いつか幸せに変わるから「場地さん、別れましょう。」
本当は言いたく無かった、この一言。でも、場地さんのためならこうするしか無いんだ。
相棒のタイムリープに俺が必要だから、って協力したとき。無駄だって分かってても、俺は「場地さん救ってこいよ」って言った。場地さんが血のハロウィンで死んだときにはもう戻れない事は十分知っていた。けれど、そこには13歳の忘れられない恋心を引きずっているおっさんが居たもんだから、ぽろっと口から出てしまった。
異変に気付いたのは×Jランドで残業を終えたときだった。
「タケみっちが未来を変えた…?」
そんなことを考えていると、不意に、「千冬ゥ」とあの、憧れのクソかっこいい低音ボイスが室内に響いた。
「なぁ、これどういうこと?ちょっと説明してほしいんだけど。」
「えっ…?」
この店には、一虎くんと俺しか居ないはず。俺は戸惑う。
「いや、だからぁ、この部分」
懐かしいその声に、思わず涙が溢れ出す。もう何十年ぶりだろう。俺は、場地さんが死んだとき以来、子供のように声を上げて泣いた。
「いや、千冬どうした?」
場地さんが急に泣いてる俺のことハグしたりするから、余計に涙が止まらない。良かった、夢じゃない。あたたかい。生きてる。
「もぉぉ、そーゆーの家でやれよ。×Jランドでやられたら困んの。俺が。」
横にいた一虎くんが文句を言ってくるが、そんなん今はお構いなし。それより、場地さんが生きているという実感を得られたことのほうが、大事。
俺の頭をさすりながらおんぶまでしてくれた場地さんの腕の中で、号泣していたのが出会いだった。
俺は泣きながらも、「場地さんはやく家帰ったらどうっすか?」なんて聞くと、「いや、おんなじ家住んでんだろ?」と清々しい顔で言ってくるが、それにおれは動揺して、「ほんと…?」と女々しい声を出してしまった。
「やべ、一虎。千冬がどうかしちまった」
そうやって笑いながら言う場地さん。俺がこの笑顔を見たのは何年振りだろうか。
一虎くんにも一応確認したところ、本当に俺らは同棲してるらしくて、しかも付き合っている、とのこと。信じられないあまり「マジっすか!?」と大声を出して叫んだ。二人はうっせーよって言って、小突くような真似をしたけど、とにかく幸せだった。
俺にとって13のときから拗らせてきた恋がちょっとでも叶ったから。この日が続きますようにって、普段は宗教なんて気にしない俺が神様にお祈りしたんだ。
けれど、俺が常識を気にし始めたのはいつだったか。
初めは場地さんと付き合えて、円満な日々を過ごしていたけれど、本当は男の俺なんかと付き合ってて面白くないんではなかろうか。
だって、テレビに出てくる女優などを見て、「あいつ胸でけーよな」とか言ってくるから、女に興味はあると思う。
そして何より、俺は場地さんがいない苦しみや悲しみというものを知っている。だから、俺はとにかく場地さんにこの未来では幸せになって欲しかった。
あくまでも、この未来は俺の自己満足のために作られた世界ではないのか?
俺が、場地さんの中学の時からの思い出を奪って良いのか?
場地さんは今、本当に幸せなのか?
こんな様々な不安が渦巻く中、俺は答えを導き出した。
「別れればいいんだ。」
今の幸せな時間がどれだけ続けば良いと願ったか。けれど、俺は本当の場地さんの幸福をずっと望んできたから、これは仕方がない、と泣くのを堪えてまで決心した。
俺なんかに縛られずに、自由に生きてください。アンタはイケメンだから女はホイホイ出てくると思います。
私は、貴方の幸福を願って。