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    紫蘭(シラン)

    @shiran_wx48

    短編の格納スペースです。

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    紫蘭(シラン)

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    グルアオです。
    雪山でのチキンレースの続編です。
    ※aoちゃんが性格悪いので、ご注意ください。

    似た者同士/グルアオかたかたと、長い指先から静かに鳴るタイピング音を聞きながら、閉じていた目を開いた。
    土曜日の午前中、場所はグルーシャさんのお家で リビングにあるソファーの上。
    私が隣でうたた寝している間、彼は膝の上にクッションを置き そこにモバイルパソコンを乗せてジムリーダーとしての仕事をしていた。
    確か、今週中にジムを訪れた挑戦者の報告書の作成が結構溜まっているみたいで、今日中に全て作成してリーグに送らないと、明日から大変なことになってしまうらしい。
    だから、週末私と過ごす時間を削って仕事をしている。
    本人はなんとかして私の方を優先しようとしてくれていたらしいけれど間に合わず、かといって根っからの真面目な性格上 ほったらかしにもできなかったから、こうして休日対応をしていると。

    まあ、そんな状況に陥るような原因を作ってしまったのは、紛れもなく私なんだけど。

    毎週末はよっぽどの理由がない限り、彼と一緒に過ごすことがお付き合いを始めてからの決定事項になっている。

    だから昨日の夕方、授業が終わってから寮ではなくグルーシャさんの家に行って帰りを待ってたのだけれど、着いた時に今日は遅くなるから先にご飯食べて寝てって連絡が来ていた。
    今は挑戦者も多く忙しい時期なのはわかってる。
    それは十分わかっているのだけれど…また私の悪い癖が出てしまった。

    冷蔵庫の中に用意してもらっていたご飯を食べてから、一通のメッセージを残業するグルーシャさんに送ったのが、今回の発端。

    『わかりました。明日クラスの子からピクニックに行こうと誘われてますし、お仕事で疲れていると思うので、邪魔しないよう今日は帰りますね』

    誘われていたのは本当だけど、グルーシャさんとの予定があるし 最大限申し訳ないアピールをしながらとっくの前に断っていた。
    これを送ったらどんな反応が来るのかな…とワクワクしながら待っていたら、送った直後に既読になって、私のスマホロトムに着信が入った。

    ワンコールで出ると、それはもう不機嫌丸出しの声が聞こえた。

    『絶対に駄目。今から帰るから家にいて』

    それから即帰宅してきたグルーシャさんによって、明日は外出なんてできないよう たくさん愛をぶつけてもらった。
    最近は嫉妬の対象が男女問わずになってきていたのを知っていたから、見事一本釣りできて やったね!って感じ。

    まあ、その結果 今グルーシャさんが大変なことになってしまっているのだけれど。

    仕事をするグルーシャさんの横顔を下からじっと眺めていたら、それに気づいた彼が申し訳なさそうな顔をして、頭を撫でてくれた。

    「…ごめん。なんとかお昼までには終わらせるから」
    「大丈夫ですよ。お仕事頑張ってください」

    擦り寄るように彼の太もものサイドに頬を擦りつけると、愛おしそうな目を向けてくれた。
    そして目と手をまたキーボードの方に向けて、作業を再開する。

    ちなみにさっきの仕草は、よくマスカーニャが主人のネモに対してよくやっている仕草だ。
    あの子もなかなか嫉妬深く、ネモが他のポケモン達のお世話をしている時にいたずらをして、かまってもらおうと頑張っている。
    そして無事目的が達成できた時に、膝枕してもらいながらこうやって可愛く甘えていたのを、ピクニック中に何度も見た。

    …手持ちの進化前のポケモン達を見れば、グルーシャさんは結構可愛いものが好きなんじゃないかと推測したから、今回試してみたけれど 正解だったみたい。

    全部全部私の計算。
    何も知らない純粋なふりをして 非常に嫉妬深い彼氏を持つ女の子という演出を念入りに作り上げた上で、ちゃんと彼が私のことを愛してくれているのかどうかの試し行為を止められない。

    だって、本当の意味で私だけを見てくれる人なんて 家族以外この人しかいないんじゃないかって本気で思うから。

    親友の三人はもちろん大切。
    だけどペパーにはマフィティフがいるし、ボタンにはスター団がいる。
    ネモは…彼女も結構私に対して執着心を持っていてくれているけれど、私より強い子が現れたらどうなっちゃうんだろうという心配が尽きない。

    そのため、三人では私だけを愛してほしいっていう欲求は満たされない。

    だから、こうしてグルーシャさんには あなたはそうじゃないよね?私だけが大好きだよね?って確認するために、わざと嫉妬させて愛情の再確認をしている。

    彼は最低でも朝・昼・晩の定時連絡を必ずするよう私に義務つけていて、もしそれができないと 挑戦者の相手をしていなければ すぐに電話をかけてくる。
    男女問わず二人っきりになるのは駄目、金曜日の午後から日曜日の夕方までは彼用に時間を確保しないといけない、電話には二コール以内に必ず出ること、寮の部屋にいるときは 渡されたタブレットで映像を繋げてずっとその様子をグルーシャさんに見せること…などその他諸々、彼とのいろんな約束事があって、そのことを一部みんなに共有したら ボタンから密室に閉じ込められそうになったらすぐに連絡寄越してって深刻な顔で言われた。

    いっそのこと、私を閉じ込めてくれた方がいいんだけれど。
    けど、いくら独占欲が強い彼でも、私にはもっと他の世界を広く知ってほしい気持ちは残っているから、それだけはしないみたい。
    …そんなの必要ないのに。

    もこもこ上着だとかの服を全て脱いだら体つきが完全に大人の男性であることも、マフラーを外したら立派な喉仏が存在しているのも、手袋の下にはゴツゴツとした大きな手が隠れているのも、全てを知っているのは私だけ。
    なーんにも興味ありませんってクールな顔をしていながら、私だけには嫉妬で顔を歪ませて、激しく愛してくれているのを知っているのも私だけ。
    私だけがそれらを知っていたらいいし、他のことは…結構どうでもいい。
    他の世界なんて知らなくてもいい。
    私が求めているのは、グルーシャさんだけ。

    …あーあ、もしこんなこと考えてるってバレちゃったらどうなるんだろ。

    物分かりが良くて可愛らしいアオイちゃんはどこにもいなくて、その皮を被った愛してほしいと貪欲に求めて 試し行為を止められない 最重量ポケモンもびっくりな重い重い気持ちを持った女の子しかいないって。

    …それでも可愛いって言ってくれるかな?
    それとも、思っていたのと違うって冷めちゃう?

    グルーシャさんの本心を知りたいけど、知りたくない。
    なんだかんだで、その重要な部分を確認できるほど 私は突き抜けていない。

    ああ、でも今回の件は仕事にまで影響出しちゃったのはやり過ぎちゃったな。
    私に注目してほしいけれど、迷惑をかけたいわけじゃないから。

    うーん、そうなると 次はどんな方法でグルーシャさんを嫉妬させようかな。
    一度彼以外の他の人とだけバトルをして楽しかったと報告するとか、他のジムリーダーの皆さんの話だけをするとか。
    いや、もっと強烈なやつを…。

    「アオイ、心配しなくてもぼくは全部知ってるから」
    「えっ」

    次に行おうとしていた試し行為について考えていると、上から声が降ってきた。
    見上げたら、グルーシャさんは笑っている。

    「昨日のはわざと煽るために言ってきたのも、ちょっと前のあのカードの件や他のも全部 ぼくを試してたんでしょ」
    「な、なんで…」
    「似た者同士だと、なんとなくわかるんだ。
    実際に、ぼくの試し行為にもあんたは付き合ってくれているだろ。
    それってすごく嬉しいし、アオイもぼくのことが同じくらい好きなんだと心の底から実感できる。

    …だからこそぼくも止められない。もっとほしいって思ってしまう」

    するりと、頬を優しく撫でられる。
    私を見つめるアイスブルーの瞳は、砂糖菓子のように甘くて艶やかで。

    「そうやって必死で頑張って気を引こうとするアオイは、可愛すぎるからね。
    もっと見せてよ。
    ぼくだけしか見れないんでしょ?」

    その中には底知れない真っ黒な闇が住み着いている。
    だけどそれを向ける対象が、私だけっていうのに体がゾクゾクと震えた。

    グルーシャさんの気持ちが怖いからじゃない。

    「はい。グルーシャさんにだけ、特別です」

    私と同じくらい重くて深い愛を向けてくれることが…堪らなく嬉しいの。


    終わり
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    Replies from the creator

    recommended works

    chikiho_s

    PASTTwitterに上げたバレンタインとホワイトデーの連作。
    プレゼントは死ぬほど貰うけど、自分からあげるなんて無いだろうから悩み悶えていればいい
    ココアの件はフォロワーさんのリクエストで。グランブルマウンテン(砂糖たんまり)でもいいね。可愛いね。

    https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=19706108
    氷の貴公子とチョコレイト今年もこの日がやってきた。一年の中でも憂鬱な日。バレンタインだ。

    ジムの建物内を埋め尽くす勢いでチョコレートやプレゼントが届く。言うまでもなく全部ぼく宛て。わざわざ雪山の山頂にあるジムまで届けにやってくる人もいる。多分明日は本部に届けられた分がやってくる。正直、意味がわからない。
    この日だけ特別に一階のエントランスに設置されるプレゼントボックスは何度回収しても溢れていて、業務に支障が出るレベル。下手にぼくが表に出ようものならパニックが起きて大惨事になるから、貰ったチョコレートを消費しながら上のフロアにある自室に篭もる。ほとぼりが冷めたらプレゼントの山を仕分けして、日持ちしない物から皆で頂いて、残りは皆で手分けして持ち帰る。それでも裁ききれないからポケモン達に食べさせたり、建物の裏にある箱を冷蔵庫代わりにして保管する。これは雪山の小さな特権。
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