「ほら、ここに来ると良い」
殊現は困惑した。どうしたら良いものかと視線を彷徨わせる。
「殊現?」
「し、失礼いたします……」
恐る恐るという言葉がこれほど似合う事もないだろうというほどの足取りで、殊現は衛善の部屋へと入った。
そもそも目の下の隈が示す通り、殊現はあまり眠ることができない。いつもの事と割り切っていた殊現だったが、寒さの厳しくなってきたこの頃は余計に眠れなくなってきた。
「一緒に眠らないか?」
そう提案してきたのは衛善の方からであった。隈が色濃くなった殊現を心配してのことらしい。
「最近はよく冷える。一緒に眠れば温かいだろう」
衛善にそう言われて断れなかった殊現は、枕を持って衛善の部屋を訪れる事となったのである。
「もっと寄らないと寒いぞ?」
「……はい」
衛善の体温で温まった布団に入り、衛善の息遣いがすぐそばへある状態に体中が緊張する。
「そんなに緊張していたら余計眠れなくなってしまうな」
「……はい」
その時、優しく頭を撫でられた。驚いているうちに何度も頭を撫でられ、軽く抱きしめられる。
「殊現は温かいな」
「衛善様も、温かいです」
夜着越しから伝わる熱に涙がこぼれそうになったので拭おうとしたが、それを遮るように強く抱きしめられた。
「あの、濡れてしまいます」
「これぐらい大丈夫だ。おやすみ、殊現」
抱きしめられた事で衛善の規則正しい鼓動が聞こえ、身体中でも熱を感じる。
「おやすみなさい、衛善様」
温かな優しさと、熱と、鼓動を感じながら殊現は眠りについた。