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    hitotose_961

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    hitotose_961

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    監査官さんと初めての冬の話。

    #山姥切長義
    yamaguchiNagayoshi
    #南泉一文字
    nanzumiIchiban

    冬を知らない監査官さんうちの元監査官殿は冬を知らないらしい。最近南泉の周りでもちきりの噂である。
    最も、この精々100振りかそこらの刀と、人間が一人と、言葉を話す狐が数匹いるばかりの本丸において、噂というのは尾ひれはひれつく前に事実の確認が済んでしまうから、この話が本当のことだというのもまた誰もが知っていることだ。単刀直入に、南泉の腐れ縁もとい友人もといひっつき虫は冬を知らなかった。実際に何気なく聞いてみたところ『ああ、あれね。寒くて雪が降る季節』くらいの認識だった。『雪って綺麗だよね』とも言っていた。残念ながらこの本丸に降る雪は綺麗どころで済ませられる物量ではない。半分くらいは災害だという風に南泉は思っている。審神者が生まれも育ちも冬になれば人、車、電柱、家ありとあらゆる物が当たり前に埋まるくらいの豪雪地帯で生きてきたから感覚が麻痺しているだけで、決して今年はホワイトクリスマスかも知れないねとか呑気に言えるような気候ではない。就任初年の審神者がまるでトイレットペーパーかあるいはティッシュBOXを買い忘れた時のように『そうだ!除雪機買わなきゃいけないじゃん!』などと言ったから聞いていた初期刀がそんなものかと納得してしまっただけで、気を抜くと冗談でなく死人が出る。一年目を生き抜いた猛者どもに語り継がれる伝説の数々は決して誇張ではない凄みとリアリティがある。そんな本丸である。
    そんなわけで、うちの元監査官殿は冬を知らないし、この本丸は災害レベルで雪が降る。余談だが、本丸に刀が来た祝いに審神者が渡すものはスキー用のコートである。迷子と凍死の予防だと聞かされた時は頬が引き攣った。『カラフルだったらうっかり埋まってもわかりやすいだろ』と笑った審神者がその時ばかりは冷酷な殺人鬼のように見えた。猛吹雪が去った朝にスキーウェアで走り回る刀たちを見て、なんとなく納得せざるを得なかったのだけど。
    だから腐れ縁もとい親友もとい突撃隣の南泉くん被害者代表の南泉一文字は、せめてもの情けで冬の間の世話をしなければならないと思っていた。いつもは我関せずと彼とは距離をとっているけど今回ばかりは文字通り生死に関わる。南泉一文字はこの期に及んで腐れ縁を放置するほど無情になれない男であった。そういうところが南泉の良いところだよねと度々長義が上機嫌に語っているのを彼は知らない。
    「化け物切りィ?いるか、にゃあ」
    長義の部屋は南泉の部屋から見るとかなり遠くにある。日のよく当たる東の端っこの方の部屋で、二階建て宿舎の二階部分にあたり、庭に生える梅がよく見えるので景色が中々良い部屋だ。ただし刀が増えるにつれ東へ東へと増築していった宿舎の端の方になるので、利便性で言えばあまりよくない部屋だった。
    「ああ、開いてるよ」
    木製の引き戸の奥から聞き馴染みのある声がしたので南泉は遠慮なく扉を開けた。ダークブラウンの本丸内では小洒落た方の扉の先には装飾の少ないシングルベッドと、個部屋に置くには少々大きすぎる筆記机と大小の本が並べられた本棚がぎゅうぎゅう詰めになっていた。
    「いつ見ても狭い部屋に住んでんにゃ」
    「間取りは君のところと変わらないけどね」
    確かにそうかも知れないが、南泉の部屋は家具に文机をぽんと一つ置いただけの和室で、後は全部押入れに入るだけしか物を持っていない。こんな物置一歩手前の部屋と比べても仕方がないだろう。
    ちなみにこの本丸の宿舎は1階が全て和室で、2階の一部だけが洋室の造りになっている。なんでも洋室に憧れた連中が主に掛け合ったそうで、それなら一番最近の増築は全部洋室にしようねと決めてこのような形になったらしい。外から見ると平屋の和風建築に乗っかるように増築した2階部分の途中からが大正ロマンじみた擬洋風建築が切り替わって積み重なっているので、そのあんまりの様に南泉は家が少し可哀想になる。屋根なんて雪国特有の急な角度がついているのに上に積み重ねてしまったから、名残がそのまま壁の途中から不自然に生えているのだ。そんなブロック遊びじゃないんだから。しかし審神者と霊力と現代科学の力の前では宿舎作りも自由自在になってしまうらしい。恐ろしい物である。閑話休題。
    長義は洋室への憧れがあると言った風はなく、単純に大量に物を置きたいので洋室を貰ったのだと聞いていた。確かにこの量の本を和室に置いたらみるみるうちに畳が凹んで傷んでしまうだろう。
    いいや、そんなことを考えるために来たのではない。南泉はこの男を雪の猛威から救ってやるべくここに現れたのだ。
    「お前主からコートもらっただろ、にゃ」
    「ああうん。あれは……着こなすのも難しそうだと思って困っていたところだよ」
    本当に困ったという顔で腐れ縁は言うが、彼はそもそもを間違えている。雪国では洒落っ気よりも防寒。お洒落にコートを着るとか抜かそうものなら凍死する。勿論、お洒落だからとコートの前を開ける文化はこちらに存在しない。そんなことをしたら服が雪まみれになるか、寒くて家に蜻蛉返りをするかだ。
    「悪いこた言わねぇ。今すぐ服を買いに行くぞ、にゃ」
    「はぁ?でも支給品があるだろ?充分足りていると思うけど」
    昔馴染みは意図がわかっていないようだが、残念ながらそれでは足りてないから南泉が来た。本当に全く何もかもが足りていないのだ。この本丸の主は冬になると新人向けの支給品としてスキーウェアと手袋と暖かいインナーを渡すが、それだけでは全然足りなくなる。何しろ毎日寒いので。寧ろもっと靴下とかあったほうがいい。すぐ濡れるので。カッコはつけずに股引きも履くべきである。何しろ暖かいの
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    hitotose_961

    CAN’T MAKE監査官さんと初めての冬の話。
    冬を知らない監査官さんうちの元監査官殿は冬を知らないらしい。最近南泉の周りでもちきりの噂である。
    最も、この精々100振りかそこらの刀と、人間が一人と、言葉を話す狐が数匹いるばかりの本丸において、噂というのは尾ひれはひれつく前に事実の確認が済んでしまうから、この話が本当のことだというのもまた誰もが知っていることだ。単刀直入に、南泉の腐れ縁もとい友人もといひっつき虫は冬を知らなかった。実際に何気なく聞いてみたところ『ああ、あれね。寒くて雪が降る季節』くらいの認識だった。『雪って綺麗だよね』とも言っていた。残念ながらこの本丸に降る雪は綺麗どころで済ませられる物量ではない。半分くらいは災害だという風に南泉は思っている。審神者が生まれも育ちも冬になれば人、車、電柱、家ありとあらゆる物が当たり前に埋まるくらいの豪雪地帯で生きてきたから感覚が麻痺しているだけで、決して今年はホワイトクリスマスかも知れないねとか呑気に言えるような気候ではない。就任初年の審神者がまるでトイレットペーパーかあるいはティッシュBOXを買い忘れた時のように『そうだ!除雪機買わなきゃいけないじゃん!』などと言ったから聞いていた初期刀がそんなものかと納得してしまっただけで、気を抜くと冗談でなく死人が出る。一年目を生き抜いた猛者どもに語り継がれる伝説の数々は決して誇張ではない凄みとリアリティがある。そんな本丸である。
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