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    omo641

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    omo641

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    お父さん似のDV彼氏にドハマりしてる燈矢くんの話「あの、大丈夫ですか?」
    「……何が?」

     突然腕を捕まれ、見ず知らずの子供に声をかけられた。
     ヒーローみたいな格好してるから、ヒーロー見習いみたいなやつだろうか。つか大丈夫かってなんの事だ。早くしないとまた怒られてしまうのに、お前にかまってる暇ねぇんだよ。

    「いや、あの、痛くないんですか?」
    「だから、何が……?」

     要領を得ない子供の問いかけに、思わず顔が険しくなる。
     
    「だって、血が出てますよ、それに、裸足だし……」

     血? 子供の視線の先である顔に手を当てると、べトリと血がついた。なんだ、ただの鼻血か。鼻水かと思って放置してたら血だった。裸足なのは、急いで出てきたから靴を履くのを忘れてしまっただけ。ヒーローってのは大変だな。こんなのいちいち声かけなきゃいけないんだから。

    「あぁ、別に平気。」
    「へ、平気じゃないと思います、あの、とりあえず手当と話をっ、」
    「うるせぇな……煙草買って帰ったら手当するから、離せよ。」

     振りほどきたかったけど、子供の割に力が強くて振りほどけなかった。早くしないとなのに、ヒーローらしい自分勝手で傲慢な行動に苛々する。

    「緑谷、どうしたんだ……?」
    「あ、轟くん、この人怪我してて……」

     轟? 子供が呼びかけた相手の名前に、つい反応してしまい顔を上げて見ると、そこにはいつぶりかの末弟が居た。ああ、お前、ヒーローになったのか。お前はヒーローになれたのか。見たくなかったな、最近テレビ見てないから家族の話題も見なくて済んでたのに、急に嫌な現実が殴りかかってきた。

    「燈矢、兄?」
    「……ちがう、お前なんか知らねぇ。」
    「いや、燈矢兄だろ、なんでそんな怪我……いや、それより、なんでそんなに痩せて……」
    「違う! 離せよ!!」

     渾身の力で子供の腕を振り払い、来た道を走って逃げる。
     あ、タバコ買わないとなのに、最悪だ、少し遠いコンビニまで行かないと。

    「待てっ! 燈矢兄!!」

     後ろから声が追いかけてくる、まずい追いつかれると思ったけど、それより先に急に動いたせいで、頭が真っ白になって体勢を崩した。



     どうでもいいやつに好かれたってどうでも良かった。

     でも、あの人だけは違った。あの人は、お父さんによく似ていた、見た目も、存在感も。お父さんが埋めてくれなかった隙間を、あの人は寄り添って埋めてくれようとした。
     卒業したら養うから家のことをしてほしいと言われて、二つ返事で頷いた。お父さんの代わりにした関係だったけど、あの人は俺を見てくれたし、嬉しかった。

     初めて殴られたのは、帰りが遅くなった日。夏くんと出かけて夕飯を食べて帰ったら、殴られた。最初はびっくりしたし、怖かったけど、あの人は謝ってくれたし、抱きしめながら俺の何が悪かったのか教えてくれた。嫌われて殴られたわけじゃなくて、心の底からホッとした。

     お父さんはもうずっと焦凍しか見てないし、夏くんは彼女ができたし、冬美ちゃんは仕事を始めたし、もう俺を見てくれるのはこの人しかいない。捨てられたくなくて、何でもした。
     でも俺は駄目なやつみたいで、よく怒らせて殴らせてしまった。あの人はいつも殴りたくないのに、俺が怒らせてしまうから、俺が失敗作で出来が悪いからすぐに怒らせてしまう。
     勉強はできても頭が悪いって言われたけど、本当にそうだ。なんであの人が怒るのか分からないんだから。でもあの人はきちんと俺の悪いところを教えてくれるから、すごく優しい。
     ご飯が美味しく作れなくて、家事も駄目で、頭も悪くて何もできない俺を、それでもあの人は怒ってくれた。見捨てないでくれた。それが俺には嬉しかった。お父さんみたいに、駄目だからと簡単に捨てたりしないこの人が、より好きになった。
     家族と連絡を取るとあの人の機嫌が悪くなるから、忙しいと言って連絡が来てもすぐ切ったし、連絡自体を取るのをやめた。
     
     養ってもらってるんだから、贅沢なんかしちゃいけないし、ご飯も貰ってるお小遣いの中からやりくりしないといけなくて、一人の時はご飯を食べなくなった。
     抱き心地が悪いと怒られたけど、その後に細くても可愛いと褒めてもらえたので良かった。
     
     一度だけ無視された事がある。
     怖くて、怖くて、お願いだから無視だけはしないでと、泣いてすがった。無視されたら死んでしまう、無視されるなら死んだ方がましだ。

     そうお願いしたら、あの人は俺のお願いを聞いてくれた。
     そのかわり、殴られることが増えたけど、痛いのなんか全然構わない。殴ってくれる間は俺を見てくれるから。それに、あんまりにも殴られるとあとですごく優しくしてくれて、それが嬉しかった。あの人のためなら何でもした。お父さんに似てるあの人から与えられるものは、痛くても辛くても、なんだって嬉しかった。

     なのに、どうしてこんなことになってしまったんだろうか。
     白い病室で、険しい顔をしている夏くんに、ヤダな、と思った。面倒だな、早く帰りたいのに、帰してくれそうにない。

    「あのさ、夏くん、俺今すごい幸せなんだよ、だから早く煙草買って帰らないと。」
    「っ、幸せって、なんだよ、殴られて幸せなわけ無いだろ!? そんなに痩せて、飯だって食ってないって事だろ……!」

     なんでそんなに怒るんだろう、俺は本当に幸せなのに。

    「だから、幸せなんだって、殴られてる間は俺しか見てないってことだし。それに、ご飯も食べないのは当たり前じゃん。お小遣い1月1万だから、お願いしたらもっとくれるけど、怒られちゃうし、自分の飯まできちんと用意してるとすぐ無くなっちゃう。でも、帰ってきてちゃんとした美味しいご飯が無いなんて可哀想だろ? 俺は養われてるんだからちゃんとしないと。」
    「燈矢兄が何言ってんのか、分かんねぇよ……!」
    「俺には夏くんがどうして泣いてるのか分かんないよ。」

     早く帰りたい。怒ってるかな、おこってるよね。煙草買うだけなのにこんな遅くなっちゃって。
     たくさんお酒飲んでたから、珍しく俺にお使い頼んでくれたんだ。いつもはあんまり俺が外出るの良い顔しないのに。
     でも、いきなり煙草買ってこいって言われて、お小遣いもあんまり残ってなかったから、戸惑ったら殴られちゃった。さっさと行ってこいって。だから慌てて靴をはくのも忘れて出てきてしまった。だからこんなことになったのかな。せめて、靴を履いていれば、あの子供の目には止まらなかったかもしれないのに。

    「ねぇ、夏くん、いつになったら検査終わるの、俺、早く帰んないと。」
    「だめだ、燈矢兄は帰さない、これから姉ちゃんと、警察も来るから。」
    「……なにそれ、意味分かんないんだけど。警察ってなに、俺悪いこと何もしてないよ。」
    「燈矢兄が悪いことしたんじゃない、燈矢兄は被害者だ。」
    「誰が犯人なの?」
    「決まってんだろ! アイツだよ! 燈矢兄と暮らしてる奴!」
    「え、なんで、いやだ、捕まっちゃうの? なんで、俺被害者じゃないし、意味分かんない……! 俺もう帰るから!」

     わけが分かんなくなって立ち上がって逃げようとしたら、扉の前に立っていた焦凍が邪魔をしてきた。

    「燈矢兄は帰せねぇ。」
    「退けよ! なんなんだよお前!」

     感情がたかぶって、蒼炎がぶわりと巻き起こり、髪が逆立つ。

    「燈矢兄!」
    「お前のせいだろ、お前が来なきゃ!」

     俺はあのガキを振り払って、煙草を買って今頃帰っていたのに。
     俺は出来損ないだけど、お使いもできないなんて思われたくない、役に立たないなんて言わないで、また無視されてしまうかもしれない。それは嫌だ、それだけは嫌だ。

    「嫌だ、無視しないで、すぐ帰るから……!」
    「燈矢兄!! 悪い、凍らす!」
    「うぁっ!」

     焦凍が放った俺の蒼炎よりも大きな氷が、身体を覆う。冷たくて痛い、でも、こんな氷すぐに溶かして、

    「燈矢!」

     その声に、ヒュッと息が詰まった。
     忘れるわけがない、お父さんの声。

    「お、とう、さん?」

     なんで、ここに?
     あ、俺が焦凍を害するかもしれないって思ったのかな。まさにそうしようとしてたし。あーあ、また嫌われちゃった。絶縁とかされちゃうのかな、失敗作で、出来損ないの俺は、要らないもんな。
     なら、早く帰らないと、やっぱり俺にはあの人しか居ないんだ。

    「燈矢、なんて姿に……!」
    「え、」
    「親父……!」

     なんて言われるか怖くて目を瞑っていたら、いきなりお父さんの声が近くでして、誰かに抱きしめられた。誰だと思って目を開いたらお父さんだった。え、俺なんでお父さんに抱き締められてんの?

    「なに、え、」
    「あの男……燈矢によくも……!」

     怒ってる、なんで?
     どうしよう、全然わからない。もうここに連れて来られてからわけのわからないことばかりで、頭が痛くなってきた。

    「お父さん、なんで怒ってんの?」

     聞いてしまってからしまったと思った。あの人によく自分で考えもせずに、すぐになんでって聞くなって怒られてるのに。

    「あ、ご、ごめんなさ、なんでって聞いて……ちゃんと考える、考えるから……あ、No.1の息子が男と付き合ってるのに怒ってる? でも、あの人すごい優しくていい人なんだ、女の子じゃだめで、おれ、あ、そしたらやっぱり俺が悪いのか、駄目だから、早く帰って殴ってもらわないと、痛くないとおれすぐ忘れちゃう、頭悪いんだ……。」
    「燈矢……? 何を言って……」

     駄目な俺は怒ってもらわないと、やっぱり早く帰らないと駄目だ。お父さんに嫌われなくてよかった、でも、これ以上居たらきっと嫌われる。あの人は俺がどれだけ人を苛つかせるか丁寧に教えてくれた、あまり人といると、俺の言動は人を不快にしてしまうから、あんまり関わっちゃだめなんだって。

    「ねぇ、俺早く帰らないと、お父さんからも言ってよ、俺は大丈夫だって。こんなの大したことないのに、みんな騒いで家に返してくれないんだ。俺にはもうあそこしか居場所は無いのに。」
    「何を言っているんだ……!?」







    飽きた


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