オレだ」
    その触れた自分とは異質な高さの体温に、視線を下ろす。

    「ガッちゃん」

    僕が名前を知っていて、僕の名前を知っている人。 
    その人は、今日の空のような目をしていた。
    僕の孤独な心が、まるでそこにあってうつしてしまったような?

    「どこ行ってたんだよ。お袋さん、心配してたぞ。もうすぐ入学式なのに、今日も帰ってこないって……」
    その真剣な声が、一度空気を飲み込む。
    「お前のあのお袋からオレに電話がくるなんて、絶対無いと思ってた。このままだと、警察に連絡されんぞ。一回帰ってやれよ」

    ごめん。
    きっとすごく、探してくれたんだ。
    なんだか、疲れた頬をしているね。
    そんな風にここまで来て見つけてくれるほど前の僕は、君に優しくできてた?

    でも、許してほしい。
    もう今の僕の世界は、家族からも、ガッちゃんの世界からも切り離されている。
    何もかも、誰も僕に関係が無い。

    「お前は何も悪くねえだろ。だから、そんなに思い詰めんなよ」
    ガッちゃんの目が、悲しそうにゆがむ。

    「お前が、そんなに苦しんでもアイツは喜ばねえよ……だから……」

    「………」
    その手に力がこもるのを見る。

    ガッちゃんの頭上の雲のすぐ奥には、きっと明るくて青いきれいな空がある。

    だけど、今だけ
    僕たちにだけ、雨が降ってくれたらいいのに。

    そうしたら、ここにある世界の罪も優しさも何もかも包み込んで……
    ふたりで、雨宿りして
    ガッちゃんのその泣いてるみたいな寂しそうな顔に、僕の手で触れて


    「───大丈夫、ちゃんと帰るよ」


    今、持てるすべての力を使って笑いながら、ゆっくりと手を解いて離す。
    ガッちゃんは、痛くて痛くてもうこれ以上僕に触れられないって顔をしてた。
    優しいな。
    ありがとう。
    でも、誰かの傘はもらえないみたい。 

    かあかあと、逆さまのカラスが何かを内緒話するみたいに話している。

    その日、雨は降らなかった。
    神様は、泣いてはくれない。

    たった、ひとつぶの、涙さえ。




















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    recommended works

    夏月@kzntki0629

    PAST書きたいところだけを書いた誘い受けな村雨さんと(素人)童貞な獅子神さん。
    えっちなお姉さんな村雨さんが書きたかった。
    誘う男 「……お前、なにしてんの」
    風呂から上がると、オレのベッドに腰掛けている村雨がいた。オレが貸したパジャマを着ていたが、下は履いていない……と思う。流石にパンツは履いてると思いたいが、チラッと見えた感じ履いてない気がする。
    オレの視線に気付いたのか、脚を少し広げてきやがるから反射で手に持っていたタオルをぶん投げた。思いの外勢いのついたタオルは村雨の顔面に真っ直ぐ飛んでいった。
    「……おい、何をする。死にたいのか」
    「わ、悪い、つい」
    ずるりと落ちたタオルからは瞳孔を開きながらこちらを睨む顔が見えて、考えるより先に謝罪が口から滑り出た。
    俺の謝罪にひとまずは機嫌が直ったのだろうが、村雨はそれ以上何も言わずにすらりとした白い脚を組んだ。元々あまり外に出ないのだろう、村雨の身体は日に焼けるなんてものとは無縁なようで、体毛が薄いのもそれを顕著にしていた。いっそ不健康なほど白い生脚は、オレにとっては目の毒だ。タチが悪いのは、この男はそれを知りながらこうしているということだ。
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    takamura_lmw

    DONE🎉ししさんお誕生日おめでとうございます🎉
    ししさんお誕生日のさめしし、もしくはししさめです。
    一月に書いたさめせんお誕生日SSの続きです。

    あなたのこれからの人生が、あなたにとって素晴らしいものでありますように。
    できれば長生きしてください…頼む…ギャンブルなんかやめろ…ワンへなんか行くな…
    「誕生日、おめでとう」『村雨、八月二十七日って空いてたりするか』
     恋人の声を聞いた途端、村雨礼二はいざという時の切り札に確保していた上司の弱みを、ここで行使することを決めた。空いた片手で猛然と上司にビジネスチャットを打ちながら、頭の中では担当の患者とそのタスクについて素早くチェックをかける。どうしても村雨でなければならない仕事はないはずだ。あのネタをちらつかせれば上司は確実に休みを寄越すだろう。
    「休みは取れる。どうした」
    『即答だな』
    「偶然ここのところ手が空いていてな」
     嘘だった。所属する医局もいわゆる「バイト」先も相応に多忙だ。だがそれを彼に悟らせるつもりはさらさらなかった。
     村雨がここまで即座に恋人の―――獅子神敬一の、願いとも言えないような言葉に応えたのは、彼の声になにか特別なものを感じたからだった。不安でも、歓喜でもない。怒りでもなく、愉楽でもない。ただどこか尋常でなく、特別なもの。絶対に逃してはならないなにか。ほとんど第六感のようなものだが、村雨はそういった感覚を重視する性質(たち)だった。
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