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    omo641

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    omo641

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    おねむりくんが何も変わらない家を見て、未来の記憶を知ってしまった話のらくがき

     見たくない、こんな光景、見たくなかった。
     大切に抱えてきた何もかもが、グチャグチャに踏み荒らされて、壊されていく。俺の死なんて、俺の存在なんて無かったかのような、何一つ変わらない目の前の光景に、足が震えて、膝から崩れ落ち、精神が限界を迎えて、気持ち悪さで喉がヒクつく。

     それと同時に、頭の中に、見たことのない光景が広がった。
     
     荼毘、俺じゃない俺。

     俺が、辿った末路。

     理解できない、なぜ急に、そんな光景が見えたのか。頭の中で情報があふれかえって、グラリと視界が回った。

    「ぅ、、ぶっ、げほっ、っ!」

     何も入っていない胃が、ビクビクと痙攣するような感覚がして、胃液が上がって食道を焼きビリビリと舌が痺れて、無色透明の体液が廊下に広がる。
     しまった、そう思った時には勢い良く扉が開いて、お父さんに腕を掴まれていた。

    「貴様誰だ!! 子供……!? どこから入った!!!」
    「い、たぃ……!」

     上に腕を引っ張られ、無理な姿勢で立たされる。

    「どこの子供だ!! 人様の家に勝手に入るなど……!! 親は何処だ!!!」
    「っ、」

     本当に、分かんないの?
     俺のこと、もう、忘れちゃったの?

     頭の片隅で、冷静な自分が、別人のようになっている俺をお父さんが分からないのは当然だと囁いてくるが、冷静になれない心が真っ黒に染まっていく。

    「お、とうさん、ほんとうに、おれのこと、わかんないの……?」
    「何を言っている……!?」

     頭が痛い、お父さんが何を言っているのか、耳鳴りでかき消されていく。
     グラグラと視界が回って、意識が振り落とされた。






     数日後に病院で目を覚ました。
     隣には冬美ちゃんがいて、夏くんもいた。

     3日ほど意識を失っていたらしい。その間に、戸籍を調べられていて、DNA検査で俺が轟燈矢であることは証明されたそうだ。

     お父さんは居なかった。

     意識を失っていた間に、記憶の整理がついた。どういう現象かは知らないが、確かに、俺はあのときお父さんに見つかっていなければそうしただろうし、その果ての結末も、なんとなく理解できる。
     奇怪な事だが、俺はそれを俺が辿る予定だった未来だと分かってしまった。

     今からでも逃げ出して同じような道を辿ろうとは、とてもではないが思えない。俺のしたことは、結局、なんの意味もなかった。何一つ成し遂げられず、全てが終わってから、お情けのように過去の自分が欲した物が与えられる。
     今更何も満たされはしないのに。

     意味がない、価値がない。俺の存在にはなんの意味も価値もないのだと証明するだけの人生だった。
     俺を突き動かしていた衝動も、激情も、今は全部が遠い。
     ただぼんやりと、病室で日々を浪費するだけ。
     医者はいつも、なぜ生きているのか分からない、いつ死ぬかも分からない、と言いたげな目で俺を診察する。
     荼毘を生かしていたのは、深い憎悪と執念。ならそれが無くなった俺は、きっと、長くはない。

     みんなに会いたい。連合のみんなに会ってみたい。
     唯一、俺が作れた仲間。道を共にする共犯者たち。
     でもきっと、今の俺はそれまで生きれない。

     なら、もう、いいか。
     死にたくなかったはずなのに、何も見せられないまま死ねないと生に縋りついたはずなのに、もう、生きて居る事が辛い。どうせ何を見たってお父さんは変わらない。俺はお父さんを変えられない。お父さんを変えたのは焦凍だ。俺の存在は徹頭徹尾あの家では邪魔者で、必要なのは焦凍だけ。
     よく分かった。本当は知っていたけど、知らないふりをしてた。
     そうじゃないと、生きていけないから。

     でももう生きていなくていい。どうせすぐ限界が来るなら、今終わりにしたっていい。お父さんは相変わらずここに来ない。
     今更、何を期待して、一週間も待ってしまったんだろう。来るはずないのに。

     毎日来る冬美ちゃんは、最初の3日間ほどは、明日こそお父さんも来ると言っていたけど、今では何も言わなくなってしまった。嘘になってしまうから言えなくなったのだろう。

     冬美ちゃんが、お父さんは明日こそは来る、と言っていたら、俺は明日も生きて待っていたのかな。
     馬鹿馬鹿しい。

     個室の病室には、大きな窓がある。
     最初に目を覚ました病院から、別の近くの病院に移転して、窓が大きくなった。
     ここは、前のところよりも濃い死の匂いがする。そういう病院なんだろう。治すことより、看取ることに特化した病院。
     死ぬための場所。
     
     窓を開けて、下を見る。

     最上階の個室の下は、硬いコンクリートが見えた。これだけの高さがあれば、きっと死ぬには充分。
     ギシギシと軋む身体で、窓枠に膝をかける。ふわりと風が吹いて、外の空気が気持ちいい。
     
     夕暮れの空と空気が少しだけ名残惜しくて、目に焼き付ける。一つ息を吐いて、そのまま身を乗り出した瞬間、背後からノックの音がした。
     自分でも制御できないような、心のうちに溢れだす期待と、未練。
     お父さんじゃないって、分かってるのに、期待してしまう。無理な姿勢で衝動的に振り返った瞬間、グラリと身体が窓の外に傾いた。

     開いた扉の向こうに、赤い髪が見えて、あ、と口が開く。

     本当にお父さんだったんだ。

     窓の外に身体が完全に落ちて、室内の様子が分からなくなる。最後に、幻覚だとしても、良いものが見れたから、まぁ、いいか。

     身体に来るはずの衝撃に、無意識のうちに目を閉じて耐える姿勢を作る。けど、予想していた硬いコンクリートへ叩きつけられる衝撃ではなく、上から勢い良く押しつぶされるような衝撃と共に、熱と、急激な浮上。

     胃の中がグチャグチャにかき混ぜられたような、急な乱高下に三半規管がひっくり返ったようで、酸っぱいものが口に広がる。

    「ぅっ、」
    「っ、はっ、燈矢! なぜ、こんな事を!」

     息を荒げたお父さんに構う余裕がない、まずい、吐く、

    「ぶっ……! げほっ! ぇっ!!」

     耐えようとしたんだ、一応。
     でも無理そうで、せめて外に向かって吐こうとしたのに、お父さんが何を思ったのか、外側を向こうとした俺の顔を腕で引き寄せるから、思い切りお父さんに引っ掛けてしまった。

    「……」
    「……」

     痛い沈黙が流れる。
     俺は悪くないだろ、これ。お父さんがこんなことしなけりゃ、今頃ちゃんと死ねるはずだったのに。

    「……大丈夫か、まだ吐き気はするか?」

     何事も無かったかのようにお父さんが声をかけてくる。
    最悪すぎて吐き気がする。
     
     
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