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    omo641

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    omo641

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    一緒に逝けなかったお父さんの話 赤い、俺と同じ髪色をした幼いいつかの燈矢が笑顔で俺に向かって手を振っている。そして、その背後には燃え盛る炎が見えて、必死にあの子へ手を伸ばすが、俺の腕は途中で欠けていて届かない。

    『お父さん、ばいばい。』
    「駄目だ、行くな、行かないでくれ燈矢!」

     そっちは火の海だ、お前では耐えられない、そっちに行っては駄目なんだ。
     藻掻きながら、少しずつ前へ進む。燈矢は俺が藻掻いている間にも、白い髪の片手しかない見知らぬ男と手を繋いで背を向けてしまう。

    「待ってくれ、その子を、燈矢を連れて行かないでくれ!!」

     燈矢を連れて行こうとする男を止めようと、欠けていない方の腕を前へ伸ばした。

    「その子は俺の子なんだ!!」
    『へぇ、そりゃ大変だ。でももう遅いんだよ。』

     何が遅いんだ、まだ間に合う、まだ、目の前に燈矢が居る。
     この腕はあの子を抱きしめる為に残ったのだから。

    「まだ、まだ間に合う、燈矢!」
    『無理なんだって、人殺しの俺は地獄行きなんだから。なぁ、お父さん。』

     継ぎ接ぎだらけの男が振り返り目を細めてこちらを見つめた。
     あぁ、どうして気が付かなかったのか、この男もまた、燈矢だったというのに。

    『また俺の事忘れちまったのか? 薄情だよなぁ。』
    「ちが、違う、俺はっ」
    『アンタにとって可愛かったのは失敗作じゃない時の燈矢だけなんだろ?』
    「違う!!」
    『ま、今更何でもいいけどな。お父さんと一緒に落ちれなくて残念だ、みんなに感謝しとけよ。代わりにアンタの可愛い燈矢は俺が連れて行くから。』

     燈矢の肌が、地獄の業火に焼かれて爛れていく。
     やめてくれ、やめてくれ、俺が代わりに落ちるから、どうか、燈矢だけは赦してくれ、誰か、もう、俺じゃなくてもいいから誰かあの子を救ってくれ。
     全て俺が悪いんだ、だからあの子を一人で逝かせないでくれ、俺が行くから、頼む、俺も連れて行ってくれ。

    『あのさ、今更何言っても遅いんだよ。救いなんて求めてねぇ、俺は俺の意思で地獄に落ちるんだ。なんのために、わざわざ30人も殺したと思ってる?』
    「それでも、俺は……」
    『お父さんの本心なんて、もう……どうでもいいんだよ。じゃあな、せいぜい元気で。……地獄で待ってるぜ。』
    『お父さん、見てくれてありがとう、嬉しかった、またね。』

     炎の中に消えていく二人の背中を見つめることしかできない。
     いつだって、俺の手は何にも届かない。その炎に焼かれるべきは俺だというのに、どうして、燈矢が。
     藻掻いて、藻掻いて、手を伸ばして、炎に指先が触れた瞬間、何かに身体を絡めとられた。

    「……っ! お……っ!! 親父!!」
    「しょう……と……」

     ボヤケた視界に、ホッとした様子の焦凍が目に入り、現実が襲いかかる。
     ああ、俺は、生き残ってしまった。燈矢と一緒に逝くことは叶わなかった。

    「ぁ、ああっ、とうや……とうやっ、あの子を、俺はまた、一人で……!」
     
     また、たった一人で逝かせてしまった。
     
    「言うな……辛いのは親父だけじゃねぇんだぞ……!」

     拳を握って、肩を震わせる焦凍の言葉にハッとする。焦凍は顔を歪めたあとに、俯いたまま立ち上がった。
     
    「……とにかく、意識が戻ってよかった。俺はまだ動けるから、他の現場に向かう。お前は、まだ動けねぇだろ、ここに居ろ。」
    「しょうと……まて、俺はっ、」

     去っていった焦凍の背に手を伸ばしてから、自分が何かを握り締めていることに気がつく。夢の中で、燈矢に伸ばした手、燈矢を燃やす炎に触れたこの手。
     熱で溶けた皮膚や肉がくっついて指が開かないが、握った拳の隙間からパラパラと炭のように黒いかけらが落ちてくる。

    「あ、あぁ、」

     最後に燈矢に触れていたこの手で、必死にあの子の身体を掴んでいた。もう、どこの部位かもわからないほど炭化しているが、これは確かに、燈矢の一部だ。

     これしか、たったのこれしか残らなかった。
     そうさせたのは、俺だ。燈矢を地獄に落としたのは、俺だ。

    「とうや……!!!」

     言葉にできないほどに、苦しいのに涙は出ない。
     どうやら、燈矢の熱で涙腺も焼けてしまったようだ。
     焼けて歪む視界であたりを見渡すと、冷も、冬美も、夏雄も焼けてはいるが生きている。

     燈矢だけがいない。

     俺は、あの子に、何度絶望を与えたんだろう。たった一人で自分自身を連れて逝くしかなかったあの子の手を、俺は掴めなかった。
     どれだけ後悔しても、時は戻らない、過去は消えない。俺は、もう生涯あの子の事を忘れることは無いだろう。そして、幸せを望んだりもしない。燈矢が得られなかったものを、望むことはしない。
     こんなもの、贖罪にすらなりはしない。ただの自己満足だ。でも、もう、俺があの子のためにできる事はそれしかない。
     
    『お父さん! 俺、ずっと待ってるよ。』
    「あぁ……待っていてくれ……必ず、迎えに行くから。」

     耳の奥から聞こえた幻聴に返事をして、燈矢の欠片を胸に抱く。いつだって約束を破ってばかりだった、だが、今度こそ、もう何もかも遅すぎるが、今度こそ、お前を迎えに行く。お前が望むなら、いくらでも地獄で踊ってみせよう。

     だから、どうか、少しだけ待っていてほしい。


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