バレンタインの足音〇投稿後追加前書き
※無性に消したくなったしきっと未来の自分が何度も嫌になって消そうとすると思うので、阻止するために絶対目に入る部分で言い訳します。
おかしな部分はぜーんぶお酒のせい!!!
マァ傍から見ると普段とあまり変わらないかもしれませんが、継続ダメ入ってます。やっぱり多少は考えて書かないと駄目ですね。でもスタンプくれた方々、ありがとうございます。穴があったら入りたい。
ホワイトデーにリベンジしようね、私。
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『日頃の感謝をあの人に!』
コンビニの前。
でっかいのぼりを見た桐生は、はためく文字に足を止めた。店のガラスに貼ってあるポップには『バレンタインデー』という文字が躍っており、ふぅん…?とスマホのカレンダーを確認する。
「……なるほど」
2月14日だった。
今日はやけにチョコを貰うなと思っていたが、そういうことか。
一人納得し、再びのぼりに目を向ける。
“日頃の感謝”の文字を見て真っ先に思い浮かんだのは、なぜか真島の顔だった。トータルで見れば間違いなく感謝すべき度合いはマイナスだろうが……直近であの男に助けられたせいだろうか。
あれはつい先週のこと。
ウッカリ人間の左足を拾ってしまい途方に暮れていたところ、偶然通りかかった真島が
『ああ、お前も拾ったんか。ウチに右手と左手があんねん、まとめてサツに届けといたるわ。…え?分かっとるよ、人間の足やろ?何をそんな慌てて……ああそうそう、人体の場合何%貰えるんか知らんけど、遺失物の報酬は桐生ちゃんがもろてええよ。俺らは無償でカタギの皆さんのお役に立たなアカンからな』
と言いながらどこからか出したビニール袋に足首を入れ、サクッと引き取ってくれたのだ。
桐生は警察にいじめられて一日潰れることを覚悟していたから、この申し出は大変有難かった。
……そういえばあの足はどうなったのだろうか。
あれきり真島とは会っていないし、ニュースでそれらしき情報を目にすることもなかった。桐生の手元を見て真面目な顔をしていたし組内で処理したとは思えないが、あれが元組員の足だった場合はその可能性も捨てきれない。桐生の古巣の堂島組は「殺さず生かす」ことが得意だったが、真島の古巣である嶋野組は「派手に殺す」ことが得意だったので。
その血を引いているのだから、なんだってあり得るだろう。
「……」
とりあえず事件性の高い出来事は一旦頭から追い出し、足を止めた原因の文字をもう一度見た。
そうしてしばらく迷った末に、少し寄っただけだから…と自分自身に言い訳をしながら、コンビニの扉をくぐった。
コンビニで売っているチョコなんて大したものはないだろうと高を括っていたが、年々豪華になってゆくバレンタイン商戦はオシャレなラッピングを施した箱をコンビニチェーン店に置くほどまでに拡大していたらしい。デパートで買うもののような、高そうな見た目のチョコが並んでいた。
「ううん…」
桐生はその前で腕を組み唸った。
せいぜいパッケージ違いの板チョコ辺りを想像していたのだが、こうもギフト感のあるものを見てしまうとなんだか板チョコは選びづらい。
いつの間にか「買うかどうか」ではなく「どれにするか」で悩んでいたが、桐生はそれに気付かないまま、並んでいる中でも一番小さくシックな箱を選んだ。
ラム酒入りのトリュフが3つ入った、黒地に金のリボンが掛かっているものだ。
真島が甘いものを好んでいた記憶はないが、これならさほど甘くないだろうし食べれるだろう。渡せなければ自分で食べればいいだけだ。
桐生は何度目かの「一応世話になっているし…」という言い訳を口の中で繰り返しながら、まんまと企業戦略に乗せられて買ったチョコを胸の内ポケットに入れ、目的を果たすべく街へと戻っていった。
いつもはうんざりするほど高頻度で会う真島の姿を、なぜか今日はまったく見かけない。
日没が早い季節。すっかり夜の色に染まった街をあてもなく歩く。真島がいそうな場所はほとんど回ったつもりだったが、ことごとく空振りだった。
もういいか、とじんわり疲労した足を帰路に向ける。
呼び出してまで渡すものでもない。
金曜日ということもあり、いつもよりも活気溢れる道を避けるように路地へと入る。人混みの中を歩くより、一本裏に入った暗い道を歩くほうが気が楽だった。明るさがない分物騒でもあるのだが、桐生にとってそれはさしたる問題ではないので。
そうして勝手知ったる迷路のような路地裏をすいすいと歩いていると……
「あ、」
大きな室外機の陰。
よく知っている特徴的な靴先が見えた。
そぉっと近付いて覗き込めば、室外機の横で座り込んで煙草を咥えていた真島がのろのろと顔を上げた。
「……ぉ?ぁ、きりゅーちゃんや…」
やっと見つけた真島は疲れた顔をしていた。
目の下に薄く隈があるし、なんだか顔色も悪い。
「何してるんだ、こんなところで」
真島は不明瞭な言葉を呟いて、両手で顔を擦りながら「うちの奴らがヘマしよって…」と低く呻いた。
べしゃりと座っている真島の前にしゃがみ、火のついていない煙草にライターを翳してやる。「おおきに…」と言った真島は小さな炎にちろちろと顔を照らされながら息を吸い、ふっ…と白い煙を吐いた。
「足のことか?」
「ああ?足ぃ?」
「こないだ俺が拾ったのを、あんたが引き取っただろ」
「ん?ンー……あぁ、あれか。ウン、あんなんどうってことないわ」
世間一般では大事件にあたることだと思ったが、そんな常識を真島に説いても仕方がない。桐生は「そうか」と頷いて立ち上がり、室外機に軽く腰掛けるような姿勢で自分の煙草にも火をつけた。
真島の作る輪っかの煙が広がり、空気に溶ける。
「組の若いのが上納金入れた鞄落としよってなぁ…幸いそれはすぐ見つかったんやけど、ご親切な他所の連中がどこで仕入れたんかこのネタでここぞとばかりに噛みついて来よって……まぁ全員黙らせたんやけど…」
「へぇ…」
桐生はぷかぷかと浮かぶ輪っかを見ながら、最後の言葉が不穏だなぁと思った。何でもハッキリ言う真島が「黙らせた」という含みのある表現を使うときは、およそ一般人が想像すら出来ない状態になっていることが多い。
そもそも真島に噛みつける人間なんて同じ立場の幹部クラスだけだろう。底の見えない男たちを相手に狂犬と呼ばれた男が何をしたのか、あまり考えたくはなかった。
「それで?俺に用ってなんや」
「え?」
ゆったりとした空気を縫って、真島の隻眼がジっと桐生を見上げていた。
「何かあって探しとったんやろ。電話くれればよかったのに」
「あ、いや……別にそういうわけでは…」
言われてようやく、真島を探していたことを思い出した。急に胸元のチョコの存在を煩わしく感じる。
――なぜ買ってしまったのだろう。
渡そうと思って買ったのは確かだったが、いざ本人を目の前にすると何の言葉も出てこない。どんな理由をつけようと、言葉が空滑りする気がした。
視線から逃れるように深く煙草を吸う。
「ふぅん…?」
真島の目が疑い深くこちらを見てくるのを感じながら、区切られた狭い空を見上げる。
なんでもないと取り繕っても、真島の突き刺さるような視線は依然として桐生の横顔に向けられていた。
この男は腑に落ちないことがあればトコトンまで突き詰める質だ。
だから桐生はいつも逃げおおせずにいるのだし、真島の前では下手な誤魔化しが利かないことも知っていて――
「~~っ!?」
――ジャケットの裾を遠慮なく引いた力に逆らえず、体勢を崩した。咄嗟に室外機に手を付くも遅く、座り込んでいた真島の長い足の間に膝をつく。
至近距離でゆっくりとまばたきする切れ長の目の中に、驚いた自分の顔が映った。
しかしそれも一瞬で。
ぐ、と力を込められた手によって膝立ちのまま真島の肩に額を付ける形となり、耳元で低い声が囁いた。
「嘘はあかんなぁ」
どろりとした熱を感じる音に、肩が震えた。
これは真島が自分を抱くときの声と同じで、否が応でも“その時”の記憶が引き摺り起こされる。
真島もそれを分かった上でのことだろう。
桐生の思考を奪うように這う手はうなじから徐々に降りてゆき、背中をなぞり、腰をするりと撫でる。
「っ、うそ、なんか…」
「何か隠し事があるんやろ?なぁ、桐生ちゃん……この疲れて可哀想な兄さんの手ぇをあまり煩わせんとってや…。お前がこういうプレイが好きならなんぼでも付き合うたるけど、どうなん?……俺はこれでも気ぃ立っとるんや。手加減できひんで」
「ぅ……」
最後の声は言葉通り、怒気を孕んでいた。
そうでなくても吐息交じりで囁かれる言葉は物騒な色が濃かったが、痺れるような声が流し込まれるせいで、その意味を正確に理解するのは難しかった。
真島はいつも簡単に人の思考力を奪うのだ。
その肩に額をつけたままぶるりと震えた桐生は、早々に白旗を上げた。
「その…兄さんに……」
「俺に、なに?」
一転、優しい声が促す。
苦いビターから、ホワイトチョコレートのような声へと変わった。桐生は可動域の少ない中で胸の内ポケットに手を伸ばし、片手に収まるほどの小箱を取り出した。
「これを、渡そうと思って…」
「……」
桐生が蛇の刺青に押し付けるように渡したチョコを、真島は無言で受け取った。
真島の顔を見ることが出来ずに、革手袋がラッピングされた箱を持つのを下げた視線の中で見守る。…真島がどう思うかという事はまったく考えていなかったことに、今さらながら気付いた。
心臓が徐々に早まり、体温が上がる。
とても恥ずかしい行動をしている気がした。
世間の波に流されたとはいえ、男相手にチョコを選ぶなんて……
「これ……」
少し驚いたような真島の声が途切れた。
空気がカチンと固まって、俯いたままの桐生はどう反応していいか分からないままジっと身を強張らせる。
それを察したのか、苦笑交じりの声がした。
「これ、どこのお嬢ちゃんからもろたん?」
「は…!?」
人からの貰い物を横流しするような人間だと思われているのか。
驚愕でパっと顔を上げると、してやったりという顔の真島がこちらを見ていた。
薄暗い夜の中で輝く目がきゅっと弧を描く。
――からかわれたのだ。
「今日がバレンタインなの知っとったんやなぁ。お前は盆暮れ正月も意識せん奴かと思っとったけど……これを俺に選んでくれたんかぁ」
「あ、あぁ…」
嬉しそうな声に、桐生はぎこちなく頷いた。
半分以上馬鹿にするような言葉だった気もするが、大切なものを扱うように革手袋が小箱を撫でる様を見てしまうと、喉の奥で言葉が消えた。
「ありがとな、桐生ちゃん」
「……義理チョコだ」
桐生は顔を背け、むっつりと言った。
渡すべきものは渡したし、いい加減気恥ずかしい。「じゃあ俺はこれで…」と立ち上がろうとしたのだが、再び裾を引かれたせいでそれは叶わなかった。
「なんなんだよ…」と視線をやれば、真島はいいことを思い付きました、という顔でこちらを見ていた。
「食べさせて♡」
「なんて?」
手を振り払って立ち上がるのも忘れ、まじまじとその顔を見下ろす。
付き合って半年。
倫理観を疑うことから良心を嘆くことまで、数多くの出来事を経験してきた。具体的には真島の性的嗜好によって起こる被害がほとんどで、それ以外では相も変わらず喧嘩だけ。セックス以外で恋人らしいことなんて、どんなに細かく振り返っても数える指を必要としない程度の関係だった。
…のだが。
世に言う“恋人らしい”行為をしろ、と言っているのだろうか。
「……」
しかしこれは恐らく、常に脳の半分で恋人のことを考えているカップルに起こるイベントであって、恋人というよりも「プレイ内容の豊富なAVビデオを棚いっぱい作れるような関係性」と言った方が近しい自分たちで行うのは、何かが間違っている気がする。
「なぁ、チョコ。食べさせてや」
想像もしていなかった申し出にピシっと固まっていた桐生は、真島が自分の両手首を金色のリボンでキツく結んだところでようやく、はっと我に返った。
桐生が渡したチョコを飾っていたリボンだ。
よく結べたな…と感心するほどのギリギリな結び目。身体のどこかしらを縛ってくるのは単にセックスの時の性的嗜好だと思っていたが、まさか日常的にその気があるのだろうか。
だとしたら本当に怖いな…と少しも緩む気配のないリボンを見て思った。
「聞いとる?」
革手袋が桐生の唇を撫でる。
桐生はその指先から逃れるように首を逸らし、胡乱な目で真島を見た。
「…なんで俺は縛られたんだ?」
「こうすれば逃げられへんやろ」
「あんたの望みも叶えてやれなくなったけどな」
手の平をぴったり合わせる形で縛られているためチョコを摘まむことが出来ない。それを分からせるように顔の高さまで手首を上げて見せれば、元凶の男は親切な隣人のように頷いた。
「ほんまや、これじゃあ手ぇ使えんな、カワイソウに…」
「あんたがやったんだけどな」
「でも俺は桐生ちゃんに『あーん』って可愛くチョコを食べさせてほしいんや。この健気な男心、お前にもわかるやろ?」
「じゃあ解けよ」
「手が使えん以上……そうやなぁ、口移しなんかどうやろ」
「これを解けばいいだろ」
どうやら桐生の言葉はすべて届いていないらしい。ええ折衷案やろ?と言いながら箱を開けた真島は、小ぶりなチョコを親指と人差し指で摘まんで、「あーん」と桐生の口元に差し出してきた。
「……いや、やらねぇよ」
「ふぅん」
真島は首を傾げて、困ったように眉根を寄せた。
形のいい眉が下がると、どうにかしてあげたいと人に思わせる表情になる。桐生は付き合った当初、これに引っ掛かっては散々な目に遭ってきた。さすがに半年も過ぎれば五回に一回くらいしか騙されない。
桐生が折れないと分かると、真島はやれやれ…とため息を吐いた。
「あーあ、傷付いたわ。恋人に甘えてそっぽ向かれてまうなんて……はぁ…俺はもう悲しくて悲しくて色んなミスをしてしまうかもしれん…」
「…ん?ミス?」
どうせいつもの呪詛だろうと聞き流す姿勢だった桐生は、不穏な単語に聞き返した。
真島はしおしおと湿っぽく頷いた。
「こないだ預かった足やけど…あれまだウチの事務所にあんねん。他のパーツも揃えてからの方がお巡りさんも喜びはるやろ思うてな……健気な福祉精神やろ?はぁ、でも…俺は冷たい恋人に心抉られとるから、もしかしたら悲しすぎて桐生ちゃんの指紋がべったり付いたままお巡りさんに渡してまうかもしれん…」
よよよ…と泣き真似までしている男を前に、桐生は真島の言う通り素手で触ってしまっていたことを思い出した。だって悪趣味なオモチャだと思ったのだ。対して真島は、しっかりとビニール袋越しで触っていた気がする。
「……脅迫か?」
「まさか」
唇に、チョコを押し付けられる。
「ただのお願いや」
圧倒的に分が悪かった。
桐生は諦めて促されるままに薄く口を開き、チョコを咥えた。そしてなぜか意外そうな顔をしている真島のネックレスを指先で引き寄せ、その唇に食べさせるようにキスをした。
「っ、」
息を呑む音がした。
暗い路地の片隅。室外機の陰で、ぐっと密度の濃い空間が広がる。
「ンっぅ、んん…っ」
「…ん、んぅ」
お互いの舌先でチョコが溶けてゆく。
後頭部を押さえる手に誘われるまま、舌を絡ませた。いつもは血か煙草の味ばかりのキスが、今はどこを舐めても甘ったるい。悪戯に舌を噛めば、くぐもった唸り声が聞こえた。
「っはぁ…」
「…ん、あっま」
ぺろりと舌を舐めながら満足そうに言った真島は、「お転婆さんやな」と桐生の顎を掴み、親指を口内に捻じ込んだ。歯列をなぞり、開かせた口元に二つ目のチョコを掲げる。
「ほら、あーん」
どこか危うい刺激が桐生の中に広がっていた。これは好物の甘味のせいか、縛られた腕のせいか、真島とのキスのせいか…。
もしかして流されてるのでは?と思ったのも一瞬で。
すぐに舌をなぞる指先へと意識が逸れ、桐生はそっと睫毛を伏せた。
◇
真島はコーヒーを片手にぼぉっとしていた。
事務所の隅にあるぐちゃっとした部屋の中には、様々なものが乱雑に詰め込まれている。アヒルちゃんボート、すべり台、大型銃モデルの水鉄砲、ボディコン、バーテン服……エトセトラ。
そんな雑多な部屋の隅。
とても精巧に作られた人間の四肢が、段ボールの中に放り込まれていた。
桐生を驚かせようと用意していたもののひとつである。
実際にゾンビに扮した時に使ったのだが、思ったよりもインパクトがなかったためそれっきり倉庫に押し込んでいたのだ。それを組の誰もがすっかり忘れた頃、換気で開けていた窓から入り込んだ野良猫が持って行ってしまった。なぜ判明したかと言うと、組員が偶然目撃したからである。
マァしかし良く出来ているとはいえオモチャなので、「見かけたら回収しとけ」と言って終わらせていたのだが。
桐生が青ざめた顔で真島組の落とし物を拾っているのを見つけ、真島はいつも通り、桐生を囲うための小さな嘘を吐いた。
どこかでバレても怒られない程度で、バレなければ優位に事が運べる嘘。
コロッと騙されてくれた桐生にさて何を要求しようか…と思っていたのだが、それから一週間、何かと自由な身になれず構いに行く時間が取れなかったのだ。
バレンタインのおねだりでもしてみようかしらと考えていただけに、桐生がチョコを渡してきた瞬間、冗談ではなく鼓動が一拍飛んだ。
胸に押し付けられたチョコの箱のお陰でバレなかったが、本当に驚いたのだ。
「ありゃ反則やろ…」
しみじみとした声が漏れる。
あの後、当然ホテルへと連れ立った。
桐生は真島のことを平たく言えば変態だと思っている節があるが、そういう訳ではない。真島は別に、特殊な性的嗜好なんて持ち合わせていなかった。ただ、乗り気になった桐生に煽られて、あれやこれやと模索しているだけである。
……そうだと思っていたのだが。
「……」
後ろ手に縛った桐生にチョコを食べさせながら甘ったるい呼吸と悲鳴を奪うセックスは、正直かなりゾクゾクした。絡まる舌はいつまでも甘くて、自分が組み伏せている男によく似合う味だった。
「はぁぁ……」
口元を片手で覆い、ざっと室内を見渡す。
ポケットに入れている金色のリボンに触れ、安い生地を撫でる。今回は収穫が大きかったが、不意打ちを食らったのは少し悔しかった。
一手読み負けた気分だ。
桐生に言ったことはないが、真島は桐生の驚く顔が好きなのだ。驚いた後に、仕方なさそうな顔で笑う声も。
最近こういった大掛かりなサプライズはご無沙汰だった。
――次は、あっと驚く顔を見たい。
真島はかわいい恋人の人生を鮮やかに彩るべく、そして密かな名誉挽回のため、完璧なサプライズの準備を始めた。