とちくんとおたんじょうび 「「「としくんお誕生日おめでとう!!!」」」
普段は鬼の怒号か野郎共のバカ騒ぎばかりが響く真選組屯所に、本日はけたたましいほどのクラッカーの音とほんの少しだけ可愛らしい女性の声が混ざった大合唱が響き渡った。
その大合唱の中心で可愛らしい小鬼が笑顔で「あ、ありあとう」と幼い特有の拙く可愛らしい言葉を返している。だが、その小鬼の手は自身が座る人物の白い着流しをギュッと掴んでいるところを見るに嬉しい反面照れくさいのだろう。
「としちゃん!ケーキ食べるアルか?」
「う、うん!」
「私が取ってきてあげるネ!」
「お前がケーキなんか取ってきたら、ぺしゃんこの可哀想なゴミになっちまいまさァ。仕方ねぇから俺が……」
「黙るアル!お前が取ってきたら甘いケーキが激辛になるネ!」
「なんだと!このクソガキ!」
「ガキはてめぇもだろ!」
「あーもうそんなことで喧嘩しない!!」
「「うっさい!!駄メガネ!!」」
幾分か大きくなったはずの子供達が相変わらずの喧嘩をしている隙にとしくんの奴隷である山崎がとしくんの元へケーキを運んできた。
「副長、ケーキお持ちしましたよ」
山崎が持ってきたケーキはとしくんの顔と同じかそれよりも大きいのでは?と思ってしまうほど大きめに切り分けられたチョコレートケーキだった。その横に「とうしろうくんおたんじょうびおめでとう」と書かれたプレートが置かれている。上に乗せると崩れるからとかそうゆう配慮だろう。
「ジミー俺の分は?」
「自分で取りに行って下さい」
そんなことをいうが恐らくとしくんのケーキは銀時も食べることを考慮しての大きさのはずだ。じゃないととしくんには大きすぎる。
それをわかっていてわざわざ聞く銀時もわざとらしく冷たく返す山崎も素直ではない。
「とちの? 食べていいの?」
「はい。フォークです」
「ありあとう!!」
「としくん食べさせてあげる」
「うん!」
山崎からとしくんが受けとったフォークを銀時が掠め取り、綺麗にホールケーキから切り分けられてきたケーキを切り崩す。不格好に切り崩されたケーキの破片が乗ったフォークをとしくんの口元まで運ぶ。としくんがそのフォークを口の中に入れようとした時、口の端にケーキのクリームがついてしまったが、それに気づくはずもなくとしくんはケーキを頬ばった。
「ほいひい!!!!」
口の脇にクリームをつけ、両手で両頬を覆いながら、嬉しそうにするとしくんの可愛さといったらない。まさに天使である。もし死する時はこの天使にお迎えして貰いたいものだが、そうなると土方に置いて逝かれていることになるのでそれはそれで複雑だ。
「ぎんちゃ!あーん」
いつの間にか銀時の手から奪ったフォークにケーキの破片を乗せ、としくんはそれを銀時へと突き出した。
銀時はとしくんのあまりの可愛さに目を左手で覆い天を仰ぐことしかできなかった。
「……ぎんちゃ?」
としくんの不安そうな声で現実へと戻ってきた銀時は急いでとしくんの持つフォークへと食いついた。