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    ライナー誕生日記念のライジャン
    遅刻だけど許して

    現パロ同棲中のライジャンです。菓子作りが趣味のジャンととにかくジャンが好きなライナーの話。

    Sweetest Home あれは、付き合い始めた冬のことだったから、もう一年半ほど前のことになるか。
     一緒にテレビを見ていたジャンは、どこかの国の製菓職人がケーキを作る姿を見て「俺にもできるかな」と言った。
     その製菓職人が作るケーキは、聞いたことのないような豪華な材料を入れているだけでなく、とにかく見た目が艶やかできらめいていて、テレビに出演している女性ゲストの目の輝きも決して嘘ではないことがわかる。…それを、急にジャンが自分にも作れるか?と聞いてきたわけである。
     ジャンは確かに手先が器用である。何せ、美術品の修復士として飯を食っている。しかしライナーはさほど本気にもせず、「ああ、できるんじゃないか」と答えた。半ば冗談のつもりであった。
     なぜなら、この豪華なケーキが作れようが作れまいが、ライナーのジャンに対する思いは何ひとつ変わるわけではないからだ。
     ジャンが失敗してもしなくても、ライナーの気持ちが何か変わるわけでもない。だから、半ば適当な感情で「ああ、できるんじゃないか」と答えた。するとジャンは、くすりと笑った。
    「じゃあやってみよう。お前、その気にさせたんだから責任もってちゃんと食えよ。」
    「えっ…あぁもちろん!」
    「不味くても絶対食えよ。」
    「ああ…約束する。」
     とはいえ、まだこの時点ではライナーも(まぁジャンの気まぐれだろう)くらいの気持であった。
     しかしジャンは抱えていた仕事に区切りがつくと、いそいそと製菓用品売り場に出かけて調理器具や材料を買い込むようになった。クッキー、スポンジケーキ、タルトやゼリーなど、基本的な菓子を一通り作ったと思ったら、そこからジャンは凝り始めた。
     網状やレース状になった飴細工だとか、見た目が宝石のようなチョコレートだとか、何層にも色が分かれたゼリーだとか、そういうものを休みの日は一日かけて作るのだ。そしてこれが意外にも美味かった。本人はレシピ動画サイトもたくさんあるのでさほど難しいことではないと言うが、ライナーが同じ動画を見てもその工程の多さにげんなりするだけだった。
     また、消防士として不規則で忙しい毎日を送っているライナーにとって、ジャンが作る菓子の彩に幸福を感じるようになっていた。
     お互い体力勝負な仕事であり、決まった休みも取れず、付き合ってすぐ同棲したにも関わらずすれ違う日々が多かった。そんな生活に色めきが立ってくるような感覚であった。
     ライナーは自分自身が育った環境を決して僻んではいない。しかし、一生懸命で熱心な母親が与えてくれた家庭はどこか華やぎや彩に欠けており、ジャンが試行錯誤しながら作り上げる世界にライナーはすっかり蕩けていた。
     そんなライナーとて、いくら愛しのジャンが作ってくれた菓子でも食べ過ぎれば太ってしまう。ライナーは職業柄、機敏性と筋力が必要である。動けなくなってしまっては元も子もないので、ジャンが菓子作りを初めて一年程経った頃から、ジャンの手作り菓子を職場に差し入れることにした。
     それがまた好評であった。最初は見た目重視で作っていたジャンも、この頃からいかに失敗しないかの安定性やコスパ、食材研究をするようになっていた。
     屈強な体躯の同僚たちは「これを作ったのは本当にプロじゃないのか?」「お前の恋人は何者なんだ?」と口々に声を上げながらアイシングクッキーを貪り、あっという間に平らげてしまった。
     その話を聞いたジャンは俄然やる気を出した。元来褒めて伸びるタイプである。学生の頃のジャンはどこか尖っていたが、本当は努力家でそれを素直に出せないだけなのだ。それに気づいたライナーがジャンを褒めた時から、ころりと彼の態度は変わった。それ以来、友達以上恋人未満の関係を幾年か彷徨い、社会人になってようやく結ばれた紆余曲折がある。
    「じゃあ、次のライナーの誕生日はすっごいケーキ作るから期待しとけ。」
    「ああ、楽しみにしてる。」
     ライナーはご機嫌になったジャンを抱き寄せると耳元に小さく口づけを落とした。ジャンは途端に離れ、頬を覆ったが逆効果だった。その仕草はあまりにも可愛らしく、ライナーの欲情をさらに煽るのだった。


     七月三十一日。
     消防士のライナーは翌朝までの宿直を終えれば二日間休みとなる。シフトの偶然だが、幸いにも、自身の誕生日はゆっくりと迎えられそうである。
     ジャンもライナーの誕生日は有休を取得したという。「今夜から諸々仕込みをするから、完成品を想像しながら宿直に励めよ!」と見送られたのが今朝だ。
     そんなジャンから何か途中経過は入っていないかという期待を胸に、ライナーは仮眠室のベッドに体を横たえ、九時間ぶりにスマートフォンを開く。
     その瞬間目に入ってきたのは、ジャンからの二件の着信履歴と三件のメッセージだった。
     ジャン自身、ライナーが消防士という職業柄しょっちゅう連絡は取れないことは知っている。そんなジャンがこれだけ連絡を寄こすというのは、違和感がある。
     ライナーの血の気が引いた。

     翌朝、朝礼と申し送りを済ませたライナーは野暮用を済ませ、大急ぎで帰宅した。
    「ジャン!大丈夫か!!」
    「…だからぁ、電話でも言ったろ。大丈夫だって。」
     リビングのソファに沈むような姿でタブレットPCをいじっているジャンの右腕には痛々しい包帯が巻かれていた。ライナーはジャンに駆け寄り、その右腕に触れる。
    「いっつ…!」
    「おい!大丈夫じゃないだろう。」
    「お前の力が強いからだよ!」
     昨晩、異常事態を察知したライナーが慌ててジャンに電話したところ、ジャンは病院から帰宅したばかりだということだった。詳しく事情を聴けば、金属美術品の接ぎに使う薬品に誤って触れてしまい、右手を火傷したという話だった。しかし実際見れば「右手」というよりそれは「右腕」という範疇だ。
     うっかり火傷する範囲ではない。
    「ジャン、お前誰かを庇ってこの怪我をしただろ。」
    「……さすがプロの消防だな。新人が薬の瓶を落としたんだよ!誰かの顔にかかるよりマシだろうが。」
    「お前なぁ…。」
     ライナーはがっくりと項垂れてジャンの体を抱き寄せた。触れるか触れないかの力でジャンの右腕をさする。
    「心配させるなよ…痛いだろう。」
    「まぁ…でも…ケーキ作れなくなっちゃってゴメン。」
    「そんなこと今はどうでもいい。」
     昨晩来ていた三通のメッセージも、いの一番で届いていたメッセージは「ごめん、ケーキ作れなくなった」だった。ライナーはそんなジャンのいじらしさに対し「心配」という感情と愛しさが同時にこみあげるような感覚を抱いていた。
    「全治三週間だとさ。ろくに仕事もできやしねぇ。一か月は調書作成と講演の手伝いだと。全くついてねぇ。自分で蒔いたタネだけどな。」
     ジャンはライナーの胸板に頭を乗せ、ため息をついた。ジャン自身も不安だったのだろう。ようやくライナーの顔を見て甘えが出せた様子だった。
    「だが、右腕だったのが不幸中の幸いだな。」
    「はぁ?!なんでだよ。俺の利き腕右だぜ?」
     ジャンは包帯を巻かれた右腕をひらひらさせて、ライナーの目の前に持ってきた。
    「個人的な事情だ。」
     ライナーはそう言って、自身の太ももに置かれたジャンの左手を取った。ジャンは不審げな顔で、自身の右手と左手に目線を泳がせる。
    「個人的に、決めていたことがあったんだ。今日渡そうって思っていた。」
     ジャンにうっかり見つからないようにわざわざ今日仕事の後に受け取りに行ったのだ。本来ならばまっすぐ帰宅したかったところだが、これを置いて帰宅はできなかった。
    「火傷が左手だったら、これがはめられなかったもんな。」
     そう言ってライナーは自身の手の中にあるジャンの左手の薬指に指輪を通した。
    「ジャン、いつもありがとう。俺はお前を知れば知るほど好きになる。お前が怪我をしたと知って居ても立ってもいられなかったが、お前が怪我をした理由を聞けばやっぱりお前が好きになる。だから、俺はお前と家庭を持ちたい。……つまり、結婚してほしい。」
     ジャンの薬指にばかり集中していたライナーは、おそるおそる視線を上げた。日常的なコミュニケーションから嫌われていることはないと思っている。しかし人生最大の告白はなかなかに一〇〇パーセントの自信を持てるものではない。ジャンにとって、恋愛は人生の中の一部だ。今は仕事に集中したいと言われれば、それを尊重する他ない。しかしフラれるのもツラい……。ライナーはこの無言の審議の間にどっと手汗をかく。
    「うそだろ。」
     ぽろりぽろりとジャンの瞳から零れ落ちる涙。その意味が「うそだろ」という言葉からは読み取りづらい。
    「ジャン、返事は…?」
    「これから毎年すっごいケーキ作ってやるよ!」
     ジャンは思い切りライナーに抱き着いた。…が、どうやら右手を思い切り動かしてしまったらしく、しばらくソファの隅で一人悶絶していた。
    「ジャン。」
    「うん?」
     ライナーはソファの隅に形を合わせて寝転ぶジャンに覆いかぶさる。その瞳は涙で潤んだままで、いつもよりきらめいて見えた。
    「お前が作るケーキやクッキーも甘くて最高だが…時々はお前の甘さも味わわせてくれ。」
    「へ?えっ…おい、お前!」
     ライナーはジャンの体を軽々と抱えると、寝室へ悠々と運んで行った。ライナーもわかっている、相手は怪我人だと。
     しかし…こんな甘い朝くらい抱き合いたい。
     ジャンもしばらくはぎゃあぎゃあと何か言っていたが、キスを一つ落とせば途端に素直になった。


    「お前の誕生日…アーモンドの花がきれいに咲く季節に式を挙げられたら良いな。」
    「ずいぶん計画的だなぁ。」
     ジャンは夏の日差しが差し込むカーテンの隙間に自身の左手をかざす。今朝までは無かった銀の輪が自身の薬指を覆っているのが見えた。
     お互いの肌の温度に触れ合いながら、真夏の光に身をよじる。
     この甘い時が永遠に続くようにと、ライナーはジャンの身体を自身の腕の中に仕舞い込むのであった。
     
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