丸みのある頬に触れる。
指が届く寸前ひくついた肌。
怪訝そうに見上げて来る黄昏の瞳。
煙草の煙が私に当たって溶けていく。
「ロージャ?」
お気に入りの声は少しの戸惑いに揺れ、ただ見降ろして肌に触れただけで何も言わない私に疑問を向けていた。
「触りたかったから」
不安を放置して逃げられても困るので正直に言う。
嘘じゃない。なんとなく、グレッグに触りたいと思ったから、触っただけ。
乾き始めた頬の返り血を指先でなぞって拭き落とす。
「疲れたぁ」
「確かにな。もう片付いたし戻ろう」
周囲にまき散らされた何かだった塊。最早興味も価値も無いそれらに背を向けて二人で歩きだす。
他の面子は先に戻ったようで、立っているのは私たちだけだった。
「今日のご飯は何かなー?」
「さぁな。しかしよく食べるよなお前さん」
「まーねぇ」
一仕事終えた雑談は気楽そのもの。
バス内じゃ怖い怖い赤い目に睨まれそうなほど何気なく軽く交わしていたその時、グレッグの向こうで蠢く何かを見た。
本能と直感。
咄嗟にグレッグを抱き寄せて強い殺意に背を向ける。
次の瞬間、背中に激しい痛みを感じた。
「ぐあッ」
「ロージャ」
腕の中で上がる悲鳴。
確認できないが、多分、何か飛ばして来た。
それが直撃した背中は激痛をちりちり広げ、どろどろと熱い液体がシャツに染み込んでいく。
「っつぅ……っ」
痛みに負け、体を支えられず彼女と共に膝をついてしまう。
麻痺も掛けられたのか、辛うじてグレッグの背中に引っかけていた腕も力が抜けて赤い地面に垂れた。
こんな痛み無視して戦わなきゃ。
まだそこに敵がいるってのに。
ああもう、ちゃんと守りたかったのに……!
「ロージャ! おい、しっかりしろ! ロージャ」
絶叫のように呼ばれる名前が遠のいていく。
嗚呼、畜生。
ちくしょう、が。