抉られた腹が、じくじくと。痛く、痒く、熱く……痛い。
ベッドに潜って目を閉じても、傷の痛みに意識を飛ばすことさえ許されない。
「……ふ……っ」
昼間の戦闘で負った傷。
少し厄介な連中を相手した時のものだ。本当はちゃんと手当すべきものを、他の連中を優先して自分は適当な手当で戦い続けたせい。
耐えて、耐えていれば、やがて気絶するように眠れるだろう。今までもそうだった。この腕になる前も、なった後も。
こんな痛み、よくあることじゃあないか。
こんな痛みより、もっと痛いものがあるじゃあないか。
瞼の裏に蘇る、人々の怯える顔。
体をいじってまで戦った末に受ける中傷、唾棄される暴言。
今もなお受けなければならない、私じゃない『グレゴール』が積み上げていた、理想の果ての憎悪。
それの方が何倍も、何百倍も——。
「——グ、グレッグ」
不意に、ドアが叩かれる。
くぐもった声は聴き間違えようが無い。
勝手につけられた愛称も。
「今いい? ちょっと話がしたくて」
いつもの調子で言う声に、私はベッドから跳ね起きる。
そしてドアを勢いよく開け、驚いた顔のロージャを部屋に引っ張り込んで痛む体で抱き付いた。
どうしてか——どうしても、そうしたかったから。
「ぐ、グレッグ?」
「……ごめん」
ごめん、なさい。
急にこんなことされて驚くよな。理由くらい作ってもいいのに。彼は本当に話すことがあって来ただけかもしれないのに。
でも、けれど。
今、だけでいい。
「もう少しだけ、このままでいさせて」
お願い。
私が耐えられるように。悪夢から逃げ切れるように。
果たして、ロージャの腕が背中にまわり抱きしめ返してくれる。
大きな手の平。欲しかった体温。
わけもなく目尻から落ちた雫も、見ない振りをしてくれた。