山田家で一番女性に人気なのは誰かと問われたら、まず必ず最初に名をあげられる男がいる。
「殊現殿ですね」
「殊現だね」
「殊現さんです」
整った顔立ちに優しい気づかい。山田家に不利益なものや罪人には厳しいが、それを知らない普通の女性には大層な人気があった。
「殊現はとても粋男なのだね」
「え、衛善殿!?」
久しぶりに二人きりで茶でもと言われ喜び勇んで会いに行った殊現は、衛善の言葉に茶を吹き出しそうになった。
「いったい何事です?」
「この間、士遠殿と茶を飲んでいたら女性たちの会話が耳に入って来てね。山田家で一番女性に人気があるのは殊現だという話だったから」
「そうですか……」
「お前は少し厳しい所もあるが優しくて気遣いのできる良い子だ。女性たちもそれを感じ取っているんだろう。実に良いことだ」
「そ、そうですか……」
今まで、他の山田家の者に同じようなことを言われて揶揄われることはたまにあった。その時はなにも思わなかったが、衛善に言われると妙に肌痒い。
「ちなみに私は四番目だったよ」
「衛善殿が四番目ですか?」
「士遠殿は七番目で典坐が五番目だったから、師より弟子の方が粋男なのだねと話したのだよ」
「いえ、きっとその女性たちの情報が偏っているだけです。衛善殿が一番なのです」
「いやいや……」
「衛善殿が一番なのです。一番の俺が衛善殿を一番だと言っているのですから一番なのです」
「ははは。そうかそうか、一番の殊現が一番だというのなら私が一番なのだろうな」
子供の駄々のような言い草だが、殊現は冗談ではなく本気で言っているのだと感じ衛善は笑う。
「今度、誰が一番粋男か話していたら衛善殿だと主張します」
「うん、私が恥ずかしくなるからやめておいてくれ」
殊現なら本当に言いかねないと衛善は軽くたしなめておいた。