雨中烈火最初の接吻は、はっきりと覚えていない。
剣戟の最中だったか。
妓楼の中だったか。
こんな雨の日では無かったはずだ。
「ぼんやりしてっと死ぬぜ!」
眉間目掛けて突き出された剣先をはたき落とす。
弾かれたことで開く胴に躊躇無く踵をねじ込んだ。
「ぐ、ぅ!」
「……隙だらけだ」
「ぅ……はっ! 蹴りの一発で満足なのかぁ? お安い野郎だ!」
赤い唾を吐き捨てながら笑う男。
薄暗く濡れ、傷も増え、着物も髪も重さを増してなお隻眼は烈火を宿していた。
口端を吊り上げ、呼吸が整うとすぐ切りかかって来る。
何度、何十度、星霜を重ねるかの如き剣戟。
今日が初めてでは無い交剣で、弾ける火花に垣間見る烈火から、いつしか、目が離せなくなっていた。
数歩の間合いで見え隠れしてしまうその色を。
迫る白刃、雨を裂く一閃よりも荒く、澄む色を。
「!」
ぬかるむ足元で僅かに隙が生まれる。
好機を逃さず大きく踏み込み、襲い来る横凪ぎを腕ごと弾いて奴の首へ。
その後ろの雑な髪束を掴んだ。
「は」
間抜けな声と、冷えた唇。
——嗚呼、確かにこんな雨に濡れていなかった。
半開きのそこへすぐに舌を刺し入れて呼吸を貰う。
状況に気付いた舌が逃げようとするので追いかけて絡めた。
刀を掴む手は力づくで抑え込み、比較的自由な逆側が何度も何度も背中を叩く。
殴打で骨が軋む。それでも、いつかの夜を再現するように接吻を続けた。
やがて、意識が遠のき始めたらしく、膝から崩れた体を支えて漸く唇を離す。
「はぁ、はぁ……っ何なんだよお前!」
「……」
「はぁ、っくそ、ほんと、なんなんだよ……」
途方に暮れたように落ちる声。
降りしきる雨の中。
支える体に押し返されるまで、情けない罵倒を受け止め続けた。