ひと夏の こんな酷暑でもなければ、どこぞ遊び歩くことができたものを。
などと、あまり心にも無いことを言うものでもないかと体を捩る。じっとり汗ばんで張り付いたTシャツが気持ち悪かった。
暗がりの中で見失ったエアコンのリモコンを探る。カーテンを開ければいいのかもしれないが、それすら億劫だった。
ピピッ。ゴンッ。
「いった……」
リモコンを叩いた拍子に、ベッド横のテーブルに放り投げていたスマホが額を掠める。画面にはいくつかの通知を掲げていた。
主より早起きな彼の申し出を霞んだ目でなぞる。
「……ん?」
販促と自動通知の合間に、見慣れた名前を捉えた。
『十分後。よろしく。』
眠たい頭で考える。
約束とか、一方通行に投げられた言葉とか。彼との時間を思い返す。
果たして、彼との予定が今日、あっただろうか。
「……なんも、あらへんやろ」
思い返せど心当たりは何も無く、強いて言うなら今年の夏はどこも行けそうにないなと話したことくらいだった。
改めてメッセージを確認する。
ちょうど、十分前に彼から送られたものを。
「ウルフウッド!!」
呼び鈴より心地の良い声が呼び立てた。
時間きっかり。流石やな、と思った。
「へーへー」
体を起こす。気怠い足取りで向かう玄関が暑い。扉の向こうは快晴だろう。
「おはよう、お寝坊さん」
「……おん」
澄んだ碧空に迎えられ、目を細める。
きらきら。ふわふわ。
雲ひとつない青空に、彼の金の髪はよく映えた。
「なん」
「お出かけしよう」
「……どこ」
「キミは、どこがいい?」
「決めとらんのかい」
「決めてない」
にこりと太陽が笑う。
「だって、夏は待ってくれないから」
頭を搔いてため息を零してみれば、トンガリは楽しげに喉を鳴らした。
お伺いとか、話し合いとか。そのあたりすっ飛ばしてどうする、このわがままめ。
なんて、多少は思ったりもするが。
「五分。おどれは待てるやろ」
「うん。もちろん」
汗に湿った髪を梳いて踵を返す。
冷えてきた部屋の中を走り回って頭と体を叩き起す。それこそ、ほんの少しの無駄だって省きたいくらいに早回しで。
「慌てなくていいからね!ケガしないでよ!」
「わぁーっとる!!」
夏は待ってくれない。同じ夏は来ない。
彼との時間は。
「どや!五分きっかりやろ!」
「うん。でも、可愛いおみみが付いたままだよウルフウッド」
「……は?!」
一秒だって無駄にしたくない。