私たちの幸福な人生〈仮〉 初めに言わなくてはならないことがあったとするなら、それは俺が刀で、君は人だったってこと。所詮俺たちは別もので、俺の身体は俺自身を体現していたけれど、それ自体は作り物だった。作り物の俺は君の望むようにどうとでもなる。だから、君が好きになったのは俺ではなくて、君が望んだ俺だったんだよ。とっても残念なことにね。
私たちの幸福な人生
目が覚めた。
真っ白の天井には朝日が差し込んで、壁紙の細かな凹凸を浮き上がらせるようにポツポツと影ができていた。長義は何度か瞬きをすると、のそのそと硬くなった体を起こした。ずっと寝転がっていたせいで背骨が少し軋んでいるような気がする。頭はまだ覚醒しきっていなくて、外で鳥が騒いでいるのだけを知覚していた。口が乾いて粘ついているように感じるのがとにかく不快だった。
1997