グルーシャ先生、教えてください!Part1/グルアオ八歳年下の女の子との恋人関係が始まってから、当初はアオイの成長に合わせてゆっくりと進展していくんだろうと思っていたし、そうするつもりだった。
好きだからこそいろんな邪念が渦巻いて、それでもまだ成人していない子のために必死に我慢しようと誓っていたけれど、それがある日こうもあっさりと破ってしまうことになるなんて。
「グルーシャさんに教えてほしいことがあるんです」
「なに?アカデミーの授業のこと?
大分前に習ったことだから あやふやなところはあるけれど、一緒に見ていこうか?」
お付き合いが始まってから仕事場のナッペ山ジムに呼ぶことはやめ、デート先はもっぱらぼくの自宅になっていた。
本当は外でいろんなところに連れていった方がいいんだろうけど…あまりアオイの可愛い部分を周りに見せたくないからという本音を隠して、いつでもジムに向かえるようにするため自宅で会いたいと話をしている。
それに対して、彼女は一切の文句もなく そばにいられるのであれば十分だと純粋な目で言われて、自分の醜い独占欲がさらに際立ってしまい 心が痛んだ。
それでもこのわがままな気持ちを捨てきれないからこそ、休みの日は今日のようにアオイを家に連れ込んでいる。
もちろん、軽いキス以上のことはしていない。
あくまでアオイが成人するまで健全な関係でいないと。
だから、彼女が教えてほしい内容は普通に勉強のことかと思い わからないところを教えてほしいと言った。
ただ、それに対する答えが。
「私、グルーシャさん好みになりたいんです。だから、えっちなことを教えてください」
今何か飲み物を口に含んていたら思いっきり吹き出していたし、そんな真っ直ぐな瞳で言うべき内容じゃない。
一瞬何かと聞き間違えたのかと思い、もう一度聞き返した。
「え、ごめん。ちょっともう一回聞いてもいい?」
「あなたの好みになりたいので、えっちなことを教えてください」
決してぼくの聞き間違えじゃなかった。
そもそもぼく好みって何?
好きじゃなかったら付き合ってないけど。
「大人になって、そういうことをする時にあなたをがっかりさせたくないんです。
でも他の人から教えてもらうのは嫌なので、それならグルーシャさんから教われば手順もわかりますし、さらにあなた好みになれるので一石二鳥だなと」
「ちょっと意味がわからない」
え、いやなんでそんな発想になるわけ?
そう思ってくれるのは嬉しいけれど、別に大人になってからでもいいじゃないか。
ぼくがアオイに対してがっかりすることなんてあり得ない。
でも今からぼくの好きな感じに育てることができるのなら…。
いや、何を考えているんだ!普通にダメだろ!!
普通に捕まる!いや、でも…。
脳内が大混乱に陥っている中、アオイはぼくの胸元に手を当てながら見上げて問いかけてくる。
「ダメ…ですか?」
「わかった」
何がわかったのか全くわからないけれど、好きな子を自分好みに育てられるという最大のエサを目の前に出されてしまうと…答えはもうYes以外は出てくるはずがない。
「で、何から教わりたいの?」
ソファーで向き合うように座り直すと、具体的なことを話し合う。
するとあんな大胆なことを言いながら、アオイは恥ずかしそうにもじもじし始めて、ぼくの心臓がとてつもない速さで脈打って痛くなってきた。
…なんでそこで恥じらいが出てくるわけ。
「あの…やっぱり大人のキスの仕方を、教えてくれませんか。
ちょっと憧れがあって…」
「ぐぅ…!」
アオイが可愛すぎて変な声が出た。
そうか、あんたの中ではディープキスはえっちな分類に入るんだ…。
やっぱりまだ子供だなと考えたけれど、何当たり前のことを言っているんだとすぐさま心の中でツッコんだ。
いや、子供だからこそ大人になるまで手を出さないでいようと思っていたんだろ。
「目を閉じて。それでその…少し口を開けて」
「はい、先生」
ちょっと先生呼びはやめて。
本当になんか、ダメなことを教えている気分になるから。
いや、でも先生呼びも結構いいな…。
自分が二つに分かれたのかと思うほど真逆の意見が、脳内で反発し合っている。
そしてアオイが言われた通りの行動へ移したことを確認すると、柔らかな頬に手を添えながらゆっくりと距離を縮める。
そして唇同士をくっつけると、舌を彼女の小さな口の中に入れた。
驚いたのか微かに震える体を抱きしめながらも、ぼくは止められるはずもなく 彼女の舌に軽く触れたり、口内をなぞったりと動き始める。
「んっ…」
微かに漏れる上擦った声が可愛い。
もっと聞きたい。
どんどん深めていく間に、苦しそうな顔に変わっていったから一旦離した。
息切れしながらも見上げてくる表情に、加虐心がそそられる。
ああ、でもダメだ。
きちんと教えないと…。
「苦しくなったら、息継ぎちゃんとして」
「っ…どの、タイミングでしたら…いいんですか?」
「時々唇を離したでしょ。その間に息を吸ったり吐いたりするんだ。
もう一度するから、やってみて。ぼくとだから別に失敗してもいいよ」
「あ、んむぅ…」
ぐっと近づけてもう一度重ねる。
さっきより少し激しめに舌を絡ませながら、時々インターバルとして離せばアオイは口をはくはく動かしながら、一生懸命呼吸をしようと頑張っている。
懸命な姿がすごくそそられて、止まらなくなりそうだ。
それを何度か繰り返している内に、徐々にコツを掴んできたのか 初めと比べればスムーズにできるようになっていく。
結構物覚えがいいし、キスをしている間くちゅくちゅと水音がよく聞こえて とんでもなく興奮する。
もっとほしいとばかりに手加減なしでキスをし続けていたら、最終的に息を上げながらぐったりとぼくの胸元に寄りかかってきた。
「うん。アオイ、ちゃんとできてる。今日初めてなのに上手だよ」
走った後のように小さな肩が呼吸を整えるため上下に動いているのを見て ぎゅっと抱きしめれば、火照ったように顔を赤らめながら アオイは良かったと安心したように微笑む。
健気な姿にぐっとまた心臓が痛い。
気だるそうに頬を擦り寄せてくる彼女の姿を見て、これ以上のことをしたいという欲求が駆り立て始めたところで、はっと正気に戻る。
…これ以上は本当にダメだ。
何かしらのルールを設けないと、このままの勢いでアオイの全てを食べてしまう。
別に本人も望んでいるんだしいいんじゃないかという悪魔の囁きには、決して耳を貸さない。
でも雰囲気に流されている時点でアウトか?
いや、まだディープキスしかしてないしギリギリセーフ?
…とにかく、少しでもステップアップするスピードを緩めないと。
そうじゃないとアオイは素直な子だからどんどんソッチ方向の知識を身につけてしまうし、大人がたった十五歳の子にしていいことじゃないはずだ。
だからなんとか理由をつけて、こんなことは今日限りにして…。
「先生、今日教わったことをまた復習しますね。
だからもう少し上手くなったら次を教えてください」
「わかった」
息を整えることができたアオイから次を所望されると、心とは裏腹に口が勝手に喋り始める。
もしかしなくても、ぼくは開けてはいけない扉を開いてしまったのかもしれない。
頭ではなんだかんだ言っても、欲望に忠実に動いてしまうことが情けないと考える自分と、次は何を教えようか考えてしまっている自分が両立していて…初回の授業では止まれそうにない気がしてきた。
「このこと、周りには絶対内緒だよ」
「はい、もちろんです。先生の生徒は私だけですから」
…やっぱり先生呼びはいいな。
なんかクるものがあって、非常にそそられる。
続く