Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    zu_kax

    @zu_kax

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 🍷 ☕ 💚 ❤
    POIPOI 33

    zu_kax

    ☆quiet follow

    15時までにキリがいいところまであげるぞ!!という感じで書いた 
    みゆとの(?)です!やんわりけんなゆあり

     ハロウィンが終わると街は一気にクリスマスの様相だ。少し前まで仮装の衣装やかぼちゃランタンで彩られていた店先は、色とりどりのイルミネーションやクリスマスツリーに早変わりする。
     芸能界も同様で、師走に近づくにつれて、年末年始の進行に合わせて、収録やら何やらは忙しなく駆け巡っていく。十二月になれば、年明けの特番を撮り溜める必要があるらしく、年が明けてもいないのに「あけましておめでとうございます」の挨拶をすることが多い、というのは先日飲んだ業界人から聞いた話だった。
     そういうわけで、十一月になると多いのが今年のベストヒットを紹介する特番の収録やら、ベストアーティストを揃えて行う生放送やら、そういう番組だ。ありがたいことにGYROAXIAは今年大ヒット映画の主題歌に恵まれたから、こういった番組に呼ばれる機会が増えていた。
     今年の新春に公開された映画「月光にゆれる」は、原作ファンだけでなく新規の客も取り込み、異例のロングヒットを続けて春ごろまで公開されていた。GYROAXIAはその主題歌として「WITHOUT ME」を提供しており、映画のヒットとともにこの曲も想定よりも多く売れたらしい。以降も那由多は新曲を精力的に発表し続けているが、音楽番組に呼ばれるとこれを歌ってくれと言われることが多かった。
     劇場版の主題歌として発表された曲ではあるが、「月ゆれ」のストーリーや歌詞も相まって、結婚式で歌われることが増えているという。今までのジャイロの曲調とは少し異なり一見穏やかなコード進行であることもその要因のひとつでもあるだろうが、「Welcome to my life」や「Take my hand tonight」といった歌詞が、将来を誓い合う結婚式にぴったりなのだという話だ。
    那由多がどういう意図でこの曲を書いたのか、なんとなく理解しているメンバーはなんとも言えない気分になったが、一番いたたまれないのは那由多と賢汰だからこちらが口を挟むことではない。
    おまけにその返答歌のような曲を賢汰が大学の課題で作り、それがSNSで拡散されたことも、ファンを大盛り上がりさせたものだった。仲良きことは美しきかな、なので、こちらとしては好きにやってくれという気持ちだ。
     高坂みはるとの熱愛報道で炎上した火種はすでに鎮火しており、GYROAXIAの活動も今まで通り順調だ。みはるは「月ゆれ」での演技が評価されて、来年の大河ドラマへの出演が決まっている。すでに公式サイトではビジュアルが出ているが、かわいい子は着物を着てもかわいいのだと実感した。
     みはるに限らず、アイドルグループ「Sweet Berry」もまた今年は昨年以上に飛躍の年になったらしい。朝のエンタメニュースでは今年の顔やらベスト○○に選ばれたという話題でスイベのメンバーが映っているのをよく見る。
     相変わらず那由多はみはるを敵視しているので、那由多が起きているときはエンタメニュースをつけることは無いが、夜型の那由多が朝のワイドショーをやっている時間帯に起きてくることはほとんどと言っていいほど無かった。

     なので、那由多は今日もこの場にSweet Berryのメンバーがいることに思い至らなかったのだと思う。界川深幸は、不機嫌に歪む赤い瞳を見て「あ~あ」と心の中で息を吐いた。
     今日は、今年のベストアーティストが勢ぞろいして歌を届けますという年末恒例特番の収録で、GYROAXIAもその一組として呼ばれていた。「WITHOUT ME」のほかに数曲を繋げて今年のヒットメドレーという体で披露することになっている。
     アーティストは全体で数十組以上が出演するため、収録も入れ替わり立ち替わり行われるわけだが、ピンポイントでSweet Berryのメンバーと収録時間が被ってしまったようだった。もしやその辺りもみはるが工作をしているのではないかと思ってしまうのは、少し訝しみすぎだろうか。みはるは那由多を嬉々としてからかうことで自らの仕事のモチベーションに変えているらしい。なかなかに極悪非道だが、かわいいので許される。かわいい子は得だ。
    他のメンバーがいる以上、そうそう那由多にちょっかいを掛けることは無いだろうが、同じ空間にいること自体が嫌なのか、那由多は機嫌が悪そうに舌を打っていた。賢汰に「なんであいつがいるんだ」と怒っているが、さすがの賢汰先生も収録順までは把握できていなかったのだろう。
    収録は機材調整と現場のカメラチェック中で、出演者は少し待機するよう言い渡されていた。いつ撮影が始まるかわからないので、楽屋に戻ることもできない。那由多は腕を組み壁にもたれかかると、賢汰に隠れるようにしてみはるを視界に入れないようにしていた。涼と礼音は楽器の調整と運指を確認しているようだ。
    「こんにちは、ご無沙汰してます界川さん」
     ヒールをココンッと鳴らしてこちらに近づいてきたみはるは、深幸にいつも通りにこりとほほ笑む。今日のステージ衣装はワンピースタイプのもので、胸元に黒いリボンが結ばれている。よく見るとメンバーそれぞれデザインが微妙に異なっているようだった。アイドルの衣装は統一感がありながらも、それぞれの個性が出る造りになっていてかわいい。ある種の造形美だと毎度感心してしまう。
    「久しぶり、みはるん。元気そうだね」
     みはると深幸は連絡先を交換して以降、ごくたまに連絡を取りあう仲だ。こういった番組でかち合うことも無いわけでは無かったが、きちんと話すのはそれこそ彼女をライブに招待したとき以来かもしれない。
    「はい、おかげさまで」
     多忙な毎日を送っていることは想像に難くないが、そんな疲れを微塵も感じさせない彼女は、今日もいつも通りの「高坂みはる」を演じている。
    「今年はアリーナツアーも成功させたんだって? すごいね」
     地下アイドルからの叩き上げで現在の位置を確立したSweet Berryは、今年は三大都市でのアリーナツアーを開催し、いずれも満員御礼だったという。個々のメンバーが様々なジャンルで活躍しているからこその成功だという話だ。
    残念ながら深幸はスイベのライブには行ったことが無いけれど、次にライブがあるときはみはるにチケットを融通してくれないか頼んでみようと思っている。パフォーマンスという点では彼女たちのライブに学ぶことは多いだろうし、きっとジャイロのプラスにもなるはずだ。それに、歌って踊るかわいい女の子を見るのは絶対楽しい。
    「ありがとうございます。GYROAXIAも野外フェスに参加されてましたよね。配信で拝見しました」
     今年はジャイロも春ごろにアルバムが発売されて、それを引っ提げたライブが各地で行われた。五月に開催された野外フェスは規模も大きく、札幌時代に出演したディスティニーロックフェスを思い起こしたものだった。フェスでは新たな試みとしてライブ配信も実施され、地方や海外に住んでいる人にも音楽を届けることができたのだった。アーカイブ配信もあったから、多忙を極めているみはるも見てくれたようだ。
    「ありがとね」と感謝すると「ファンなので」と胸を張られる。みはるは「月ゆれ」以降も様々な媒体でジャイロのファンを名乗ってくれていて、スイベからジャイロの曲を聞いたと流れてくるファンもいた。音楽性はまるで違うけれど、好きな子の好きなものを理解したいというファン心がそうさせるのかもしれない。そのままジャイロのファンとして根付いてくれるなら、みはるさまさまだ。
    「そういえば、アカデミー賞新人賞もノミネートおめでとう」
     ふと思い出して話題を振る。毎年3月頃に発表されるアカデミー賞は、年末に受賞者がノミネートされ、そこから最優秀賞が選出されることになっている。今年一年間に放映された作品と、そこに出演していた俳優が選考対象になる。「月ゆれ」のヒットを考えれば、主演女優賞もみはるが獲るのではと噂されていたようだったが、映画界としてはまずは新人賞からという評価らしかった。
    GYROAXIAもありがたいことに主題歌部門でノミネートされている。こういった表彰系のものに那由多は興味を示さないだろうが、やるからには一番で無いと気が済まないと思うから、最優秀主題歌賞を獲ることは那由多の中で決まっているのだと思う。
    「えへへ……なんか、身に余る評価をいただいてしまって、光栄です」
     照れたようにはにかむみはるに、深幸も頬が緩んだ。もともと演技の技術が高いことはファンには有名だったらしいが「月ゆれ」でその才能が全国区になった。今は大河の撮影に集中しているようだが、ドラマのゲストとして出演することも多いという。
    「この前のドラマもすごかったもんな~。幽霊の役、見ててゾクッとしちゃったよ」
     毎年オムニバス短編で放送されるホラー特番で、みはるは幽霊役として出演していたのだ。出演時間は少なかったけれどインパクトは大きく、テロップでみはるの名前を確認しなかったら、その幽霊を彼女が演じていたとは思えないほどだった。SNSでも「みはるん怖!!」と大きな話題になっていた。
    「見てくれたんですか? うれしい!」
     ぱっと明るい顔を向けられて、深幸も嬉しくなってしまった。彼女の本性を知らない男なら、コロッと落ちて然るべきだ。深幸は「高坂みはる」がどんな女の子なのかを知っているので、こういう顔を向けられてもかわいいだけで済ませられるが、そうではない男どもはイチコロだろう。おそらく他のスイベメンバーが傍にいなかったらこんな風にアイドル然としたみはるの顔は見れないので、深幸は心の中でメンバーに感謝した。
    「あの、」
     みはるの後ろから、おずおずと声を掛けたのは、Sweet Berryの姫島琴乃だった。ショートカットに切れ長の瞳。今日はワンピースと揃いの色のベレー帽を被っている。みはるはワンピースのスカートだが、琴乃はパンツスタイルにスカートが一体化しているような衣装だった。パンツドレスと呼べばいいのだろうか。薄っすらと透けたスカートの布地の先にパンツが見えていてドキリとする。
     彼女と会話をするのも、以前ライブに招待したとき以来だった。短いやり取りで嫌われてしまったのではないかと思っていたから、まさか向こうから声を掛けてくれるとは思わず驚く。
    「……琴乃ちゃん。久しぶり」
     にこやかにほほ笑めば、琴乃は恥ずかしそうに俯いて小さくうめいた。
    「野外フェスの配信、とのちゃんと一緒に見たんですよ。界川さんのドラム、かっこよかったって。ね?」
    「みっ、みはるっ!」
    まごまごしてうまく話ができない琴乃をフォローするように、みはるはそう言って後ろにいた琴乃に声を掛けた。話を振られた琴乃は、ボッと顔を赤くしてみはるに困惑した表情を向ける。言われるとは思わなかった、みたいな顔をしているということはその話は本当らしい。
    かわいい女の子に「かっこいい」と思われているのは、嬉しいことだ。テレビで見る彼女はいつもボーイッシュでかっこいい印象を受けるから、こんな風に照れているのは普通の女の子みたいでとてもかわいらしい。
    「ほんと? 嬉しいな」
     ニッと笑みを浮かべると、琴乃は視線を逸らしたままぽつぽつくちびるを開いた。
    「ドラムのこと、あたしはよくわかんないし、素人だけど……でも、あんたがニコニコしながらすごいことやってんのは、なんとなくわかる。あんたのドラムが、ステージを支配してる、みたいな……そんな風に思った」
     ひとりごちるように言ったその感想は、きっと琴乃の本心なのだろう。嘘の無い真っ直ぐな想いに、こちらまで照れてしまう。業界の人が付き合いで見てくれるときなんて、こんな言葉はもらえない。
     深幸はドラムのことが好きだし、他のバンドを見るときもドラムに着目することが多い。けれど一般的に、バンドで目立つのはボーカルと、楽器の中でもソロが多いリードギターだ。だから、素人だという彼女がドラムに注目してくれたのは、深幸にとってはとても嬉しいことだった。ドラムはバンドを支えるリズムの要だ。ドラムが無ければ「バンド」では無くなると、深幸はいつだって思っている。そういう想いを、琴乃が掬い上げてくれたみたいで、深幸はそれが嬉しかったのだ。
    「見つけてくれて、ありがとね。琴乃ちゃん」
     圧倒的な那由多のボーカルや、ソロパートのあるギターではなく、ドラムの深幸を見てくれた。見つけてくれた。心からの言葉を紡げば、琴乃は照れくさそうにそっぽを向いてぼそぼそと口を開く。
    「別に……お礼言われることじゃないし……」
     照れた様子の琴乃に、みはるは優しい目を向けていた。そろそろ機材調整も終わったのか、スタッフが慌ただしく準備をしはじめる様子に、視線をそちらに向ける。
    「みーちゃん、ことちゃん、そろそろ」
     Sweet Berryリーダーの櫛引弥生に声を掛けられ、二人とも頷いた。ジャイロの出番ももうすぐだろうし、深幸も準備をしなければならない。またね、と声を掛けようとしたら琴乃が小さな紙きれをこちらに寄越してきた。
    「……あげる」
    「え?」
     唐突に手渡されたそれに驚いていると、琴乃はふいっと背を向けてしまう。
    「とのちゃん! スタンバイするって~。それじゃあ界川さん、また」
    「うん、また今度ね」
     撮影の準備ができたのか、忙しなく持ち場に着き始めるスタッフに急かされ、みはるは琴乃に声を掛け、深幸にもぺこりと軽く頭を下げた。今日のところは周りの目もあるからか那由多には絡まなかったらしい。賢汰も内心ほっとしているかもしれない。
    「捨ててもいいから」
     一度立ち止まった琴乃は、レイヤードスカートをはためかせてぽつりと言った。こちらの返答を待たずに、さっさとスイベのメンバーの元に戻って行く。手のひらに残った紙片を開くと、細くて綺麗な字で、琴乃の名前と連絡先のIDが書かれていた。
    「深幸さん、そろそろ出番だから移動だって。……どうしたんだ?」
     ギターを提げた礼音に声を掛けられ、深幸は小さく息を吐く。頭を抱えていたから、不審に思われたのかもしれない。
    「モテる男はつらいなあ、礼音くん」
    「ハア? 馬鹿なこと言ってないで行くぞ」
     呆れた声で切り捨てられて、深幸は礼音の後に続いて移動をすることにした。
     あの子絶対俺のこと好きなんだよな……という言葉は、今は口にはしないでおいた。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    😍☺😭💖🙏👏👏👏💘💞❤💖🙏😍☺😭💖🙏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works