指輪(神楽ちゃん視点)
ある日、銀ちゃんが指輪をしだした。
数ヶ月前から女ができたことには気づいていたが、まさかそこまでとは思ってなかった。
相手は?と聞くとそのうち連れてくるから連れてきてからのお楽しみとはぐらかされた
それから数日のうちに歌舞伎町中に銀時が指輪をしだした噂がまわった。
ある者は思い思いの銀時の相手に金を賭け、またある者は己で無いことに嘆き悲しんだ。
そんな中、銀時が今日相手を連れてくるからと言い出した。
なんとなく銀時と共にいるのは気まずくて遊びと称し家を飛び出した。
銀時曰く恋人は夜来るらしいのでそれまでに帰ればいいはずだ。
別に銀時に恋人ができることに反対とかでは無い。
むしろ、寂しがり屋の銀時に相手ができたのはいいことだと思うし、恋人ができたと思わしき辺りから銀時は幸せそうなので尚更応援の一択しか神楽にはない
たが、恋人ができたことに気づけたのに今も相手が分からないのが悔しいのだ。
さっちゃんではないし、ツッキーも違う、姉御も違う。
なら神楽も知らないようなモブ女か?
いや、それなら神楽が気づかないはずがない。
銀時が秋波を送られているのはこれまでうんざりするほど見ているが逆は見たことがない。
一体誰だ?
考えながら歩いていると珍しく着流し姿の銀時の腐れ縁兼犬猿の仲である土方十四郎とあった。
考え込んでたせいか腹が減った。
いつものように食べ物をせがむ。
するとある家に手土産を持っていくから選ぶのを手伝って欲しいと言われた。お礼に酢昆布をたくさん買ってやると言われ二つ返事で承諾した。
選んだお菓子が喜ばれたら、後日、焼肉に連れてってくれるとも約束した。
こうなったら神楽の全力をもって最高のお菓子を選んでやろう。
何人家族か?どんなものが好きか?など詳細を聞いていくうちに万事屋の3人と特徴が似ていることに気づいた。
これは楽勝だ。自分たちが貰ったら嬉しいものを選べばいいのだ。
なら、質も大事だが、それよりも量だ。
そうと決まれば、あの店しかないと、土方を先日依頼で訪れた茶菓子屋へと連れていった。
菓子を選んでいる間、土方の顔が優しい顔をしていることに気づいた。それから己にもその目が向けられていることにも。
美形にそんな顔で見られるとなんかムズムズしてしまう。顔を見ていられなくて視線を外すと首元にチェーンがあることに気づいた。
この男はネックレスなどしていただろうかと不思議に思いよく観察していると、チェーンの先に指輪のようなものが付いていることに気づいた
最近どこかで見たようなデザインだ。
シンプルなデザインだし、店先がどこかで見ただけだろう。
手土産を無事に買い、店を出た矢先、神楽の大きい腹音が鳴り響いた。
なんか恥ずかしい。
少し顔を赤らめる神楽の脇で土方が吹き出した。
笑い震える土方を睨みつけるとファミレスに連れてってくれると言われた。
今日はなんだか至れり尽くせりな気がするが、貰えると言うのなら断る理由などない。
ファミレスに行き、メニューを片っ端から注文していった。それが次々と運ばれ頬張っていると視線に気づいた。
その視線の元に目を向けると、見たこともないほど優しい目付きをした土方が微笑んでこちらをみている。
なんか調子が狂う。
飲み物を取りに行こうと席を立った時メニュー表を落としてしまった。
慌てて拾おうと屈むと土方も屈んだ。
するとネックレスがするりと襟からこぼれたのをみて、あっと思い出した。
そうまさに銀時がしている指輪と同じデザインだ。
この鬼かと何故か腑に落ちた。
男同士とか犬猿の仲とかまず思うことはあるはずなのに、何故かしっくりきたのだ。
「どうかしたか?」
呆けていた神楽が不思議だったのか首を傾げる土方に「なんでもないアル」と飲み物を取りに行く。
このまま土方を連れて帰るのは面白そうだとほくそ笑む。
隠してたつもりだろうが、歌舞伎町の女王様である神楽様に隠し事などできないのだ。全部お見通しアル。
(新八視点)
銀さんが指輪をしだした。
恋人ができたような素振りは全くなかったので心底驚いた。そしてこんなマダオを選んでくれる奇特な人がいるのかとそちらにも驚いた。
相手は誰なのか?
そう聞いてもそのうち連れて来るからとはぐらかさる。
銀さん曰くとても忙しい人らしい。
一体どんな人なのだろう?
どんな人でも神楽ちゃんがいることを含めて指輪という将来の約束同然のものを受け入れたのだろうから問題は無い。まあ、強いて言うなら銀さんを働かせられるようなしっかりした人だと助かるな。
そんなある日、今日の夜、銀さんの恋人が来ると知らされた。
夕飯も食べていくという。
なるほどだから、銀さんが珍しく朝から掃除をしているのかと腑に落ちた。
朝来て、起きていることにも驚いたが、掃除しているという事実に今日の天気は槍かな?など突拍子もないことを考えてしまった。
だが、理由を聞けばなんてことは無い。ただ、銀さんも普通の人だったというだけの話だ。
恋人が来るからと部屋を綺麗にし、喜んでもらおうと手料理に勤しむ普通の人。
そんな銀時に当てられて手伝いをしてやることにした。
料理にやたらとマヨを使ったものが多い気がするが、きっと恋人はマヨが好きなのだろう。
出来ればあのマヨネーズ妖怪程のマヨラーでないといいなと銀時の犬猿の仲である黒い鬼を思い浮かべた。
それからしばらくして料理も殆ど完成したという時間、この家のもう1人の子供である神楽の声が玄関から響いた。
「神楽ちゃん。おかえり」
そう言いながら玄関へと向かうとその後ろに先程思い浮かべた鬼が立っていることに気づいた。
「あれ?土方さんなにかご用ですか?」
そういうとあーとかうーとかいい俯いてしまった。
どうしたのかと思ったら後ろからドンッと大きい音が響いて振り返ると銀時が何やら慌てた顔で掛けてきた。
「は、はやくね!?」
「あー……わりぃ」
「ふん!私が連れてきてあげたネ!」
感謝するヨロシと胸を張る。
何故、神楽が土方を連れてきてこんなに威張っているのかわけがわからない。そして銀さんも土方さんも気まずそうに顔を背けているだけで何も発しない。
「と、とりあえず、ここじゃなんですし上がってください」
不思議に思いながらも、応接室兼居間へと促すと神楽に引っ張られるようにして土方がソファへと座った。
その向かい側に神楽ちゃんが座り、お茶を運んできた新八に、向かって「新八はここネ」と自分の隣を叩いた。
土方と銀時が横並びに座り対面に神楽と新八という謎な配置だ。
どうしたものかと勘案していると、「あー」と銀時が口を開いた。
「あの……その……今日付き合っている奴が来ると話したと思うが……」
なぜ今その話をするのだろうか。
そんな疑問が湧いたが、とりあえず続きを聞くことにした。
「あ、あの……えーと……こ、こいつです!」
なんでそんな犯人は、こいつですみたいな感じの言い方なのだろう?
いやいやそうじゃないぞ僕。
えーと……銀さんは今日恋人を連れてくると言っていた。で、神楽ちゃんが土方さんを連れてきて。それでえーと……
「…………はぁ!? え? ぎ、銀さんの恋人って土方さんなんですか!? え? 土方さんこんなマダオでいいんですか!?」
「ちょ、ちょっと待て! どうゆうことだそれ!」
「あっ……」
「なんだその、やべ本音でちったみたいな顔は! 土方もなんか言ってよ! 大好きだとか大好きだとかさぁ!」
「俺もなんでこんな奴をとは思う」
「見る目ないネ」
土方は頭に手を当てため息をついた。
「俺の味方はなしか!!」
そう言ってわざとらしく両手で顔を覆い、泣き真似をする。
そんな銀時を無視して「あ、これ」と土方さんが包装された箱を取出し、差し出した。
それを嬉しそうに受け取った神楽は、止める間もなく開封し、箱を開ける。
羊羹やどら焼きなどさまざまな和菓子が入ったその箱はこの前依頼で立ち寄った店のものだった。
美味しそうだと思ってはいたが、まさかこんなに早くありつける機会が来ようとは。
銀時にはもったいないほどの人が銀時を選んでくれたことに早速感謝した。
そうしている間にもどんどんお菓子が化け物の胃袋……じゃなかった。神楽ちゃんの胃袋に収まっている。
慌てて自分の分を確保する。
嘘泣きをやめた銀さんも自分の分(多め)と土方さんの分も確保した。
「俺はいらねぇから」
そう言って銀さんが土方さんの前に置いた菓子を僕の前に置いてくれた。
「あ!新八だけずるいネ!私もマヨラーに渡されたいアル!」
「あ?十分食ってんだろ」
呆れたようにいう土方さんとどんどん頬が膨れて行く神楽ちゃん。
そんな美形同士の睨み合いによる無言の攻防を静かに見守っていると、土方さんが大きくため息をつきながら箱からお菓子を取り、「ほらよ」と神楽ちゃんの目の前に置いた。
嬉しそうに笑い置かれた菓子を手に取る。
軍配は神楽ちゃんに上がったらしい。
「土方、土方」
銀さんが土方さんの袖を軽く引っ張りながら俺には?と催促をした。
なんてあざといんだろう。
逆にあざとすぎてげんなりする。
「あ?てめぇでとれ」
「ちぇ」
土方さんに拒否られ、頬を膨らませる銀さんは先程自分で確保した分とは別にまた自分で菓子を取り、手元へと確保した。
そんな銀さんを優しい眼差しで見ていた土方さんは、吹き出した。
「ふっ」
「な、なんだよ!」
「なんでもねぇよ。ははっ」
あの鬼が楽しそうに笑っている。それだけでも驚愕なのに、鬼は銀さんのふわふわの頭に手をやると優しい手つきで撫でた。その手を銀さんも大人しく受け入れる。
「ひぇ……」
隣の神楽ちゃんからも小さい悲鳴があがる。兄のような男と怖くも頼れる男の穏やかなラブシーン。かなりいたたまれない。だが、何故かしっくりきてしまう。銀さんにはこの人しか居ない、と思えるほどに。
土方さんを紹介されてから、1年後
「おはようございます!」
「おう、おはよう」
朝、万事屋に出勤すると居間で新聞を読む土方さんが迎えてくれた。
土方さんはあの紹介から半年後、万事屋から屯所に通うようになり、休みの日はこうして出勤してくる僕を出迎えてくれる。
詳しくは知らないが、神楽ちゃんが後押ししたらしい。
「お?おはよう」
「あ、銀さんおはようございます」
銀さんは土方さんと住むようになって朝早くから起きるようになり、毎日欠かさず朝ごはんを作っている。そして、4人で朝食を囲んでから、土方さんは屯所へと出勤していく。これをするために新八は今までよりも早く家を出て万事屋に向かうことになりはしたが、朝から美味しいご飯が食べれるのでなんてことはない。
それに銀さんも、神楽ちゃんも、そして土方さんも幸せそうだ。
そんな幸せそうな銀さん達を見て、本当に良かったと新八は思うのであった。