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    omo641

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    omo641

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    メダリストにハマりすぎてスケートやってる迫燈妄想が止まらなかったので供養

    捏造過多!!!スケートよくわからないにわか知識!!「せんせー! またねー!」
    「はーい、じゃあまた来週な」

     少ない子供たちに手を振って、見えなくなったところで深く深くため息を吐く。
     折角経験も積んで、キャリアも積んだのに結局この土地である限り過疎化と衰退は免れないのだろうか。

     このリンクに初めて立ったのは、いくつの頃だったか。まだ景気がほんのちょっと良くて、誰かの寄付かなんかで作られたこのスケート場は、とても綺麗に見えた。それから才能を買われて、コーチがついて、一人でリンクに立つより、可愛い女の子と踊りたいと志願して、ペアの選手になった。
     とはいえ、大技でミスって相手の子に怪我をさせてしまってから、どうもイップス気味で上手く動けなくなり、ペアは辞めてアイスダンスへ。派手な大技よりも技量で魅せるアイスダンスは最初こそキツかったが、それでも全日本選手権に出て、表彰台にだって立った事がある。

     そこから、引退してサブコーチとして経験を積んでから、懐かしの我がホームとも言える地元のリンクに満を持して戻って来たんだが……

    「こうも人が居ねぇとはな……このままじゃ近いうち閉鎖だぜ……」

     スケート場の前で頭を抱えてしゃがみこむ。
     きっと、このリンクが無くなっても、俺は生きていけるだろう。

     けど、この先の生涯で、二度と思い出の地の氷で滑れないのは、スケーターとして想像しただけで虚しい気持ちになる。
     なら、もっと呼び込み頑張って、最後まで足掻くしかねぇよな。脳内会議とネガティブ終了!
     やると決めたんだ、やるかねぇだろ。
     立ち上がって今にも雪が降りそうな曇天に拳を突き上げる。

    「やってやるぜ! このリンクから有名選手出して人気にさせてやる!!」
    「ねぇ、アンタ」
    「うぉっほう!!??」

     いきなり後ろから話しかけられて、変な声を上げて飛び跳ねてしまった。飛び出てしまいそうな胸を押さえて振り返れば、白髪に青い瞳をした整った顔立ちの青年がこちらを見ていた。
     何処かで見た気がする顔だ。

    「えー……っと、なにか?」
    「アンタがこのスケート場の管理者?」
    「いや、流石に違うけど……でもまぁ、ほとんど俺が管理者ってもいいくらいな感じ?」

     管理者は市なのだが、市から委託されてここの近くに住んでる爺さんが管理してる。もうほぼほぼ身内みたいなノリで俺も合鍵とか持ってるし、爺さんが来れないときは俺が受付もやってるズブズブな感じだが。

    「ふぅん……じゃあ、アンタでもいいんだ」
    「え?」

     何が、と聞こうとしたら、目の前の高校生くらいの子供は手に持っていたスーツケースをいきなり開いた。

    「これで、いつまでこのスケート場借りられる?」
    「は、はぁあ!?!?!?」

     目に入ったスーツケースいっぱいの札束。
     ビビってあたりを見渡して人が居ないのを確認してから、ガキの手からスーツケースを分捕り慌てて閉じた。

    「ばっ、か、お前こんなのいきなり見せられて、俺が悪い大人だったらどうすんだ!」

     閉じたスーツケースをガキに押し付けて、嫌な汗を拭う。
     ドギドギと試合本番ですら感じたことのない緊張で心臓が口から飛び出そうだ。
     だというのに、目の前のガキときたら、不服そうに唇を尖らせる。

    「だから、リンクで練習がしたいから、これでどれだけ借りれるか知りたいんだけど」
    「は、ぁ?」
    「時間は、いつでもいい、貸し切りで少しでもいいから借りたい。せめて、1年……足りないなら、まだもう少しあるから……」

     徐々に小さくなっていく声に、俯いていく顔。
     やっぱり見覚えのある顔だ。ちょっと俺一人の一存では決められない事態からの現実逃避なのか、脳が勝手に見覚えの在り処を探す。白髪、青い瞳……以前、何処かで……

    「あ!?!?」
    「うわっ、なに?」
    「お前まさか、と、轟燈矢!? ノービス連覇、出た試合は全部優勝の!?」

     目の前の青年の顔がぐしゃりと歪む。

    「そうだけど、なに」
    「だっ、て、骨折で……もう復帰は絶望的って……」

     聞いたことがある。実際に、ジュニアに上がって輝かしい功績を残すであろう少年は二度と氷の上に戻ってこなかった。

    「もう脚は治ってる、知ってるならもういいや、復帰するために練習が必要だからこの金でどのくらい借りれるかって聞いてんの」

     あの轟燈矢がわざわざ、こんな僻地で?
     だって、銀メダリストの父親がいるはずでは。所属もリンクも、有名なとこだっただろ。
     
    「な、なんでここで?」
    「それをアンタに言わなきゃいけない理由でもあんの?」

     無い。
     無いが、そんな親の仇でも見るような目で言わなくてもいいだろ、おじさんは傷付きやすいんだ。
     ともかく、さっきまでは緊張で鳴っていた心臓が、今は期待で高鳴っている。見たい、あの天才の復帰を。今すぐに。

    「何だかよくわかんねぇけど、いいぜ、今開けてやるよ」
    「は?」

     さっき閉じたばかりの扉の鍵を開けて、スケート場に入る。
     ぽかんとしている燈矢を手招いて、さっき製氷したばかりのリンクを開放した。

    「ここの鍵は俺が持ってる、滑ってもいいが、一緒に見させてもらうぜ?」
    「……わかった」

     燈矢は背負っていたリュックとスーツケースから荷物を取り出して、慣れた様子で着替え始める。そして、何処か泣きそうな顔で誰もいないリンクを数秒見つめてから、その中へ入った。
     氷の上を滑る音。
     衰えのない姿勢の美しさと、速さ!
     思わずゴクリとつばを飲む。骨折など嘘のように滑る燈矢を目の当たりにして、気がつけば姿勢が前のめりになっていた。なにせ、現役時代より伸びた身長のおかげで一つ一つの動作がさらにキレイに見えるのだから。

     このリンクから有名選手が復帰……!
     最高の売名になる。このチャンスを逃す手はない、いっそ俺が金を払ってでもこの子に投資したいレベルだ。
     感覚を思い出すように自由に氷の上を滑ってから、燈矢は一つ一つ技を試し始めた。そのどれもが息を呑むほど完成度が高い。けど、その中にジャンプはない。シングル選手なのだから、ジャンプが飛べなければお話にならない。それに彼は、ノービスで三回転をあんなに飛んでいたのに。
     確か、骨折の理由は、ジャンプ練習と聞いたような気がする。トラウマになっているのだろうか。

     緊張した顔つきで、ぐるりと大きく一周回った燈矢は、勢いをつけて滑り、ジャンプの姿勢を作った。

     飛ぶ……!

    「っ!」
    「あっ、」

     これまでの流麗な動きが嘘のように、ビタリと足が貼り付いてしまったように氷上から飛べなかった燈矢は、姿勢を崩して倒れた。

    「〜〜クソッ!」

     ガツンと氷を殴る音。心底悔しそうな、苦しそうな表情。
     今のは、骨折がどうとかの次元ではない。これまで、他の難易度の高い技も出来ていた。ジャンプくらい飛べないわけがない。回転数が少なくても、上手く降りられなくても、それでも飛ぶことはできるはずだ。
     だが、実際はその刃が氷から離れることは無かった。離れたのは転んで姿勢を崩した瞬間だけ。
     その感覚、覚えがある。できていた事が、まるっきり出来なくなって、何度試しても元に戻れない、その感覚。

     イップスだ。

     立ち上がった燈矢は、がむしゃらに、何度も、何度も、飛ぼうと足掻く。しかし、その足が氷から離れることはない。
     ジャンプが飛べなければ、シングルは無理だ。

     そうか、だから、お前はこんなところまで来たのか。こんなところでしか、滑れなかったのか。

     何度目かの転倒に、見かねて声をかける。

    「おい! もう良いだろ、これ以上は体を傷めちまう」
    「っ、うるさい! 飛べなきゃ意味ない、飛べなきゃ……戻れない……っ、見てくれないっ!」

     溢れだす涙を煩わしそうに拭ってまたジャンプ練習をしようとする燈矢に、頭を掻いて靴を履いて中へ入る。
     声をかけてからも何度も飛び直そうとした燈矢は、それでも一度も飛べず冷たい氷の上に転がったまま、ブルブルと悔しさで震えていた。

    「お前のそれは闇雲にやってどうにかなるもんじゃねぇだろ。練習量の問題じゃない、練習の質を高めて、成功経験で上書きしないと治らねぇよ」
    「アンタに、何がっ」
    「分からねぇよ、分かんねぇけど、一人で足掻くより、二人で足掻いたほうが、なんか見つかるかも知んねぇだろ?」

     憔悴した表情の燈矢に、手を差し出す。

    「このリンク、いくらでも貸し出してやるよ。その代わり、俺をコーチにしてくれ」
    「な、んで……? 見ただろ、飛べないの……コーチなんて、するだけ無駄だ、する理由も、ねぇだろ……」

     そう言われたことでもあるのだろうか。

    「俺は無駄だと思わねぇ。1回飛べるようになれば、お前は絶対に、また表彰台に立てる! 俺が、絶対に、お前を飛べるようにしてやる。だから、少しの間でいい、信じてくれ」

     表彰台に立つ燈矢の姿を見たくなった。理由なんかそれだけで充分だ。理解出来ないと歪んだ燈矢の目から、またポロポロと涙が落ちる。
     俺が知ってる天才の轟燈矢はいつだって笑顔だったから、馴染みのない表情だ。案外、泣き虫な子だったんだな。

    「変な人……」

     何度か躊躇ってから、恐る恐る、手を握られた。
     その手を引っ張って立たせて、笑いかける。

    「本当に、また、飛べるようになるかな……」
    「飛べる、一人で飛べねぇなら、俺が飛ばす」

     なにせ俺は、もう一人いる前提で滑ってた奴だぜ?
     足が氷から離れないなら、無理にでも離してやる。絶対にまた飛ばしてやる!

    「ふ、なんでアンタそんな自信満々なんだよ……まぁいいや、俺のコーチの名前はなんていうの?」
    「おっ、と、名乗ってなかったな。ワリィ、迫圧紘って言うんだ。よろしくな、燈矢」
    「よろしく、迫さん」

     笑顔を浮かべる燈矢の顔が、記憶の中の天才少年とようやく一致した。懐かしいその顔、また表彰台で笑わせてやるから、よろしくな。




    続かない!
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