【エー監♀】薔薇の王国の港町で遊んだ帰り道、駅につながる空中通路から見えたのは、フェリー乗り場に隣接した赤い観覧車。
「ねえエース」
「オーケー行くか」
「わたしまだ何にも言ってないよ」
「乗りたいんだろ」
なんで分かるのかな?エースってわたしよりわたしのことに詳しい。
「顔に書いてあんだよ」
絶対そんなわけないんだけど、笑顔のエースにほっぺをむにむにされると、突っ込む気持ちもなくなってしまう。そうかなあ?そうなのかも。でもさ、だとしたらわたしっていっつも顔に「わたしは常にエースにめろめろです」って表示されてるってこと?いや〜さすがに恥ずかしいかも。
「ホントのことじゃん」
だからなんにも言ってないのに!
エースをちょっとはたいて小走りに先を行く。ちら、と振り向いたら大人げないエースが凄まじい速度で走ってきて瞬く間に追いつかれた。
「早っ!こわっ!」
「はい捕まえた。ホント困るわ、そそっかしくて」
ぎゅうぎゅうに抱かれてくるしいくるしいって騒いで、騒いでいたら疲れちゃって、楽しくなって笑ってしまった。ああおかしい。
夕方の観覧車乗り場にはあんまり人がいなかった。真下から見上げると想像以上に大きくて、ううんこれはかなり滞空時間長そう、なんて感想が生まれる。
「だなー。うれしいなあ。逃げられない密室」
「なんでそんなこわい言い方するの」
ていうか、だから顔から勝手に思考読まないでってば。
スタッフさんの誘導に従って、ゴンドラに乗り込む。外観と同じように中も赤く塗られていてかわいい。
「いつも絶叫系だから観覧車ってひさしぶり!たのし〜い!」
窓にぴったり手をつけて、世界が遠ざかるのをじっと眺める。見えなかったものが見えるようになる。あるいは、見えていたものが見えなくなる。不思議。いる場所によって景色ってこんなにもたやすく変容するんだ。エースのことだけは、何処にいてもちゃんと見えるけどね。
海と空の境界線がよく見える。なんてきれい。エース見て、と振り返ったら、向かいに大人しく座ってたはずのエースが立ち上がった。そうしてそのまま、わたしの隣にむりやりぎゅっと詰めて座ってきた。当然ゴンドラが若干傾いて、わたしはワー!と騒いだ。
「えーっエース何なになに!?傾くじゃん!てか傾いちゃってるよこわいこわい!ちゃんと向かいに座ってなさい!」
「大丈夫大丈夫」
「全然大丈夫じゃないよ!」
騒ぐわたしをなだめるようにエースが耳とか首筋にキスしてきて、それを『合図』として学習しているわたしは意に反して即座にへろへろになってしまう。
「やっ……な、なにもう、ちが、だめ、だめですだめだめ」
「でもまだ、半分もいってねえし」
めっちゃ時間ある、と含み笑いで囁かれて、これが「逃げられない密室!」とショックを受ける。エースめ……!
一人分の席に無理やり座ってるものだからきつくて、でもそう思った次の瞬間に、エースがひょいってわたしを抱き上げて、膝の上に座らせた。家で二人きりで過ごす時のいつもの定位置。エースの好きな、わたしの好きな、定位置。
観念してエースの両肩に手を置く。前髪をすかれたら、ためいきが出た。
「もう、ほんとに……困る……」
「うそばっかり」
顔にはもっとって書いてあるけど。
エースが目をほそめて笑う。その頬を両手でばちんってして、 しかめっ面を作った。そうして、でもこんなことしたって意味ないやって思い直して、そっと顔を寄せて、素直に「もっと」の意思表示をした。