ヴィランホークス×ヒーロー燈矢 正しくありたかった。俺だって、最初はヒーローに憧れて、正しくありたいと願っていたし、正しい人の味方でありたかったんだ。
父親がエンデヴァーに捕まったと聞いて、俺は、ヒーローは実在するんだと、あの人みたいに、人々に希望を与えられる人間になりたいと、心底尊敬した。
でも、残された母さんを、切り捨てるだけの勇気は俺にはなかった。警察に行って母さんを売ることもできず、かと言って、あのクソな父親の真似事をするのは嫌で、物乞いをしながら、仕事を探した。
こんな子供にできる、まともな仕事なんかあるわけ無いのに。
自身の個性を説明して、何かできることはないか、と路地裏で大人達に聞いて回ったら、一人の大人が良い仕事があるとニヤつきながら俺に手を伸ばした。
今思えば、きっと子供にしか性的興奮を抱けない人間に売ろうと考えていたのだろう。しかし、ニヤついた男の手を遮って、別の男が俺の肩を掴んだ。
若手のブローカーだと言う男は、個性でニヤついた男の意識を混濁させ、俺の個性で良い仕事があると言ってくれた。ちょうどそんな個性を探していたとも。
そうして、俺はとある組織の運び屋として雇われることになった。
最初は仕事が楽しかった、上手くこなせれば褒められるし、褒美もそれなりに弾んだ。
でも、それがまともな仕事ではないと、俺はすぐに気がついた。こんな仕事をしていたら、ヒーローにはなれない。そう、理解しても、今更どうにもできなかった。辞めたところで母さんを養えない、辞めたところで、逃げ切れるかもわからない。一人なら逃げ切れるかもしれないが、逃げたところで、行く宛なんかない。
俺は、自らの足で、泥沼に入っていったのだ。今更、助けなんて求められなかった。ただ、なけなしの抵抗として、運ぶ物の正体を探ることは絶対にしなかった。知ってしまえば、本当に俺は犯罪者になったのだと、理解してしまうから。
闇の中で数年働いて、それなりに色々なものを学んだ頃、組織がヒーロー達の一斉摘発で消えた。俺は耳ざとく、目ざといおかげで逃げることができた。
しかし、それから少しして、母さんが路上で可笑しくなったらしく、精神病院に入れられてしまった。助け出そうとは思わなかった、正直、捨てられなかったが、いざ居なくなると、やっと開放されたという気持ちが大きかった。
そう考えてしまう俺はきっと、もうヒーローになれる器じゃないのだと分かってしまってから、頭の中で輝かしかった夢が色褪せて壊れた。それからは、またブローカーの紹介で運び屋をして、数年かけて大金をためて、あのブローカーからとても高い買い物をした。
キレイでまっさらな戸籍。
義務教育すら受けてないのに、俺はその身分を手にして、ヒーローの資格を得た。
ヒーローになる子供の頃の夢は叶った。けど、俺はもう純粋な気持ちでこの身分を手に入れたわけではない、ドロドロと醜いヘドロのような嫌悪と憎悪、それから嫉妬からだ。
闇の中で仕事をしていたら、何度かヒーローからも依頼を受けた。きっと、よくある話なんだろう、ヒーローとヴィランがズブズブで、お互い金になるように手を組んでいた、なんて汚い話。
でも俺は許せなかった。
ヒーローになれるだけの幸福な人生のくせに、更にそれ以上を求めて悪に落ちる、なんて。
ヒーローに相応しくない、ヒーローは、あの人みたいに、人を助ける存在なのだから。だから、不要なヒーローを駆逐するために、俺はヒーローになった。一応仕事時もヒーロー時も顔は隠していたが、あまり力を誇示すると、俺の個性を知っている人間にバレてしまう可能性があったので、ヒーローとしてはうだつの上がらない、皆が目を通す範囲のランキングにすら入れないそこそこの成績しか出さなかった。俺よりもよっぽど幸福そうな人間を守ることよりも、要らないヒーローを探し出してすべてを暴き出してやるほうが楽しかったし。
そんな生活をしていたら、ヴィラン連合、なんて面白いものの紹介に、懐かしいブローカーから話を持ちかけられたので二つ返事で頷いた。ヒーロー殺しステイン、彼の思想は俺の考えに似ていたし、悪くないと思った。
こんな世界壊れてしまえばいい、そして、1から作り直せば、もっと良い世界になるんじゃないか、エンデヴァーさんみたいなヒーローが、もっと楽に生きられる世界になるんじゃないかと思って。
そうして俺は、ヴィラン連合所属のヒーロー、ホークスとして、生きることになったんだ。
そして、それとはまた別件で、テレビの中で、初めて彼を見た時、心の底にドロリと汚いものが湧き出したのを、今でも覚えている。
No.2ヒーロー、エンデヴァーの長子、轟燈矢。
ヒーローとして活躍していて、その外見からもよく目立っている将来有望な若手。親がまともだと、好きに生きられて羨ましい。なんせ、あのエンデヴァーが親なんだ、さぞや素晴らしい綺麗に舗装された道を歩んできたんだろう。みんなに期待されながら。
最初は、嫉妬と憎悪で近付いた。
どうせ蓋を開けてみれば、お綺麗な世界しか知らない箱入りのお坊ちゃんなんだろうと思ってた。
けどその考えは大きく裏切られた。
自由に空を飛べる、最初から選ばれた人間なんだと思っていた彼の本当の姿は、檻の中で必死に足掻く売れ残りの鳥にも劣る、見捨てられた失敗作の玩具だと知った。
近づく過程でわざと彼に連合から借り受けた性能調査の脳無をぶつけてみたが、彼は脳無をその火力ですぐさま撃破、のちに、フラリと人通りの少ない方に消えていったので、ここで殺せるなら殺してしまおうと後を追った。
しかし、その考えも、物陰で焼け爛れた腕を抱えてボロボロの状態で座り込む彼を見て、消え失せた。
俺の存在に気がついた彼は、ハッと顔を上げて、身構えてから、俺がうだつの上がらないヒーローだと気が付き、まず真っ先に、エンデヴァーには言うな、と爛れた腕を隠して言った。
その姿はどう見ても、俺が考えていたお坊ちゃん像とはかけ離れていて、興味が湧く。それから、彼にエンデヴァーには言わないと約束をし、彼の指定する病院につれていってからも、さり気なく近づいて、色々と話を聞いた。
最初こそ警戒心が強く、他者を排斥していた彼も、俺のしつこさには敵わなかったのか、徐々に話してくれるようになった。
そうして、俺は彼から聞いた、個性と体質があっていないことも、自分がオールマイトを超えるために作られたことも、失敗作と見限られて捨てられたことも。そうして、足掻いてヒーローになった彼に、エンデヴァーはヒーローを辞めろと言ったことも。
でも、もう、これしか、彼にとって価値のあることは無いことも。
彼のすべてを知ったあとに湧いたのは、憐憫と落胆。
どうせなら、呵責なく憎みきれる、幸福な人間であってほしかった。
さすがヒーロー様、と嘲笑できるような高尚な人間ではなく、ただただ、己の価値を示すために身を焼いて足掻く彼に、気がついたら目を奪われていた。
身を焼いて必死にヒーローとして活動しているのに、ネットでは活動時間の少なさから、No.2の息子だから舐めプをしている、サボっていると酷く叩かれている事を知りながら、それでも自身を犠牲に民衆を救うその姿の、本当の意味を知っているのは俺だけだということに、酷く興奮した。
彼の体質が明かされれば、今叩いてる奴らだって手のひらを返して彼の献身的な自己犠牲を褒め称えるのだろう。でも、彼は人を救いたいから自身を切り捨てているわけではない、ただただ、エゴイズムに、己の事しか考えていないだなんて、他人では俺しか知らないだろう事実に、背が震えた。
そうして思った。
燈矢が欲しい。俺のものにしたい。
俺のことなんか、少し仲良くなった同僚としか見てない燈矢に俺を刻みつけて、心をへし折って、俺だけを見てほしい。ヒーローらしくないヒーロー、哀れで可哀想で可愛い壊れた玩具、誰も拾わないなら俺が拾ったっていいだろう。
昔憧れた、いつか隣に立ちたいと思ったヒーローの息子を、貶めて辱めて俺の玩具にしたい。
大丈夫、大事にする。まぁ、飽きたら捨ててしまうかもしれないけど。でも、今のところ燈矢に飽きる未来なんて想像できないから、きっと簡単には捨てないだろうから安心してほしい。
「て、わけなんだけど、どう?」
「どう、って……!? お前、本気で言ってんのか……!?」
死柄木の目覚めにあわせて、昏睡させた燈矢を連れて行って個性を奪ってもらった。何もかも壊すけど、仲間の大事なものは壊さないし、好きにすればいい、と言ってくれたから、ありがたく元ヒーローで現無個性の無力な彼を拉致監禁中ということだ。
起きたらひたすら困惑していたので、これまでの経緯とか色々と教えてあげたら、目を見開いて化物を見る目で見られてしまった。
「俺を、どうするつもりだ……!?」
「どうもこうも、単に欲しかったってだけだから、まぁ別に玩具でしかないし、心までは望まないけど、身体くらいなら色々したいかな。俺、結構燈矢の顔も身体も好きだし、めちゃくちゃになったらどんなふうなのかな〜って興味あるし。」
ギロリと強くにらみつけてくる燈矢に、俺の気持ちを包み隠さず伝える。本気で殺気をぶつけられるのは初めてで、背がゾクゾクと震えた。ちょっと楽しくなってきたし、早速手を出そうかと燈矢の腕を掴んだら勢い良く振り払われて、ベットの真ん中に座っていた燈矢は上の方へ逃げる。
「帰る……!」
「帰れないって、もう燈矢は俺のなんだから。」
俺から距離を取って、断固拒絶の形を取った燈矢に、心の奥底からドロリと汚いものが湧き出てきた。
「だいたい、帰るって、いま外すごいよ? マキアが無辜の民を大蹂躙して、責任問われたヒーローがどんどん辞めてってる。いま外歩けば、ヒーローよりヴィランに会える確率のほうが高いんじゃない? そんな中で無個性になった元ヒーローの燈矢が生きていけるとは思えないけどなぁ。」
「は……? な、んだよそれっ、」
大規模な戦いが起こる前に燈矢には薬を飲ませて寝かせたから、何も知らない。ヒーロー側もそれなりに諜報活動などでそこそこ情報は仕入れていたようだが、結局奴らは死柄木の目覚めには間に合わなかったし、後手に回った。
とはいえ、それなりにヒーローが集まっていたから、いつ動くという情報自体は持っていたのかもしれない。しかし、その中に燈矢は含まれてないし、末端の俺も含まれていない。
燈矢くらい力があれば、編成してよかったと思うのだが、何故か彼は外された。果たして、それはエンデヴァーさんの愛なのか、或いは、邪魔だと切り捨てたのか。まぁ、知ったこっちゃないが、こちらとしては燈矢がいなくて助かった。彼の火力は危険すぎる、自滅が必須の時間制限ではあるが、彼にとって火傷で済む熱は、耐性のない人間にとっては危険すぎるから。
「燈矢は話聞いてないだろうから、知らないのも無理ないけど。テレビ見せてあげるよ。」
手元のスマホをテレビが見れる状態にして、燈矢に投げ渡す。
『緊急事態宣言が発令されました、外は活発化したヴィランが暴動を起こしております。皆さん、どうか家からは出ないようにしてください。先日の被害の状況の詳細も不明です、今自宅が無くなってしまった方は、避難場所に向かってください。避難場所を読み上げます、雄英高校……』
「なん、で……?」
スマホに映し出された、乱れた髪のニュースキャスターの切羽詰まった声と、崩壊した家や道路の映像を見た燈矢は、目玉がこぼれ落ちちゃうんじゃないか、ってくらい目を見開いて、呆然としながら呟いた。
「お、とう、さんは?」
「勿論まだ生きてる、けど、死柄木が結構やったみたいだから病院だとは思うけど。エンデヴァーさんは極力殺さないで、って言ったから聞いてくれたのかも。おかげでこっちも結構やられちゃって、死柄木は今休息に入ってるから暇なんだよね。」
ホッと息を吐いた燈矢くんに、にやりと口が歪む。
酷いヒーローだ、犠牲になった一般市民よりも、まず真っ先に、ヒーローの父親を心配するだなんて。
「あぁ、そうそう、燈矢のこと、向こうに伝えてあげてるから。」
「え……?」
折角なので、アレのことも教えてあげようと録画しておいた映像に切り替える。
椅子に拘束されぐったりと意識を失っている燈矢と、俺の映像。
『えーと、どーも、俺はホークスっていう、まぁランキングにすらまともに入ってない末端ヒーローですけど、実は俺、ヴィラン連合の一員だったんですよね〜、まぁ、騙しててすみません!』
軽薄な笑顔を貼り付けた俺が、画面の中で話し始めた。それを横目に燈矢を観察すると、呆然としたままその画面を食い入るように見つめている。
「これ、ネットハッキングして全国に放送させたやつね。」
「ぜん、こく……?」
『今日こんな映像流してるのは、見ての通り、現No.1ヒーローエンデヴァーのご子息であり、ヒーローである轟燈矢くんを捕まえたので、折角だし、脅そうかなと。』
自分が不覚を取り捕らえられたという醜態が全国に流されたからか、燈矢は腕に血管が浮くほど強く拳を握った。しかし、映像は止まらない。
『彼を解放する条件は一つ。エンデヴァーが今すぐヒーローを辞めて、俺らに対して立ち向かわないこと。それだけで彼は解放される。親なら当然、息子の命が大事でしょ。というわけで、ご検討よろしく。』
気絶している燈矢の顔を掴んで、正面を向けさせたあとにヒラリと手を振った俺を最後に、ブツリと映像が途切れる。そしてそのまま、燈矢が何かを言う前に、別の映像を再生した。
「で、こっちがその映像を見たエンデヴァーの反応ね。」
「お、とうさん……?」
手酷くやられたエンデヴァーは、同じようにボロボロの子供たちの前に立って、こちらを見据えている映像。ボロボロの死柄木の回収の間、俺がエンデヴァーさんと相対した時の物だ。襟についていた、スケプティックから貰った小型カメラは良い仕事をしてくれた。
『て訳なんですけど、ね、もう辞めません? エンデヴァーさん。このまま辞めてくれるんだったら、燈矢くんは五体満足で返しますよ。……家族でどこか、海外の小島にでも逃げたらいい、そこで家族で幸せに暮らしてくれるなら、そこにだけは手を出さないと誓います。』
これは、まぁ、割と本心だった。俺を救ってくれたエンデヴァーさんは特別。逃げても、追うつもりは無かったし、惜しいけど、エンデヴァーさんがすべてを抛って燈矢を救いたいと思うなら、返してやるつもりだった。
けど、俺の提案は素気無く断られてしまった。
『ヴィランの言うことなど、信用できん!』
『……じゃあ、燈矢くんは殺します。それはもう、無残に残酷に。それでも?』
エンデヴァーさんにとって、燈矢は死んでも良い存在なのか、他でもない俺が一番知りたかったから、試した。その結果、誰が一番傷つくか理解してやった。
燈矢の顔は、どんどん青白くなっていって、もう聞きたくないと、自分で耳を塞ごうとしたので、羽でその手をベットに縫い付ける。
駄目だろ燈矢、ちゃんと、聞かないと。
『っ、燈矢は、……あの子はヒーローだ、理解してくれる。』
『へぇ……息子を切り捨てるんだ。でも良いです、それでこそ、ヒーロー、俺を救ってくれたアンタなら、そういうと思ってましたよ。』
「ぁ、……ああ、あは、はははっ……!」
項垂れてケタケタと笑い始めた燈矢の目から、大粒の涙が溢れていく。
あれほど認められたかった父から、ヒーローと認められたことへの喜び?
それとも、切り捨てる物とされた事への悲しみ?
「ふ、ふふ、っ、あんなに、ヒーロー辞めろって、お前はヒーローじゃないって、認めないって言ってたくせに……こうなれば、俺はヒーローだって言うんだ……! 都合のいい時だけ……!」
可哀想に。どんな頑張りにも望んだものは与えられなかったのに、見捨てる為の理由として、望んだものが与えられるなんて。
「燈矢、」
今ならつけ入れるかと、伸ばした手は、勢い良く弾き落とされた。ジンジンと痛む手を見ながら、大粒の涙を流し続け、こちらを警戒してふー、ふー、と威嚇する猫のような息を上げる燈矢を無感情に見る。
「勘違いすんな……! お前が何をしようが、俺はお前だけは認めねぇ! この裏切り者、個性が無くても、殺されるとしても、お前だけは許さねぇよ……!」
「ふぅん……まぁ、許さなくてもいいし、どう思おうが勝手だけど、燈矢はもう俺のものだ。」
スケベパートできたら支部に上げます!
尻叩きポイ!