そういう日「疲れた」
受け取った一件のメッセージに、一瞬の沈黙。しゃーないなぁとウルフウッドは独り言ちると、微睡んでいたソファから腰を上げ、足早に玄関へと向かった。
どさり、ぼさり、と荷物を落とす不規則な音が近づいてくる。スマホから顔を上げたウルフウッドの目にはしょぼしょぼの金髪が映った。
「お疲れさん」
挨拶も無しにソファ、もとい膝の上へよれよれの金髪が倒れ込む。もぞもぞと落ち着く場所を探し始めたそれを、ウルフウッドはため息混じりに撫でた。
「勝手にクッションにすんなて」
膝上の主からの返事は無い。掛けたままのサングラスが当たって少し痛いが、致し方無しとウルフウッドは相手のいない会話を続けることにした。
「せや、ダメになるクッションってあったな?……おい、誰が無印りょーひんや」
膝に縋る草臥れた金髪が少し揺れる。ウルフウッドは優しくそれを撫でながら、独り言を重ねていく。
「晩メシに餃子作ったろ思たんやけど、包むんめんどくなってん。焼いたるし片付けもしたるから誰か手伝って欲しいわ」
「タバコ切れたからコンビニ行ってん。ほんで、たまたま新作のスイーツ見かけてまったから、なんかようわからんけど買ってしもたわ」
「あとな?間違えて甘ったるいコーヒーまで買うてまってな、うっかり屋さんやろ?」
「なんかワイ疲れとるさかい、めっちゃ甘やかしたりたい気分やねん。世話焼きしたいわーダレか甘やかされたいヤツおらんかなー」
縋り付いていた金髪が顔を上げた。嬉しいと悲しいを半分ずつ含んで潤む、碧い瞳の遠慮がちな視線がウルフウッドに向けられている。
「……それは、ボクでもいいでしょうか」
「先着一名様限定の早いもん勝ちや。ちなみに、募集条件はお疲れの金髪年上男性」
「……そういう事するんだから」
顔を赤らめ、恥ずかしそうに俯いたヴァッシュの頬に手を添える。額を合わせると、どちらからともなく唇を重ねた。
擽ったそうに笑っていたヴァッシュが忘れていたと、まっすぐこちらを見つめる。
「ただいまウルフウッド」
「ん。おかえりヴァッシュ」
ふにゃりと花を咲かせたヴァッシュに、ウルフウッドは満足気に微笑んだ。